(第51楽章)闇の魔獣ホラー達の誕生と中世の時代に埋もれし闇の歴史

(第51楽章)闇の魔獣ホラー達の誕生と中世の時代に埋もれし闇の歴史
 
こちら側(バイオ)の世界から飛び出した赤黒いタコに似た触手によって捕らえられて
異世界に引きずり込まれたOLの日本人女性はしばらく意識を失っていた。
やがて静かにゆっくりと瞼を開けた。そして小さく唸った。
彼女の名前は『水野沙也加』。そして目覚めた沙也加は目の前の光景に驚いていた。
「何?……これ?」と彼女は呟いた。
目の前は恐らくさっき取り込まれた赤黒色の粘液の内側の空間なのだろう。
真っ白なただただ広大な空間の中でそこには今までニューヨーク市内各地や
秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷の地下で捕らえた
多数の若い女性達がふわふわと浮かんでいた。
それはロシア系アメリカ人、ドイツ系アメリカ人。
フランス人と日本人のハーフ、巨乳のアメリカ人。
あのNSA(アメリカ国家安全保障局)の女スパイ。
彼女達は様々な人種の日本人、ロシア人、イラン人、韓国人、ドイツ人。
ブラジル人、アフリカ人、カナダ人、オーストラリア人、中国人の
美しく若く健康な女性達に交じって意識があるらしく寝ぼけた顔をしていた。
「ここはどこ?ここって何だろう?会社に行かないと……」
沙也加はまたそう呟いた。しかし目の前に何かが現れた。
『それ』は震えながら絶えず膨張する真っ赤に輝くオプアート
(錯視の知覚心理的カニズムに基づいて特殊な視覚的効果を
与えるよう計算された絵画作品のジャンルの事)状の複雑な模様に
覆われたオレンジ色の球体の姿をしていた。
しかも口と言う場所も頭部と言う場所も存在しなかった。
『それは』神々しく見えるがとても不気味に思えた。
『それ』の正体は魔王ホラー・アブホースの本体である。
やがて魔王ホラー・アブホースは急に不気味に動き出した。
オレンジ色の球体の真っ赤に輝くオプアート状の模様が一斉に無数の触手に変形した。
続けて無数の触手に変形した真っ赤に輝くオプアート状の模様は
自らの中に取り込んだ多数の女性達に向かって伸びて行った。
勿論、沙也加にも。彼女は状況が呑み込めずに「えっ?」と小さく声を上げた。
しかも沙也加はいつの間にか全裸にされている事に気付いた。
「えっ?何で裸なんだろう?どうして?」
と沙也加は訳が分からずただ周りを見渡した。
不意に顔を下に向けた時、『それ』に何されるのか理解した。
何故なら自分に向かって伸びて来た真っ赤な触手が
自分の下腹部の方にあったからである。
やがて沙也加はふと昨日のある記憶を思い出した。
昨日の夕方会社帰りに立ち寄った図書館で昆虫の本を読んでいた
一人の純粋な少年がたまたま同じ場所のテーブルで有名な作家の
小説を読んでいた沙也加にこう質問をした。
「ねえ?昆虫や動物ってなんで交尾するの??」
沙也加はいきなりの少年の突飛な質問に直ぐに答えを返せなかった。
更にその純粋な少年はこう質問を続けた。
「どうして?昆虫や動物や人間に雄と雌と女の人と男の人がいるの?」
沙也加は純粋な少年の更なる質問にますます混迷を極めた。
「赤ちゃんと卵はどうやって産まれるの?どうしてママから産まれるの?」
沙也加はどう答えたらいいのか分からず、赤い縁の眼鏡のレンズの奥の
茶色の瞳をグルグルと回転させ、何度も唇を噛み、うーんうーんと考え続けた。
しかも少年は純粋な笑顔で沙也加の困っている顔をじっと見て、答えを待っていた。
そして沙也加は辛うじてある答えに行き着き、こう答えた。
「生きた証を残す為。自分がこの世界(バイオ)で生きたと言う証を残す為なの。
あと沢山の人がいなくなったら。寂しいから。ひとりぼっちだと。
動物もあたし達人間も生きて行くのが辛いし、寂しくて死んじゃうから……。
誰にも相手にされずに常に孤独で……生きた証がないまま死ぬのが辛いから……」
「そうなんだ。だから!みんな男と女は惹かれ合うんだね。ありがとう。」
「いいのよ。でも今は私は一人でも平気なの……だから……」
「じゃ!将来!お姉さんのお婿さんになる!そうすれば寂しくないでしょ?」
「んっ?あっ!ありがとう」と沙也加は少しだけ嬉しそうに答えた。
それを思い出したと同時に沙也加は強い性的快楽を感じ始めていた。
徐々に彼女の全身は暑くなり、両頬と深い胸の谷間は紅潮した。
やがて大きな丸く柔らかい両乳房も徐々に激しく早く上下左右に揺れ続けていた。
彼女は両瞼を閉じ、徐々に高まる激しい身を
焦がすような性的快楽で気持ち良くなった。
沙也加は荒々しく息を吐き、甲高い声で喘ぎ続けた。
「はああっ!はああっ!ああっ!あああっ!はああっ!ああっ!ああっ!」
それから僅か一分後、沙也加を含む多数の女性達の下腹部は一斉にまるで
妊娠したかのように大きく膨らんだかと思うと一人の女性から多数の大きな
真っ黒なホラーの卵をどんどん産み落とし始めた。
その間、多数の女性達は陣痛によって苦しそうに呻いた。
さらに多数の女性達は歯を食いしばって下腹部の激痛に耐え続けていた。
沙也加は慣れない陣痛に酷く苦しんだ。しかし不意に自分が生きた証を残せるのでは?
私は孤独な女。周囲に流されるがまま生きて来た。
もう自分は寂しくないのかも知れない。
相手が人間では無い訳の分からない『それ』だったとしてもー。私は……私は……。
「ううっ!ううっ!あっ!産まれる!産まれる!ああっ!いたあっ!痛いっ!」
沙也加の周りの女性達も同じように大きな真っ黒なホラーの卵を産み落とし続けた。
沙也加から産み落とされた大きな真っ黒のホラーの卵はやがてプカプカと
上へ上へと昇って行った。赤黒色の粘液の水面に多数浮かんだ。
間も無くして沙也加から産まれた多数の真っ黒なホラーの卵は全て割れた。
そして卵の中から素体ホラーが出現した。その特徴は。
太い昆虫の脚のような2対の長い触角。
ごつごつとした真っ黒な身体。
背中から純白の鳥に似た天使のような右翼。
黒い蝙蝠のような悪魔に似た左翼。
大きく反り返った鼻。両目は死人のように真っ白な濁った眼だった。
それから真っ黒で細長い10対の指と短い爪を伸ばした。
そして無数の牙と歯を剥き出してとても嬉しそうに甲高い声で鳴き続けた。
やがて多数の素体ホラーの群れは赤黒色の粘液の外の洞窟に似た
空間の岩場に現れた時空の歪みを通って素体ホラーの群れは
次々と真魔界に向かって飛び去って行った。それはまるで巨大な竜巻のようだった。
理由は他の秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷の地下で
捕らえたメイド達とNSA(アメリカ国家安全保障局)の女スパイや
ニューヨーク各地で捕らえた様々な人種の若い女性達が産み落とした
真っ黒なホラーの卵から次々と孵化して新しい素体ホラーが誕生し、
沙也加から産まれた素体ホラー達と合流している為である。
こうしてー。魔戒法師や黄金騎士ガロの称号を持つ男の冴島鋼牙はおろか誰にも
その存在を知られる事も無くこの圧倒的に深い時空の空間の異世界で密かに
どんどんメシア一族の魔獣ホラー達は静かに増えて行ったのだった。
 
