(第18章)接触

(第18章)接触バイオハザード7のネタバレ注意!!)
 
例の隔離死体安置所内でT-エリクサーの感染者として
変異し、植物人間と化したトムを再び死体に戻した後、
鋼牙はしばらく両手で銃を構えたまま茫然とした表情をしていた。
彼は口を固く結び、終始無言だった。
その時、横から静かにジルは語りかけた。
「行きましょう!烈花法師の様子を見に行かないと……」
「ああ、ああ、そうだな……」
静かな口調でそう言うと鋼牙は
ジルとクエントと共に隔離死体安置所を出た。
その背後であお向けに倒れて頭部を完全に失った植物人間のトムの遺体の
頭部を破壊された首の傷口から
人間の血液が床に流れ、大きな血溜まりを作った
3人は無言でBSAA北米支部の医療施設へ向かった。
3人は烈花の緊急の帝王切開手術が終わるのを無言で
ドアの前に並んで待っていた。
やがてプシューと空気が抜ける様な音と共に扉が開いた。
続けて入口に手術用の緑の帽子とマスクを
付けた茶色の濃い髭の中年医師が現われた。
「あのホルム医師!烈花さんは?烈花さんは無事ですか?」
「はい!無事手術は成功しました!」
「彼女の容体は?」
「はい!彼女の体内に残っていた微量のT-エリクサーも
種子細胞も無くなり完全に健康そのものです!」
「そう」
「良かったです!」
「やはりワクチンのお陰……か……」
鋼牙、ジル、クエントはホルム医師の説明を聞き、
ようやく安堵の表情を浮かべた。
やがて彼の助手のライザー医師と
偉い医師達が烈花のお腹から取り出した後に
安全の為、生まれた女の子の胎児は冷凍冬眠(コールドスリープ
のカプセルに収納され、運び出される様子が別の手術室の入口から見えた。
3人はすぐさま烈花のお腹から取り出された胎児を確認した。
「これは人間?」
「如何やら元気な女の子の様だぜ!」
「多分、彼女の抗体でウィルスの影響が抑えられたから……」
「…………」と唯一クエントは黙りこんでいた。
冷凍冬眠(コールドスリープ)カプセルには
人間の姿をした胎児がすやすやと眠っていた。
それからホルム医師は戸惑いを隠せない表情で
ジルに女の子の胎児の分析資料を渡した。
ジルはすぐさま分析資料に目を通した。
「烈花法師の子宮の内部で胚となり、そのまま急速に成長した胎児『R型』
はすぐさま遺伝子検査の後に冷凍冬眠(コールドスリープ)で保存した。
遺伝子検査の結果、やはり宿主となった烈花法師の遺伝子が
あの女の子の胎児に組み込まれているのが分かった。
またあの女の子の胎児から過去のアンブレラ社が起こした洋館事件に関する
ジルとクリスの報告書にあったプラント42に似た形の遺伝子を発見した。
恐らくT-エリクサーを投与されて
品種改良されたあのプラントE44のものだろう。
ちなみにプラント42シリーズは
空気中に有毒物質が含まれていても即座に順応する
環境適応能力に優れている為、BOW(生物兵器
として使用された場合少々厄介だろう。
またT-エリクサーの力も未知数である以上、
倒すのはかなり困難かも知れない。
実際、女の子の胎児にはある程度毒性が抑えられた
T-エリクサーが検出されている。
今後も悪意のあるテロリストや
組織の手に渡らぬよう厳重に保存する事にする。」
そしてホルム医師や彼の助手のライザー医師を初め、
他の偉い医師や看護婦達も秘密保持の為、あの女の子の胎児を
何処に厳重に保存したかについては鋼牙、ジル、クエント、
烈花本人にも一切口外する事はこの物語の最後まで無いだろう。
故に4人があの女の子の胎児が何処に行ったのかは全く知らなかった。
一方、烈花は最低でも3日はベッドの上で安静を言い渡され、
不満な表情をしつつも渋々、ホルム医師の指示に従った。
助手のライザー医師は急用でグアテマラに主張に行ったらしい。
  
