(第37章)復活(ラザロ)

(第37章)復活(ラザロ)
 
「どうして?あんな事をしたの?あたしの娘が!
こんなのを見たら?!何てことをしてくれたのよ!」
ジルはアナンタを鋭い視線で睨みつけた。
アナンタはフフッと笑って見せた。
「それは君の事を愛していたからさ!」
しかしアナンタの答えにジルは声を荒げた。
「嘘おっしゃい!あたしは!あんたの事なんて!
これっぽっちも愛していないわ!」
ジルの答えにアナンタは動揺するどころかますます口を歪めた。
そして一層ニタリと笑って見せた。
「君が僕を愛しているとか?愛していないとか?
そんな事!どうでもいいのさ!僕は君の肉体の感触。
君の喘ぐ声、リンゴの様に紅潮した君の肌が忘れられなかった。
それに一回しただけじゃ!僕は満足出来なかったんだ!
だから君の部屋に忍び込んで何度もセックスをさせて貰ったよ!
さっき君が思い出したのをほんの一部に過ぎないのさ!」
ジルは顔を紅潮させ、恥ずかしそうに無意識の内に両腕で
自分のBSAAの服に覆われた柔らかい大きな丸い胸をムギュッと隠した。
アナンタは話を続けた。
「僕は力があり余っていたんだ!そして君は!
僕達メシア一族のカルキ(救世主)であり!
ヴィシュヌの様な存在でもある!
だから君ともう一度セックスをし、君の身体に僕の力を流し込んだんだ!
そう!あり余った分をね!そしてあり余った僕の力の
ほとんどは君の子宮の中に流れ込み、子を成した。
是非!息子の名前を『シェーシャ』と名付けて欲しい!
君が望めばだがね!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ジルはアナンタの話を聞き、複雑な表情を浮かべ、黙り込んだ。
それを鋼牙は心配そうにジルの横顔を見た。
しばらくの沈黙の後、ジルは静かに口を開いた。
「なんで?貴方まだ子供でしょ?」
するとアナンタはクスクスと笑い、こう返した。
「僕が初めて君とセックスをした時ね。
君の汗ばんだピンク色に染まった肌をした裸体がとても美しかった。
同時に僕は君の熟した肉体に興味があったのさぁ。
だから昨日の夜にまた君を抱こうとしたんだ!」
そのアナンタの純粋な答えに鋼牙はこう口を挟んだ。
「成程!あんたはまるで……」
続けて魔導輪ザルバも口を挟んだ。
「思春期に性に興味がある人間の青年の心と良く似ている」
「ただの好奇心だったのね……でも!貴方のした事は……」
「僕のした事が悪い事?セックスが悪い事なのかい?」
「別に悪い事じゃないわ!」
ジルはアナンタの質問に何処かそっけなく答えた。
そして無意識の内にジルは自らの下腹部をさすった。
「でしょ?君!僕と話が合うね!僕もそう思うよ!」
間も無くしてアナンタは大きくシャーと声を上げた。
すかさず魔導輪ザルバは警告を再び発した。
「ジル!鋼牙!気お付けろ!来るぞ!!」
ジルと鋼牙はそれぞれ武器を構え、身構えた。
「さあー長話も飽きて来たし!そろそろ闘おうか?」
アナンタは巨大な花に似た形の頚部を広げた
コブラの頭部の周囲に花弁の様に
千の頭部を持つ、コブラ状の頭部の付いたオレンジ色の鎌首を持ち上げた。
アナンタは千のオレンジ色に輝く眼でジルと鋼牙を睨みつけた。
更に千の口を一斉に開き、
2対の細長く鋭利な牙を剥きだし、大きく吠えた。
「キシャアアアアアアアアアアアアッ!」
そのアナンタの千の咆哮は巨大コロシアムの
分厚い銀色の壁に一気に反響した。
鋼牙とジルはアナンタの千の咆哮により、それぞれ黒味を帯びた
茶色のポニーテールと短い茶髪は強風で逆立ち、パタパタとなびいた。
その時、鋼牙とジルは内臓が酷く撹拌される
様な不快感に襲われたが気にも留めなかった。
 
