(第16章)予防

(第16章)予防
 
鋼牙は突然、現れた植物型のM-BOW(魔獣生物兵器
プラントE44に襲われている烈花に正気を保つよう呼びかけた。
「しっかりしろ!烈花!」
しかし烈花は徐々に暑さに耐えられず全身からじわりと汗を流した。
同時にやがて茶色の細長い蔓の先端の裏の注入器を通して
荒々しく膨らんだり、縮んだりを繰り返し、傷口から更に
大量の暑い液体の塊を何度も何度も注入し続けた。
烈花は徐々に荒々しく息を吐き、甲高い喘ぎ声に変化して行った。
「あああっ!あああっ!ああああっ!
ああああっ!あああっ!あああっ!あああっ!」
同時に彼女の魔導衣に覆われた
柔らかい丸い両乳房も前後左右に荒々しく揺れ続けた。
「ぐっ!仕方ありません!」
クエントは素早く両手でマシンガンを構えた。
「駄目よ!蔓が余りにも細すぎる!」
慌ててジルはクエントのマシンガンを降ろさせた。
「じゃ!どうすればいいのですか?このままじゃ!」
鋼牙は素早く赤い鞘から銀色に輝く魔戒剣を引き抜いた。
「うおおおおおおっ!」
雄叫びを上げ、烈花を襲ったプラントE44の蔓をスパッと切断した。
同時にプラントE44の蔓は何故か断末魔の叫び声を上げた。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
やがてプラントE44の蔓は茶色の液体となり、消滅した。
烈花は茶色の両瞳をうつろにしながら全身の力が抜け、
バタリと大の字に木の床に倒れた。
「烈花!」
「烈花さん!ああ……酷い……」
「直ぐに消毒して傷口を塞がないと!」
ジルは腰に着けていたバックパックから
消毒液とグリーンハーブの粉薬の袋を取り出した。
クエントは飲み水の入ったボトルをジルに渡した。
烈花の深い胸の谷間の皮膚に出来た吸盤状の無数の刺し傷を消毒した。
その後、ガーゼとテープで傷口を塞いだ。
彼女が正気を取り戻した事を確認した
のちにグリーンハーブの粉薬と飲み水を飲ませた。
ようやく彼女は全身の力と体力を取り戻し、
クエントの肩を借りて立ち上がった。
続けて無事、全員、隠し部屋からトムの自宅の外へ脱出した。
念の為、彼女はBSAA北米支部の医療施設へ運ばれた。
その後、彼女は詳しい精密検査を受ける事になった。
精密検査の結果、彼女はT-エリクサーに感染していた。
しかしT-エリクサーのワクチン接種を受けていたお陰で既に
彼女の免疫系の働きにより、
彼女の身体から大部分のT-エリクサーは排除されていた。
更に今後も宿主である烈花法師の身体の中には
T-エリクサーに対する免疫が出来き、
長期的な防衛機能が正常に働いている事も判明していた。
しかし彼女の体内には微量のT-エリクサーが残っていた。
どうやらウィルスの増殖をワクチン抗体で
抑制されつつも生き残っているらしい。
彼女の体内に注入されていた種子に似た構成の細胞もどうやら
また免疫機能により異物とみなされ、ほとんど排除されたと言う。
そんなBSAAの医療チームの丁寧な説明を聞いた
クエント、鋼牙、ジルはホッと胸を撫で降ろした。
どうやら秘密組織ファミリーが提供して貰った
T―エリクサーのワクチンはちゃんと効果があった様だ。
「よかった!これならあたし達も安心ね!」
「ああ、体内に微量のウィルスが残っても増殖しなければ安全だからな。」
鋼牙は大きく溜め息を付きある事を思い出していた。
 