BSAA北米支部の医療施設のリネン室。
烈花に最低でも3日はベッドの上で安静を言い渡したホルム医師は
両手両足を赤いロープで椅子に縛り付けられて拘束されていた。
目の前にはカブトムシの仮面を被った女性がいた。
しかもホルム医師の額にサイレンサー付きのハンドガンを突き付けていた。
カブトムシの仮面を被った女性はこう質問した。
「トムと言う若い男を殺したのはお前だな?」
ホルム医師は口を固く閉ざした。
「では『E-001』の移送作戦を指揮したのは?」
するとホルム医師は正直に答えた。
「ああ、私だよ!そして移送作戦に失敗したのも私の責任だ!」
「じゃ!あたしの家族を実験台にしようとしたのも!」
「それは違う!君の御両親が善意で
『E-001』と工作員の女を保護したんだ!
我々も私も君の家族を狂わせて命を奪うつもりは無かった!
予定になかったのだ!」
「このクズがっ!」
カブトムシの仮面を被った女性はサイレンサー付きの
ハンドガンを更に強くホルム医師の額に突き付けた。
「我々、組織もこのE型の事故を重く受け止めている!」
「それで?何か対策を考えた?とでも?」
「それは企業秘密だ!口外は禁止されている! つまり!
孤独な小娘一人が今更何をしようと……」
「無駄だと?馬鹿な男だね。あたしのコードネーム知っているかしら?」
「コードネーム?なっ!確か……BOW(生物兵器)や我々、HCF
を初め、他の組織の構成員殺しの異名を持つ者がいるとか……。
そうか!あんたのコードネームは『ガドル』……」
「そうよ、正解よ。あんたもあたしの家族を!
BOW(生物兵器)としてあんた達が利用しようとした!
あのエヴリンと言う名前の幼い子供の心を苦しめ!弄び!
命を奪った大罪を死んで償いなさい!」
続けてカブトムシの仮面を被った若い女性は何の躊躇も無く、
サイレンサー付きのハンドガンの引き金を引いた。
放たれた弾丸はホルム医師の額から後頭部を撃ち抜いた。
 
BSAA北米支部医療施設の隔離病棟の病室。
烈花はクエントに進められて渡されたゲームのチラシを読み、
そのゲームの発売日を楽しみにしていた。
烈花はチラシを折り畳み、近くの机に置いた。
そして久々に昼寝をしようと静かに目をつぶった。
やがて烈花の意識はゆっくりと
エレベーターを降りる様に眠りに落ちて行った。
烈花は暗闇の中、女の子の声を聞いた気がした。
「誰だ?何者なんだ?」
暗闇の中で彼女は問いかけた。
しかし返事は一切返って来なかった。
烈花は言い様の無い不安に駆られた。
彼女は不安でたまらなくなり、もう一度問いかけて見た。
「誰かいないのか?」
だが返事は返って来ない。
更に彼女の不安が重く圧し掛かった。
「誰か?返事してくれ!」
「誰……ママ……マ……ママなの?」
ノイズが混じった様な女の子の返事。
「俺は烈花だ!聞えているなら!答えてくれ!」
目の前にふっと一人の10歳の幼い少女が現れた。
自分に良く似た顔と容姿はまるで双子の様だった。
その10歳の幼い少女は緑色のワンピースを着ていた。
幼い少女の肌は灰色をしていた。
だが瞳は茶色で宝石の様に輝いていた。
「俺そっくりだな?まさか『R型』?」
「貴方から産まれたの。アールガタ?あたしの名前?
なんだか変な名前!ママが付けた名前がいいな!!」
10歳の幼い少女は甘える様な声でそう言った。
「そうだな」
烈花は心の中で色々な名前を思い浮かべた。
だがなかなか名前が決まらなかった。
それからようやく烈花はこう名前を付けた。『ローズ』と。」
「『ローズ』!いい名前!ありがとうママ!」
ローズと名付けられた10歳の幼い少女は笑顔で烈花にお礼を述べた。
そしてぺこりと頭を下げた。
「いい夢だったな。『ローズ』か」
ベッドの上でようやく目が覚めた烈花は夢の中に現れた
ローズと名付けられた10歳の幼い少女の事を改めて思い出した。
「『ローズ』絶対に忘れない!薔薇を意味する名前だ!」
 
(第19章に続く)