(第46楽章)最強の魔導ホラー散る。仲魔を願う優しき少女アリス。

(第46楽章)最強の魔導ホラー散る。仲魔を願う優しき少女アリス。
 
「グオオオオオオン!グルルルッ!ガアアアアアアッ!」
尊師は今までの人間らしい威厳と余裕の感情をかなぐり捨てて
狂ったような獣の咆哮を上げた。
それをジルの家の中の窓から見ていたアリスは尊師が空中にいる
魔人フランドールに襲い掛かる姿を見て恐怖を感じ、甲高い悲鳴を上げた。
両眼には涙を浮かべていた。
「キャアアアアアアアッ!食べないでえええっ!」
「おわあああっ!」とダーマ。
「あっ!あっ!ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!」とモトキ。
一方、ジルの家の外の空中では尊師は魔人フランドールを捕食し
水から魔人ホラーの力を取り込み、最強となり、魔導ホラーの
プライドと意志を取り戻そうとした。
金城様の後を継ぎ、魔王ホラー・ベルゼビュートの首を取り、
ニューヨークを支配する為に。
尊師はガバッと巨大な無数の牙の並んだ口を開けた。
そして口内からだらしなく涎を流し、まさに飢えた獣のように襲い掛かった。
まるで赤ずきんを食べる悪い狼のように。
しかし赤ずきんである筈の魔人フランドールはそんな尊師に対して
無表情で鋭い視線を向けていた。
同時に魔人フランドールは目にも止まらぬ速さで前転した。
続けて小さな身体よりも遥かに長い燃え盛る神の大剣
『レーヴァティン』を勢いよく右斜めに振り下ろした。
スパアアアアン!と言う空を切る音が鳴った。
尊師は大口を開けて獣のように唸り続けた。
しかし突然、彼の目線は右斜めに大きくズレ始めた。
「そんな……バカ……なっ!……この私がッ!」
やがて尊師の魔戒騎士の狼か龍に似た禍々しい銀色と赤の全身の鎧に覆われた
身体はいとも簡単に一刀両断され、左右に離れて行った。
魔人フランドールは容赦なく燃え盛る神の大剣『レーヴァティン』を
目にも止まらぬ速さで右斜め、左斜め、右斜め、左斜め、右斜めに振り回した。
尊師の身体は熱で切断されたかのように綺麗にバラバラに切り刻まれた。
続けてトドメに右手を差し出し、掌から真っ赤に輝く獄炎を勢いよく噴射させた。
噴射した真っ赤に輝く獄炎はバラバラになった魔導ホラー・尊師の身体の破片を
全て飲み込み、完全に焼き尽くして灰化させた。
これにより魔人フランドールの手によって尊師は完全に消滅した。
魔人フランドールは右手首をクルクルと回転させ、燃え盛る大剣『レーヴァティン』
を振り回し、まるで鞘に納めるように背中に移動させると消失した。
全ての戦いが終わった魔人フランドールは
そのまま空中からコンクリートの床に着地した。
それを観戦していた魔人ホラー達、マザーハーロット、ぺイルライダー、ホワイトライダー、レッドライダー、ブラックライダー、トランぺッターは口々に
魔人フランドールと魔導ホラー尊師の戦いの感想を述べた。
どれも全て魔導ホラー尊師に対してとても辛辣だった。
「ヤハリ!自ラノ道ヲ模索出来ナカッタカ!」
「ツマラヌ奴メ!自ラノ意志スラ示セヌトハ!」
「所詮!操リ人形ハ!操リ人形ダッタカ!」
「クダラヌ!人形遊ビジャッタナ!何モ面白ク無イ!」
「魔人フランドールヨ!イイノカ?アリスト話ヲシナクテ?」
「でも……私とあの子は時代も世界も違うわよ……」
一方、家の中でモトキに両腕を抱えられていたアリスは彼に静かにこう言った。
「御免!モトキ君!降ろして欲しいの!あの子と話がしたい!」
「えっ?あの子って?さっきの凄い力の女の子と?」
モトキは僅かに顔を強張らせていた。
彼はあの子が危険が無いのか心配だった。
しかしアリスはモトキとダーマを安心させるようにこう言った。
「ええ、大丈夫よ!あの子や黙示録の四騎士や死の天使達は対立している
さっきの悪魔達を殺すのが目的!あたしたちはむしろ守られているわ!」
アリスは窓の外を指さした。
つられてモトキとダーマが窓の外を見ると確かに薄く
赤く輝く壁のようなものがチラチラと見えた。
「あれって?何?薄い壁みたいのがあるけれど……」
間も無くしてバチン!と音を立てて壁は消失した。
アリスはこう説明した。
「あれは家の周囲に張っていた強力な結界だったの。
あの対立していた悪魔達からあたしたちと家を守る為に。
しかも私達には無償で何の対価も無く」
「そっ!そうなのか……黙示録の死神達が僕達の味方をしてくれたんだ!」
「(ダーマ様の名言)確かに死神が人間の味方になると心強いな!
するとアリスとモトキはハハハッと笑い出した。
アリスはモトキフローリングの床に降ろして貰った。
それからアリスはそのままゆっくりと歩を進めて窓に近づいた。
家の外の窓には魔人フランドールが立っていた。
魔人フランドールは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そして家の外の透明な窓から赤くらんらんと輝く瞳でアリスを見ていた。
しかしアリスは今回は怖がるような様子は見せず
榛色の瞳で魔人フランドールを見ていた。
魔人フランドールはゆっくりと家の外の窓に手を置いた。
