(第41章)蜘蛛軍団の襲撃

(第41章)蜘蛛軍団の襲撃
 
「どうなっているんだ!全く!」
烈花は僅かに走る痛みで顔をしかめた。
クエントもさっきの手榴弾の爆風で吹っ飛んだ時に
白い床に叩きつけられ、左膝と右肘を強く白い床に打ちつけ、
少し動かす度に軋むようにキリキリと痛んだ。
2人はハアハアと荒い息を吐き
慎重にT字型の通路の左側と物陰から出た。
どうやら今度は増援が来る事は無く
T字型の通路は不気味な程、静かになっていた。
クエントは「うわっ!」と危うくプラントデッドから流れ出た
大量の血で足を滑らし、転びそうになった。
烈花は慌ててクエントの背中を押して支えた。
クエントと烈花はT字型の通路の縦の部分の白い床の上に広がっている
プラントデッドの血で足を滑らせないように注意しながら
武装しているプラントデッドの死体に近付いた。
クエントは武装しているプラントデッドの死体と
大量の血液からジェネシスを使って遺伝子を分析した。
結果、奇妙な事にプラーガーの遺伝子も検出された。
更に反メディア団体ケリヴァーの女性メンバーと
思われる多数の遺伝子を検出した。
どうやら通常のプラントデッドと
人間の女性の混血種だと言う事が判明した。
故にクエントはHCFの人体実験
(但しリーと仲間達で直ぐに行えるかは不明だが)
で遺伝子操作に必要な材料として反メディア団体ケリヴァーの
メンバーの女性達が利用された可能性をまず考えた。
「もしかしたら?何処かでプラントデッドの遺伝子を利用して
改良されて実戦データの得る為に意図的に放ったのかも?」
「俺は恐らく『R型』が反メディア団体ケリヴァーの女性と
プラーガーの遺伝子を利用してあれを創ったのでは?」
「ですがあの子はまだ10歳です。幾ら戦争映画やアニメを
観たとは言え、そこまで真似出来るものでしょうか?」
「しかし奴らが現われる直前『R型』が明らかに!
俺達を罠にかけようとしていた!そう!あの声だ!」
「うーんですが」とクエントは半信半疑だった。
2人はT字型の通路の右側のドアを開けた。
その先は小部屋になっていて細長い階段の先は
男子トイレと女子トイレになっていた。
ちなみに周囲は白いタイルに覆われていた。
また小部屋の中央には身体をバラバラにはされていないものの首筋から
大量の血が床に滴り落ち、血溜まりの中で息絶えた大男がいた。
クエントが遺体を調べるとどうやらプラントデッドに首筋の
頸動脈を食い千切られて出血多量で
息絶えたらしく彼の手には大きな瓶があった。
どうやら彼はプラントデッドに襲われた時に両腕で
この大きな瓶を抱えた状態でそのまま死んだようだ。
クエントは慎重に死後硬直で固くなった彼の両腕を外した。
そして彼が抱えていた大きな瓶を回収した。
大きな瓶の中には既に死んでいる奇妙な生物が入っていた。
「どうやら新種のクリーチャーに間違い無さそうです。」
「まるでクモだな」
烈花とクエントは大きな瓶の中の新種のクリーチャーを観察した。
その奇妙な生物もとい新種のクリーチャーの大きさはアナウサギ
(愛玩用のペットとして一般に飼育されているカイウサギの仲間、
ペットショップでよく見かける。)程のデカさで緑色の紐飾りのついた
黄色の体色でまるで競馬の騎手のようだと烈花は思った。
眼球は存在しており、つぶらで可愛い黒い瞳だった。
そしてやたらに関節のある12本の細長い植物の
茎の様な脚が縮こまって曲がって丸くなっていた。
頭部は4枚の真っ赤に輝く花弁が大きくバカッと開いていた。
そして内側に折り畳まれるように綺麗に収容された。
無数の牙の中央に4つの細長い緑色の蔦が伸びていた。
その時、2人は天井裏で小さな物音を聞いた。
やがて天井のダクトの穴から20匹余りの
スパイダープラントが次々と落下して来た。
そして落下して床に落ちた20匹のスパイダープラント達は
一斉に縮めていた12本の脚を伸ばした。
続けて床をコロコロと転がって起き上がろうとした。
しかし12本の脚が伸び切り、
起き上がるまで待つ程、クエントは親切では無かった。
すかさずクエントは落ちてきた順にマシンガンで一匹残らず撃ち抜いた。
たちまち全ての個体は爆散し、次々と倒されて行った。
やがて今度は天井のダクトから遅れて落下して来た1匹の
スパイダープラントのが12本の脚を
素早くカサカサと動かして移動し始めた。
そして猛スピードで烈花の近くまで走り、その場で止まり、
烈花の下半身に向かって大きくジャンプをした。
そして頭部の花弁をバカッ!と開き、飛びかかって来た。
烈花はハンドガンを出来るだけ床に向かって
銃口を両手で向けて、引き金を引いた。
放たれたハンドガンの弾丸は飛びかかって来たスパイダープラントの花弁の
中央に直撃し、バチンと弾き飛ばされ、仰向けにひっくりかえった。
そして「ピイイイッ!」と言う短い断末魔の声を上げた後、息絶えた。
烈花は目を丸くして黙って見ていた。
クエントは烈花が倒したスパイダープラントをジェネシスで分析した。
「どうやら無数の牙はあくまでも外敵から身を守る為で捕食目的ではなく
むしろ本来の花と同じ生殖に特化した突然変異体のようですね。
しかもプラーガーの遺伝子も色濃く残っているようです。」
「本来の花って?花は生殖器なのか?」
「はい!本来、我々が良く目にする花は生殖器なんです」
「じゃ?口や両手足が葉っぱで胴体は?」
「そうですね!地面の中の茎と根と葉はそれぞれ。
根は口、両手足が葉、胴体は茎でしょうかね?」
「ふーん!じゃ!植物は逆立ちで暮らしているのか?」
「まあー人間に例えるなら逆立ちしているのが普通の暮らしでしょう。
私には頭に血が昇りそうですが……」          
やがて天井の僅かな隙間から
何かが落ちたので烈花は反射的に両手で受け取った。
見ると掌の上にもう一枚のメモが貼られた
ピンク色のスマートフォンがあった。
クエントはそのメモをピンク色のスマートフォン
四角いボディから剥がし、烈花と一緒に読んだ。
メモの内容はどうやらHCF所属の研究主任が残したもののようだ。
「スパイダープラント(正式名称はプラーガー・タイプ4)
このプラーガータイプ4は以前から常連客の金持ちの男が女好きであり、
ガーデニングが趣味だと言うらしく。
彼の意向でこの新型のBOW(生物兵器
プラーガータイプ4の研究開発がやや強引に進められた。(良い迷惑)
プラーガータイプ4は以前、組織を裏切ったリーの夫のライザー博士と
バーク博士が回収したプラントE44の植物細胞のサンプルと
プラーガータイプ2の細胞をT-sedeusa(シディユウサ)
の力を用いて結合させ、人為的に培養し、産み出された。
このタイプ4はプラントデッドと
蜘蛛を融合させた新種のプラーガーとして誕生した。
プラーガータイプ4は主に人間の女性の
子宮に体内で生成した寄生体を植え付ける。
植え付けられた寄生体は直ちに宿主となった女性の卵子に寄生し、
妊娠、人間の胎児と同様に時間を(現在は改良により短い)
かけて子宮内で成長し、出産される事で産出される。
そして宿主と遺伝子交配し、人間に近くなったソルジャープラントデッド
は軍事訓練や戦略知識を得て指揮官の命令に従い、軍事作戦を展開する。
なお完成したスパイダープラントは既にこのHCFの仮説研究所前の
倉庫にコールドスリープ(冷凍冬眠)状態で保存されている。
ダ二ア・カルコザ主任。」
更に烈花が先へ進むとメモの通り、四角い倉庫となっていた。
四角い倉庫の周囲には既に
コールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルが開いていた。
恐らく『R型』が解放し、あのソルジャープラントデッドや
スパイダープラントは彼女が操っていたのだろう。
 
