(第52楽章)血の薔薇(ブラッディローズ)の闇の刻印

(第52楽章)血の薔薇(ブラッディローズ)の闇の刻印
 
ジルはその酷い前世のジャンヌダルクの記憶を思い出してしまい、
顔を真っ青にして恐怖の余り、両腕で自らの身体を抱きしめてブルブルと震えた。
同時にパタンと日記は床に落ちてしまった。鋼牙は日記を拾い上げた。
今まで黙っていた魔導輪ザルバはやれやれと声を上げた。
「さっきジルの前世の記憶の思念がこっちにも来た。
全く酷い連中だぜ!イギリス人の看守達がジャンヌにレイプをしていた。
あいつら本当に最低な連中だな。」
「なんて事だ。まったく許せない奴らだな。」
鋼牙も無表情でありながら怒りを感じていた。
それから今でも両腕で体を抱きかかえて震えている
ジルに出来るだけ落ち着いた口調で話しかけた。
「大丈夫か?安心しろ!それはただの記憶に過ぎない。
あんた自身は何でもない。肉体も無事だ!」
ジルも唇を震わせて絞るような声でこう返した。
「もう、もう、ジャンヌの前世の記憶なんか……でも……」
ジルは日記の方が気になってしょうがないらしくチラチラと青い瞳で見ていた。
鋼牙はそれを察して日記を手渡した。
ジルはおっかなびっくり日記のページを開き読み始めた。
「私の名前はジャンヌ・ダルクです。
私はフランス東部の農村で生まれ育ちました。
私には恋人がいます。名前は少し変わっていて。
ドラキュラ伯爵と言います。
私はバレル公領の村のドンレミに住んでいます。
私は彼と会って色々話したりしている内に恋をしました。
ある日、彼は村を襲ってきた別の国の兵団をあっと言う間に
見た事も無い剣術で全て打倒してくれました。
私は彼の美しい剣術に魅入られ、私に剣術を教えてもらい。
お互い競っていました。村人も好意的で両親も同じだった。
 
(1424年)私は12歳になった。
この日一人で屋外を歩いていた時に大天使ミカエル、アレクサンドリアのカタリア、
アンティオキアのマルガリータの姿が現れて。「イングランド軍を駆逐して
王太子をフランスへ連れて行き、フランス王位に就しかめよう」と告げられた。
私はしばらく悩み続けた。私にそんな事が出来るのか?
一人悩みドラキュラ伯爵にも相談出来なかった。
私は体の変化にも戸惑ってもいた。私は彼に興味があった。
そう、彼の身体に。彼も私の身体に興味があった。
私は彼と初キスを交わした。あと自分の胸を触らせたリ、お尻を触らせたりした。
私は何をしているんだろう?
私は『フランス国を救わないといけない!神の教えに従って!
これは天使の命令だ!やり遂げなければ!』。
だから彼との付き合いは後回しにする。
ドラキュラ伯爵御免なさい。私には天使と神様が。
 
(1428年)私は16歳の頃に親類のディラン・ラソワに頼み込んで
ヴォークルールへと行った。そして当家の守備隊長であり、バル公の後継者の
ルネ・ダンシュの顧問官のロベール・ド・ボードリクール伯に会ったけれど。
バカにされて笑われて追い返された。
その時は凄く悔しくて悔しくて落ち込んでしまった。
だからいつもの農家の物置小屋の中で泣いていたら。彼が現れたの。
彼は私の話を聞いて悩みを真剣に聞いてくれた。
あと自分やフランス国の未来や運命についてお互い議論を交し合った。
そうこうしている内に私の中で決心が徐々に固まって行った。
あと同時に自分の未来を考えた時に隣にドラキュラ伯爵がいて。
私は。私は。もう一度キスをした。
今度の舌を入れて長く長く。そしてたまらずに服を脱いで
彼は私を仰向けにしたり、獣の姿で抱いてくれた。
とても気持ち良かった。悔しさも悲しさも寂しさもみんな消し飛んだ。
翌朝、私は大変な事に腹に子が宿ってしまった。私は困り果てて大騒ぎした。
それから私はドラキュラ伯爵と両親の助けで無事に女の子を産んだ。
私は貴族や国王に隠れて赤ん坊を育てました。
だから赤ん坊を育てるのに戦いどころじゃないの。天使様!どうかこの子に幸せを!」
「まさか?ジャンヌダルクとドラキュラ伯爵の間に産まれた女の子って?
昨日の夜に私の娘アリスとトリニティが家の窓越しで話した女の子って?」
「つまり幻想郷の紅魔館の主のレミリア・スカーレットの妹さ!
まあー血は繋がっていないから義理の妹か?」
「だがレミリアは本当の妹のように彼女を愛していた。」
「そうだったな。ちゃんとした家族だったな」
鋼牙と魔導輪ザルバはそう話して笑っていた。
ジルも思わず口元が緩み、笑い出した。
「そうなんだ!なんかよかった!安心した!」
恐らく前世のジャンヌダルクの影響だろう。彼女はとても安心した表情になった。
それからジルは再び青い瞳でジャンヌの日記を読み始めた。