同時にアリスもゆっくりと家の中の窓に手を置いた。
「貴方の名前は?何であたしと同じ賢者の石を持っているの?」
アリスが家の外の窓越しから問いかけた。
すると魔人フランドールはおずおずと口を開き、こう答えた。
「あたしの名前は幻想郷の魔人フランドール!貴方!多分気付いていないと
思うけどあたしと同等の量の賢者の石を持っているのよ!知らなかった?」
魔人フランドールは「てへっ」とぎこちなく笑った。
「貴方と同じ?そんな事って?」とアリス。
「貴方は完全に力に目覚めていないのよ!
でも今は目覚めなくていい力よ!この力は強大過ぎるから!」
「そーなんだ」
アリスの天真爛漫な笑顔を見た魔人フランドールは彼女が今後どんな人生を。
そしてそんな運命を送る事になるのか心配になった。
やがて魔人フランドールは真剣な表情をした。
そしてしっかり真っ赤にらんらんと輝く瞳でしっかりと
アリスを見据えるとゆっくりと口を開いた。
「いい!えーと名前がなんだったっけ?」
「あっ!御免!言うのを忘れてたわ!あたしの名前はね。
『アリス・トリニティ・バレンタイン』よろしくね!」
「こちらこそ!それで真面目な話だから良く聞いて!」
「うん!分かった!んっ!あれ?なんか身体が少し熱い!」
「まって!もしかして?あたしの中の魔人の賢者の石の力と
貴方の賢者の石の力が共鳴しているの?ちょっと!まって!大丈夫なの?」
「うん!実は大丈夫なの!正気も自我も何も変化ないの」
やがてアリスの黒みが掛かった茶髪のポニーテールの髪は美しい蒼に輝いていた。
更に榛色の瞳も黄色にらんらんと輝き、黒い瞳孔は猫のように細長くなった。
間も無くして両手から蒼く輝く電撃がパチパチと流れ出た。
やがてフワリとまるで無重力の中にいるように宙に浮いた。
「全身から賢者の石を放出して無重力の膜を……」
魔人フランドールは驚きつつもアリスを見ていた。
すると魔人フランドールとアリスの会話に割って入るように
もうひとつの人格トリニティの声が聞こえて来た。
「アリス!その魔人ウラーヌスの力は今の貴方に一切の制御は出来ないわ!
早く元に戻って!あの子と賢者の石の力が共鳴しているだけよ!
まだここで目覚めるべき力じゃないわ!」
「うん!分かった!」とアリスは賢者の石の力を抑えた。
すると両手の蒼く輝く電撃も無重力の膜も消えた。
そしてアリスはストン!とフローリングの床に着地した。
同時に元の黒みを帯びた茶色のポニーテールの髪とキリッとした眉毛。
榛色の瞳も元の人間の黒い瞳孔に戻った。
一応、アリスの姿は戻れたようだ。
魔人フランドールはアリスが誰と話しているか分からずキョトンとしていた。
勿論ダーマもモトキも同じだった。そこでアリスは説明した。
丁度ダーマにもモトキにも説明していなかったし。
実は自分の一つの頭蓋骨の中に二つの人格。
つまりアリスともう一人のトリニティがあると。
いわゆる姉妹のようなものだと思っていいとも言った。
本来は自分の人格が危険な状態、命の危機になると無意識の内に
もう一つの人格のトリニティに助けを求めると。
その人格と交代し、アリスを危険な状態、命の危機から守ってくれると言う。
ちなみにトリニティは自分より物凄く頭が良くて賢いらしい。
ママが言うにはかつて自分の宿敵だって言っていた
アルバート・ウェスカーって超人と同等の力を持っているらしい。
間も無くしてアリスは潜在的にすごい力を持っている事に喜んでいた。
「魔人フランドールちゃんと同等の力を持っているなんていいなぁっ!
いつもお姉ちゃんのトリニティの力ばかり目立っていたから!」
アリスは思わず笑い嬉しそうな表情をしていた。
魔人フランドールはフフフッと思わずつられて笑い出した。
勿論、2人に悪気は無い。心が純粋なだけである。
「まあ、一応子供だもんね。」とモトキ。
「でも子供が持つには余りにもヤバすぎるよな」とダーマ。
モトキとダーマもお互い顔を見合わせ、力なく笑った。
やがて魔人フランドールは背中越しに静かにこう言った。
「もう!行くわ!早くここから立ち去らないと!」
すると家の中でアリスはこう叫んだ。
「貴方!私の友達になって!また会えるわよね!」
その魔人フランドールはアリスの叫びにこう応えた。
「その友達は親しくなれないから無理なの。
もう貴方とは会えないと思う。だってあたしと貴方の世界は違うもの。
貴方の家の窓は絶対に崩れることの無い『ジェリコの壁』だから。」
「でも!あたしは貴方と友達になる!貴方はいつも寂しそうだから!
自身の能力のせいで一人でしょ?お友達はいるの??」
アリスの言葉は魔人フランドールの胸に突き刺さった。
「いいえ、一人じゃないわ!私には仲間がいるの!たくさん!たくさん!たくさん!」
「じゃ!あたしも仲間になるもん!一度自分が決めた事や
言葉には最後まで責任を持つってままに教わったもん!」
そのアリスの純粋な想いに魔人フランドールは大きく心を動かされた。
魔人フランドールが気が付くと小さな背中を震わせていつの間にか
両頬を紅潮させ、口をぐっと閉じ、両眼の下からぽろぽろと涙を流し続けていた。
 
(第47楽章に続く)