(第32章)体罰

(第32章)体罰
 
生物兵器保管庫の上層部のコントロール室では。
まさかハンターEYが完全に倒されるとは思っていなかったのだろう。
御月カオリ社長はコントロールパネルの画面の横のスクリーンで
鋼牙、ジル、クエント、烈花の手によってハンターEYがことごとく
返り討ちにされているのを見て呆然としていた。
やがて大きく彼女は深く息を吸い込んだ。
そして大声でこう喚き散らした。
「畜生!あたしの息子を!よくも!よくも!」
御月カオリは悔し紛れにコントロールパネルの画面を両拳で
ガンガンと何度も何度もパネルの液晶画面が割れて見えなくなり、
両拳の皮膚が大きく裂けて赤い血が流れ続けていても構わず続けた。
そして血が染み出た両拳を見つめていた。
御月カオリは悔しさと怒りで顔を歪ませた。
カオリ社長は両目に涙を浮かべ、シクシクと泣き出した。
ちなみに既に彼女の脳から大量のアドレナリンが分泌されていた為、
コントロールパネル画面を拳で何度も叩いても
全く痛みを感じていなかった。
「どうやら!随分と悔しそうだね!」
御月カオリは背後で声が聞え、振り向いた。
その生物兵器保管庫のコントロール室の入口に
最初の電話の予告通り、短い茶髪に黒いスーツと白シャツ、
茶色のネクタイを付けたジョン・C・シモンズが立っていた。
すると御月カオリは魚のようにギョロリと目を見開き、
怒りに満ちた甲高い声で叫んだ。
「何の用よ!この裏切り者!ゴミめ!」
「電話で言った筈だが……」
「あたしはまだ負けちゃいないわ!」
「例の究極の破壊の神かね?」
ジョンは何故か深く溜め息をついた。
「もう!ハチの巣の中を歩き回るのはこりごりなのだがね」
カオリ社長はフフッと笑い出した。
「魔王の癖に道に迷ったのね!」
カオリ社長は青いジャンバーに覆われた大きな
丸いお尻の右に付いているポケットに手を突っ込んだ。
「じゃ!あたしが迷えるこの劣性遺伝子共の世界から救ってあげる!」
次の瞬間、御月カオリはズボンからT-エリクサーの試験官が
備え付けられた小型銃を取り出した。
ジョンは無表情でなおかつ目にも止まらぬ速さで右掌を差し出した。
同時に差し出された右掌から黄色の稲妻が放たれた。
放たれた黄色の稲妻はT-エリクサーの試験官が備え付けられた
小型銃を粉々に破壊し、T-エリクサーを完全に消滅させた。
御月カオリは掌と手の甲を右手でぎゅっと抑えた。
彼女は小さく「熱いっ!」と悲鳴を上げた。
そして鋭い怒りと憎しみに満ちた茶色に瞳でジョンを睨みつけた。
「何故よ!救ってあげようとしたのに!」
その怒りの声にジョンは鋭い声で叫んだ。
「結構だ!ミズ・カオリ!僕は僕自身のやり方で救う!」
ジョンの鋭い声にカオリ社長は一瞬にして黙りこんだ。
「救うのは神でも選民思想者でも無い!自分自身の正義だ!
僕に救済は不要だ!僕は闘う!自由の為に!」
ジョンとカオリ社長は無言で睨み合った。
「クソっ!クソっ!どいつも!こいつも!あたしの救済を拒むなんて!
何故よ!何故よ!ただあたしは地球と人類を
良くしたいだけなのに!何故!邪魔なんかするのよ!」
カオリ社長はとうとう泣きながら本音を吐き出した。
「愚かな女だ!スペンサーもアルバートもアレックスも」
やがて一瞬の沈黙の後、ジョンは再び口を開けた。
「君とは過去にお付き合いをさせて貰ったが……」
すると御月カオリの怒りが再燃した。
「そうよ!6年前から貴方!あたしとベッドの上で抱いたじゃない!
なのに!なのに!なんで裏切りなんかを!!」
「君など!最初っから愛してなどいなかった。」
この衝撃的なジョンの発言に頭を
ガツンと打たれた様な強いショックを受けた。
「君にはアルバートの血がある!アルバートの血には始祖ウィルス、
Tウィルス、Gウィルス、Tアビスウィルス、Tベロ二カウィルス。
あとはCウィルスやAウィルスなどのウィルスに耐性がある!
ただ僕はそれが欲しかった。だから君を獣のように激しくバックや
抱きかかえたり、座ったりと色々セックスをして、
僕と君の子供を儲けるか?
もしくは君の抗体を含んだ血液を飲み、自らの体内に取り込みたかった。
でも!それも不要になったよ!僕には君よりも良い抗体を持つ人間の女が
手元に4人もいるからね!君は用済みだ!それに駒として扱い辛い。」
「あたしを!よくも!次の世界の神になるこのあたしを!
よくも!よくも!切り捨てたわね!許さない!殺してやる!」
御月カオリはコントロール室の床をドシンと踏み鳴らした。
続けて常人では考えられないスピードで走り出した。
御月カオリは再び固く拳を握りしめ、
右腕を振り上げて、腰を右に大きく捻った。
続けてジョンの顔面に向かって拳を突き出した。
しかしジョンは軽くフッと右に曲げて瞬時に回避した。
同時にジョンは目にも止まらぬスピードで右手を上げた。
バチイン!とジョンは御月カオリの右頬を強く叩いた。
御月カオリはその場で駒の様にグルリと一回転した後、
コロシアムの床にうつ伏せに叩き伏せられた。
御月カオリは真っ赤に腫れあがった右頬を左手で押さえた。
そして四つん這いになり、殺気に満ちた凄まじい茶色の瞳で
見下ろすジョンの無表情な顔を睨みつけた。
「リンゴは嫌いかね?」
「リンゴが何なのよ!」
「リンゴはキリスト教の聖書では禁断の実、
つまり知恵の実と生命の実のモデルなのさ!
アダムとイブは知恵の実を食べ、YHVAによって楽園を追われた。
君達人間、いや全人類は一人一人必ず原罪を抱えて生きている。
特に女性であるエヴァは自らの身体に知恵の実を隠し持っている。」
ジョンは御月カオリの背後につかつかと歩み寄った。
続けて御月カオリの背後でしゃがんだ。
バチイイイン!と何かを叩く大きな音が聞えた。
御月カオリ社長は自分の青いジーンズに覆われた
大きな形の整った丸いお尻に強い痛みを感じた。
「きゃああああああん!」と御月カオリは高い声で叫んだ。
ジョンはニヤニヤと笑い、こう言った。
「僕の最初の愛人は同胞でもあり、日本人でね!
日本では悪い事をするとお仕置きにお尻を何度も叩くそうだ!」
ジョンは御月カオリの青いジーパンに覆われた大きな丸いお尻を
交互にバシッバシッと容赦なく力を込めて何度も叩き続けた。
御月カオリはお尻の鋭い痛みで哀れにも泣き叫んだ。
 