地上・BSAA北米支部の聴取室。
例の売春宿襲撃事件に関連してある人物から
BSAA北米支部を訪れ、情報提供を受けていた。
その情報提供者に対応しているのはもちろん
現場に行ったクエントと烈花だった。
情報提供者は女性で『売春宿襲撃事件の解明の為の情報を提供する』
とBSAAのマツダ代表に直接連絡を受けたらしい。
そして聴取室の椅子には情報提供者の女性が座り、
反対側にクエントと烈花がそれぞれ椅子に座って向かい合っていた。
情報提供者の女性の名はダ二アと言うらしい。
特徴は20代くらいの若い女性で両頬まで伸びた
茶髪のショートヘアーに茶色の瞳、少しピンク色の肌をした丸顔。
今回は真っ黒なコートを着ていた。
黒いシャツからは白い肌をした深い胸の谷間がチラチラと見えていた。
「実はジョン・C・シモンズについてだけどー。実はー。そのー。
9年前にエイダ・ウォンと言う名前の中国人女性と会っているのをー。
しかも頻繁にね。それを知ったディレック・C・シモンズによってね。
一度、背中や全身をめった刺しにされて殺されたの……」
「はっ?ハハハハッ!まさか?嘘でしょ?」
「嘘じゃないわ!あたしは現場で全身を刺されて
血塗れになった彼の死体をこの目で見たのよ!」
ダ二アは茶色の瞳を指さした。
「まさか?生き返ったのか?」
烈花の質問にダ二アは頷いた。
「正確には生き返らせらたの!」
「生き返らせた?どうやって?」
「あたしが考案した『ラザロ処置』で。」
「ラザロ処置とは?」
「彼の死に納得が行かなかったあたしと仲間10名が
ディレックとその部下達から彼の遺体を強奪して、
秘密の場所で大量の輸血とアメリカで認可されていない強心剤を
含む様々な薬品と人工呼吸器に高圧電流を流す改造電気ショック機を
使って彼を生き返らせたの!でも彼は昔の彼じゃなかったの!」
ダ二アは苦悶の表情を浮かべた。
「と言うと?つまり生き返った彼は?」
「彼が言うには自分の魂はあの世でも無かったって!!
つ、つ、つまり、つまりね。真魔界という場所にいたって……」
「まさか!あんた!」
「彼の魂は魔王ベルゼビュートに食われていた?」
「そうよ!既に喰われていたって!それで人工呼吸器から!
黒い霧が出て来て!彼が生き返ったのよ!」
「成程な!恐らく生に執着する人間の陰我に反応して、
人工呼吸器が魔界と現世(こちら側のバイオの世界)
を繋ぐ門(ゲート)になったのだろう。」
「つまり彼はホラーに憑依されて生き返ったと……」
「あたしはIQ220の超天才児だけど!
あれはどうしてもあたしの頭脳じゃ原因は特定できなかった!」
「そう、それでその後、どうなった?」
するとダ二アは再び苦悶の表情を浮かべた。
両手で頭を抱え、両目は涙で潤んでいた。
「あたしの仲間を喰ったの!空腹だったから……。
あたしと2人の仲間を残して9人全員!それから!あいつは!
あたしの仲間の女性2人にこの事実を隠ぺいするよう脅されたわ!
あたし達の手によって!この事実は隠ぺいされたのよ!
あいつは私達の約束通り。それ以降は私達に危害を加える事は一切無かったの」
「酷い話ですね。でも約束通り危害を加えなかったとね。」
「あいつ!そんな事を!」
烈花とクエントは強い憤りを感じ、ほぼ同時に両拳を握りしめた。
それからダ二アが帰った後、BSAA情報班による調査により、
ダ二アのフルネームは『ダ二ア・カルコザ』で現在、
HCFの上層部に所属している事が明らかとなった。
 
(第38章に続く)