(第23章)事故

(第23章)事故
 
烈花とクエントは茶色の扉の赤いカーペットが敷かれた
コの字型の長い廊下を走り続けた。
そして2人の背後を20cm余りの緑色の短い蔦状の
植物の蛭の群体が執拗にまるで巨大な津波の様に追い続けていた。
しかも余りの勢いにより、天井や両壁、床をまるで鑢の様に
激しく削り取り、猛スピードで進み続けた。
バリバリバリと騒がしい大きな音がコの字型の長い廊下に響き続けた。
2人は息を切らせ、床の血溜まりを走り抜け、
長い廊下を走り続ける事、数分。
長い廊下の曲がった先の茶色の扉をクエントと烈花は体当たりで開けた。
そして中に素早く飛び込み、バン!と茶色の扉を閉めた。
間もなくしてドガアン!と言う大きな衝突音がした。
同時に洋館の2階全体が地震の様に大きく上下に揺れた。
「うおぅ!」
「おわっ!」
烈花とクエントは余りの揺れの大きさに身体が
トランポリンの様に上下に撥ね、バランスを崩した。
気が付くと二人は尻餅をついていた。
そこはあの細長いコの字型の廊下だった。
壁には大きな山の絵があった。
また手すりの付いた階段があり、クエントと烈花の記憶が正しければ。
下の階に逆T型の廊下があって
中央に物置部屋があった筈だ。多分であるが。
烈花は何が気になったのかまた茶色の扉をそっと開けた。
コの字型の長い廊下は外側の扉と茶色の壁。
さらに赤いカーペットが敷かれている床は大きく削れ、
熱で燃えて真っ黒なマジックで書いた様な長い一直線が続いていた。
そしてコの字型の下部の長い廊下の奥は行き止まりに成っていて、
あの20cm余りの緑色の短い蔦状の植物の蛭の群体はどうやらそのまま
行き止まりの壁に激突して、一階部分の
遥か地下に向かって落下したらしい。
行き止まりの壁の茶色の木は粉々に破壊され、
真っ黒な巨大な穴が開いていた。
間も無くして『R型』と思われる女の子の甲高い笑い声が響いた。
「キャハハハハハハハハハハハハハハハッ!」と。
「これは『R型』の悪ふざけだな……」
烈花はそう呟くと再び茶色の扉を閉めた。
クエントに彼女は「『R型』の悪ふざけだ」と伝えた。
クエントは大きく溜め息を付き、困った表情を浮かべた。
「全く!悪ふざけにしては度が過ぎますよ!」
クエントと烈花はまた下の階に続く手すりの付いた階段を降りた。
そしてまた逆T字型の細長い廊下に向かった。
一度、休憩でもしようかと中央の廊下の壁に
ある物置小屋の茶色の扉の前に立った。
すると烈花が物置小屋の茶色の扉の真横の壁に
メモが貼ってあるのに気付いた。
烈花が手に取ってメモの内容を確認した。
「これはっ!どうやらクエントの推測は当たっていたようだ!」
烈花は慌ててクエントにメモを見せた。
メモには「『E型』事故調査委員会メンバー』と書かれていた。
更にメモの続きにはー。
「アレクサンダー・マイク
(HCFの衛生管理部門部長)
 
ダ二ア・カルコザ博士
(HCFのBOW(生物兵器)及びウィルス兵器開発研究員主任)
 
ザビエ・キングスレ
(HCF特研部災害対策委員会議長)
 
ブレス・マドセン
(HCFの保安部長)
 
ちなみにもう知っていると思うけどあのライザーもAIの女のリーも
『E型』事故調査委員会のメンバーじゃなくただの社員。
あとリーとメールで頻繁に連絡を取っていたマイケル・ケイラーって
男も同じで彼はHCFのBOW(生物兵器)商品サービス管理責任者の人。
以上!これがさっきまであたしが調べたのよ!すごいでしょ?
だってあたしは
いや、もう人間じゃないけれど人間の心はちゃんと残っているよ!
きっとシイナもそうだと思う。それじゃ!いずれ合流しましょう!
クエントと烈花へ。ゾイ・ベイカーより。」
「成程、やはり今回の『R型』の暴走は……」
「最初からHCFやグローバル・メディア企業。
ホワイトハウスの米民主党下院多数党内幹事のフランシス・スペイシー氏。
そして殺人鬼クレーマータック。
彼らが協力してこの『R型』暴走事件を仕組んだ。」
「いやー少なくともHCFやグローバル・メディア企業。
民主党下院多数党内幹事の彼が仕組んだ可能性はあります。
ただそこに殺人鬼クレーマータックが関わるなんて理由が曖昧です。
幾らなんでもまさか?殺人鬼まで用意する必要が?」
「色々と……えーと……その利害が一致したんじゃないのか?」
クエントは頭が混乱し、顔をしかめた。
そしてうーんと頷き、坊主頭を掻いた。
もう、頭の中がゴチャゴチャになってきました。
どう推測していいのか?見当が……。
烈花も頭を抱えた。
俺もだ!少なくともグローバル・メディア企業と
その米民主党多数党内幹事のフランシスが関わっているのは何となく……。
「いずれの理由であれ、『R型』の暴走事故を装って彼ら
反メディア団体ケリヴァーを潰そうとしていた事は確かでしょう。」
「うーん、分ったのもこの位か?」
「もう少し調べて見ましょう!」
烈花とクエントは一度、物置部屋で武器や弾薬や持ち物を確認した後、
物置小屋を出て、また手すりのある階段を昇り、
細長いコの字型の廊下に出た。
そして山の絵が飾ってある絵を通り過ぎた。
続けて2人は細長いコの字型の廊下の中央にある
茶色の扉を慎重に回し、ゆっくりと開いた。
烈花とクエントは慎重に中へ入った。
中は茶色のカーペットが敷かれており、
右と左右にそれぞれ別の部屋があった。
目の前には立派な白い角を持つ鹿の頭部の剥製が飾ってあった。
2人はまずは右の扉に近づいた。
そしてまた茶色の扉のドアノブを掴み、慎重に回した。
続けてギィーと扉が開いた。
中に入るとそこに大きな棚が置かれており、
近くのハンガーには何も掛けられていなかった。
前方側の机には書き掛けのメモ帳が置かれていた。
壁にはカブトムシやクワガタ等の昆虫の標本が飾られていた。
クエントは昆虫の標本をじっと見ていた。
一方、烈花は机の上に一枚のメモを見つけた。
さっきテラスだと思った実験室に閉じ込められていた
シャーロット・デューレが残したメモだった。
「私は御月製薬北米支部の極秘研究所『ハイブ』で働いていた研究員。
反メディア団体ケリヴァーのリーダーの若村に御月製薬の
不正事件に関わっている幾つかの証拠を持っていて弱みを握られた。
だから若村のバイオテロに協力している。
けれど私は若村の間違った排除思想には興味はない。
だってシイナとはSNS(ソーシャルネットサービス)
で知り合ったかけがえのない恋人だから。
メディアの排除は間違っている。
私はシイナに別れ話を持ちかけられた。
悲しかったけど。万が一『R型』が暴走した時、
私はワクチン使ってシイナを助ける。
そして『R型』もあの子はまだ10歳。
人殺しの道具のまま死なせたりはしない!
あの子も助けないと!だから一部のワクチンを洋館のXの宝箱に隠したわ!
私が死んでも誰かがXの宝箱からワクチンを探して、
シイナや生存しているメンバー『R型』と投与して生命が助かる様に。
(但し元凶の若村は除く『R型』を人殺しの道具にした)」と。
 
(第24章に続く)