少女の誘拐犯で御月製薬の研究員のトムの自宅に突入する数時間前。
T-エリクサーのワクチンが保管されているBSAA北米支部の医務室で
そのT-エリクサーワクチン接種を全員受けていた。
ジルは鋼牙にT-エリクサーのワクチンを
打つ為に金属製の注射器を取り出した。
「それを打つのか?」
「ええ、大丈夫よ!あたしうまいから!」
その時、鋼牙の指に嵌められていた
魔導輪ザルバが横からからかうようにこう言った。
「本当か?」
「失礼ね!注射器位!オリジナルイレブンのあたしだってね!」
「ああ、分った!分った!分ったから!早く終わらせてくれないか?」
鋼牙は少し顔をしかめた。
「まさか?注射は苦手?」
「そんな事は無いっ!!」
鋼牙は何故か平静を装いそう答えた。
「ふーん!じゃ!袖めくって!」
「あっ!ああ」
鋼牙はやれやれと首を左右に振り、黒い服の袖をめくった。
そしてジルはその上腕部をゴムチューブで縛った。
続けて血管が浮き出る様に平手でひじの裏をピシャピシャ叩いた。
「動脈注射よ!やった事は?」
「ない!」
「そう!大丈夫よ!直ぐに終わるわよ!」
ジルは鋼牙の腕に注射器の針を突き刺した。
ミニサイズの海水の様にシリンダーの中で赤くゆらりと血が上がった。
鋼牙は黙ってそれを見ていた。
ジルはそれを見届けてからピストンをゆっくりと押して行った。
オレンジ色に輝くT-エリクサーの
ワクチン液は鋼牙の血液の中に消えて行った。
ジルはそれを見届けてから全て打ち終わった事を確認し、針を抜いた。
「どう?」
「今のところ何とも無い!」
「よかった!生ワクチンだったから心配だったけど」
「何故?生ワクチンだと心配なんだ?」
「生ワクチンは弱毒したウィルスを体内に投与するの。
それで稀にそのウィルスに感染したかのような症状を起こすの!
ただこれから潜伏期を得て発症までに一日か二日
あるかも知れないから体調の変化・あるいは風邪の症状を
少しでも感じたら直ぐに教えて欲しいの!」
「ああ、分った!」
 
鋼牙はそこまで自分が生まれて
初めて受けたワクチン接種の思い出からふと我に返った。
「烈花もその生ワクチンとやらのお陰で」
「そうね!早めに打っておいて良かったでしょ?」
鋼牙はジルとクエントに深々と頭を下げた。
「本当に恩に着らせて貰う!」
「えっ?いいのよ!」
「私達同じ守りし者ですよ!そんな水臭い事を!」
クエントとジルは笑いながら答えた。
鋼牙は自然と笑みをこぼした。
しばらくしてクエントとジルは真面目な表情になった。
「現在!トムさんを殺害したと思われるバーク博士と
アッシュ博士についての身元を調べていましたが
どうやらかつての宿敵のアルバート・ウェスカー
が所属していた企業組織『HCF』の産業スパイだったようです!」
「一時期、アンブレラ社に敵対していた組織ね!」
「産業スパイとは?」
「恐らく御月製薬の競争相手の別の製薬企業か別組織に依頼されて
御月製薬のT-エリクサーとプラントE44の植物細胞のサンプル
を盗み出し、その別の製薬企業か別組織に売りこんだのかも知れません!」
「つまりどこか別の製薬企業か別組織がそのT-エリクサーと
プラントE44の植物細胞のサンプルを手に入れた!
だとしたら!マズイな!」
「早く手に入れた別の製薬企業と別組織を特定しないと!
それで早く取り戻さなければ!」
今日は珍しく慌てふためく鋼牙をジルは落ち着かせた。
「今は無理よ!第一何処の製薬企業や別組織かも分らないわ!
今から特定してももう間に合わないかも!」
「何故だ?」
「既に死の商人の手に渡っているかも!」
死の商人とは?」
生物兵器化学兵器、最近やウィルス兵器、
武器を紛争地域や別の製薬企業や別組織、
或いはテロリストに売って大金を稼ぐ人達の事です!」
「それではT-エリクサーやプラントE44の植物細胞が
テロリストや悪意のある連中の手に渡ったら!大変な事になるぞ!」
「こうなっては!魔戒騎士と魔戒法師の二人で手に
負える事件では無くなりそうだぜ!」
深刻な表情でザルバはそう言った。
 
(第17章に続く)