御月カオリ社長を逮捕するべくクエントと烈花は一度、
生物兵器保管庫を出て、下へ続く道と上へ続く道のところで
鋼牙とジルと分れてこの下層の御月カオリがいると思われる
上層部のコントロール室を目指した。
狭い通路をはようやく大人一人が一人か二人が入れる程、
非常に狭く烈花とクエントは横に歩き続けた。
クエントは難なく抜けたが、何故か烈花は自分の大きな柔らかい両胸が
引っ掛かり、しばらく時間がかかったもののどうにか抜け出した。
目の前には『関係者以外立ち入り厳禁』
と書かれた看板が付いたドアがあった。
更にいきなりこの『関係者以外立ち入り厳禁』
と書かれたドアの中から御月カオリの泣き叫ぶ声が聞えてきた。
しかもバシッ!バシッ!と何かを叩く音が何度も聞えた。
「なっ!なんだ?」
「一体?まさか?ジョンさん?」
烈花とクエントはいきなりの妙な出来事に戸惑った。
しかしとにかく御月カオリを逮捕しなくてはいけない!
二人の心の中にはその重大な任務も思い出した。
烈花は魔導筆を両手で構え、クエントは法術が込められた
弾丸が装填されたコルト・パイソンを両手で構えた。
 
(第33章に続く)