秘密組織ファミリーの回収ヘリ内の自室。
ジョン・C・シモンズは『R型』の脳の一部に移植された
軍用チップの新しい解析データが届いたのでモニター画面で見ていた。
『流氷の堕天使ちゃんをお空高ーく高―く飛んで行って。
高いお空の風に乗せて飛ばすのー。えーっとね。何だったっけ?
難しい言葉だったなあー。かいりゅうたいめんだっけ?』
つまりあの子は対流圏界面からT-sedusa(シディユウサ)を散布し、
拡散したウィルスは偏西風に乗って中国や日本、韓国、北朝鮮等のアジア
や我が国のアメリカ合衆国、ヨーロッパ、
あらゆる世界にウィルスが広がり、
世界中の何十億人もの人間達が感染するそれが君の計画だね。
ジョンはヘリに備え付けられている白い電話の受話器を手に取った。
「あっ!もしもし!HCFの衛生管理部門部長の
アレクサンダー・マイクですか?
こちら秘密組織ファミリーの長のジョン・C・シモンズだ!
件の密約の通りに我々が技術協力して開発したHCFが所有する
対ウィルス兵器人工衛星サハクィエル』の起動準備を要請させて貰う。
こちらでは対BOW(生物兵器人工衛星
『レギア・ソリス』の起動準備をさせる。」
「構わんよ!こちらも君の密約の要求通り
サハクィエル』の起動準備に入る。
今回はE型事故の調査を終えたし、大勢の反メディア団体
ケリヴァーの女性メンバー達を卵に変質させたプラントデッドの変異体。
リー・マーラが女王ヒルシイナと接触して身籠った胎児。
プラントデッド変異体と接触したダニア・カルコザのクローンの
ヘレンは卵に変質せず、胎児を身籠ったのでそれも無事に回収出来た。」
するとジョンはそれ以上、彼と話をする事無く直ぐに電話を切った。
 
(第42章に続く)