「(1929年)オルトレアン包囲戦で我々フランス軍が勝利し、
イングランド軍は撤退した。久々に許しを貰ってドンレミに帰って来た。
ドラキュラ伯爵と娘に出会う為にだ。すでに言葉も覚えていて。
ちゃんと食事もとれるようだ。しかも元気で安心した。
戦場ではふと心と身体が疲れ果てた私にとって唯一の楽しみだ。
娘は不思議だった。人とは少し違う。娘の背中には2対の翼がある。
月光に当たると七色のクリスタルがキラキラと輝いて美しかった。
けれどなかなか他の子と遊ばないらしくいつも独りだった。
でもかつて敵同士だったレミリアとは凄く仲が良くまるで
本当の妹のように可愛がってくれた。
レミリアもお姉さんのように娘にとても優しかった。
私はこの子の未来が楽しみだった。
私は戦場を生き抜いて!!あの娘の為に!!
頑張らなきゃ!私は娘を愛しているわ!レミリアも!!
私達家族がいつまでも幸せでありますように!アーメン!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジルはしばらく押し黙った。どこか寂しそうな悲しそうな表情をした。
「そう、でも私はイングランド軍に捕まって……」
ジルは静かに青い瞳から涙を流した。
流れた涙は両頬を伝って上顎にまで流れて行った。
それを見ていた鋼牙は白いスーツの赤い内側から大きな銀色の懐中時計を取り出した。
鋼牙は茶色の瞳で銀色の懐中時計の針をじっと見ていた。
「発動まであと10秒前。9秒前。8秒前。7秒前。6秒前。」
「何が発動するの?ねえ?ねえ?何なの?」
「5秒前。4秒前。3秒前。2秒前。1秒前。発動!!」
鋼牙が声を上げた瞬間、突然、ジルの身体に異変が起こった。
「うっ!何?急に身体が暑くっ!全身の細胞の賢者の石がッ!」
やがてジルの全身からいきなり真っ赤な光が放たれた。
顔は両頬も紅潮し、深い胸の谷間も紅潮した。
ジルの脳裏では魔女王ルシファーと魔神ヴィシュヌは
「成程!」「フフフフッ!とうとうあれが発動したか?」
「なっ!何なのよ!これはっ!うっ!心臓がっ!呼吸が苦しいっ!」
ジルは激しく心臓が高鳴り、荒々しく息を吐き続けた。
やがて黒みを帯びた茶髪の白髪の部分が全て消失した。
顔の40代年相応の皴や瞼の緩みが急速に消え去った。
同時に元の20代の年相応の若い潤いのある張りに戻って行った。
また若々しい肌は全身に広がり、たるんだ大きな丸い両胸や大きなお尻も
さらに引き締まり、若々しい張りへと戻って行った。
一方、ジルの全身の細胞内に潜んでいた賢者の石は一斉に活動を始めた。
更に大量の熱エネルギーを放出し、更に賢者の石の内部に眠っていた
始祖ウィルスが目覚め、彼女の全身の全ての遺伝子の傷や写し間違いを元通りに修正し、自らの生存と生殖に適した若々しい健康状態まで遺伝子を再生させた。
そしてジルはかつてのSTAS(スターズ)
に所属していた頃の20代の歳まで若返り、しかも賢者の石が
細胞内に遺伝子に存在するテロメラーゼと言う酵素永遠に分泌し続ける
新たなテロメラーゼ遺伝子が組み込まれ、更に始祖ウィルスは彼女の
細胞増殖を促し続けた。これによりジルの全身の細胞は不死化した。
更に賢者の石はミトコンドリアと同じように全身の細胞で活性化し続けていたので
老化も完全に停止していた。間も無くしてジルはカッと瞼を開けた。
同時に彼女の両眼には若返る前よりも更に強い生気が宿り、らんらんと青く輝いた。
ジルは両目から赤い眼光を放った。そして彼女の額には真っ赤な
血の薔薇(ブラッディローズ)の刻印が現れた。
続けてズドオン!と言う大きな爆発音と共に周囲に真っ赤な
イバラの棘の輪の形をした衝撃波が放たれた。鋼牙は咄嗟に両腕を組んでガードした。
白いコートに覆われた両腕はイバラの棘で切り裂かれた。
両頬の真っ赤に輝く模様は薔薇の形をしていた。
全身は真っ赤に輝くオーラに覆われていた。鋼牙は両腕を降ろし、ジルの姿を見た。
「やはりジル!人を超えてしまったか?」と魔導輪ザルバ。
「まだ人間だ!人はまだ超えてなんかいないぞ!」
鋼牙はムキになって魔導輪ザルバの言う事を否定した。
ジルは赤いオーラも消え、赤い瞳も青い瞳に戻った。
「何があったの?えっ?鏡を見てくれって?んっ?」
ジルは鋼牙から手渡された鏡を見た瞬間、しばし無言となった。
やがて絞るような声で鋼牙にこう言った。
「嘘?20代まで若返っている?どうして美魔女に?」
鋼牙は戸惑い驚き、訳が分からず動揺しているジルに
しっかりと丁寧に落ち着いた口調でこう説明した。
「これは魔神レミリア・スカーレットとあんたの前世のジャンヌの娘の
魔人フランドール・スカーレットがジャンヌに火刑を処された後に現れた
ジャンヌの魂に闇の契りを交わし、刻印を刻んだんだ!
そうジャンヌに危害を加えた多数のイギリス人の看守達。
ルーアンの独房を監視していたイギリス人の兵士達。
ジャンヌを裁判にかけた異端審問官達、イングランド人の牢番達。
彼女を暴行したイングランド人の牢番やイギリスの看守に。
あとはジャンヌが不利になるように12の罪状を改ざんした宣誓供述に
すり替えてジャンヌに署名させた裁判関係者、不特定多数の人間達を
生贄として大量の血を集め、それを生命の源としてジャンヌの魂に刻印を刻んだ。
これにより、ジャンヌの火刑が行われた広場は大パニックになった。」
ジルは顔を真っ青にしてそれを聞いていた。
 
(第53楽章に続く)