ニューヨーク市内の人気の無い廃工場の広場。
「こんなところに呼び出して何の用よ?」
「大事な話がある。あんたの前世のジャンヌ・ダルクの話だ!
調べて新しく分かった事実を伝えたい!」
ジルは鋼牙に呼び出されてここに連れてこられ、そして。
またもや久しぶりにジャンヌ・ダルクの話を聞こうとは思わなかった。
ジルは思わず腕組みをして「なんなのそれ?」と聞いた。
鋼牙はもったいぶらず直ぐに白いコートの赤い内側から
あの幻想郷の大図書館から借りたと言うある日記を見せて、渡した。
「これは?日記?誰の?さっき車で話していた
あの魔人フランドールの?フランス語のようだけど?」
ジルはページを開き、フランス語をスラスラと呼んだ。
何故か分らないが前にも読んだ事のあるような懐かしさを感じた。
しかも自分で書いたような。そう、つい昨日。
更に日記の一番上に書かれている名前を見て驚いた。
「まっ!さか!これってジャンヌ・ダルクの日記?」
「そうだ!あんたの前世の中世のオルトレアンの奇跡の少女だ!」
彼女は鋼牙から視線を外して食い入るように日記を読んだ。
日記にはあまりにも衝撃的な事実が書かれていた。
「嘘……まさか?あの子が?……私の……前世の……」
彼女はただただ驚き、片手で口を押え、
青い瞳は動揺して上下に大きく揺れ続けていた。
また鋼牙はこうも解説した。
「実際、この日記は彼女がイングランド軍に捕らえられた後、
彼女が住んでいる村に異端審問官が入り込み、家が徹底的に調査された。
そしてこの日記が見つかって危うく焼き捨てられるところだったのを
魔神レミリア・スカーレットが彼らから日記を強奪した。
それから幻想郷の紅魔館の大図書館に大切に保存されていたんだ。」
「成程ね。異端審問官って誰だっけ?あっ!思い出した!
前世の記憶で!確か名前はえーと?。」
その時、目の前が真っ白になった。やがてジルの視界の真っ白な光は消えた。
どうやらまた久しぶりに前世の記憶が復活したらしい。
しかもそれはとてもではないが楽しいものでは無かった。
むしろ忌まわしい汚れた出来事の記憶だった。
ちなみに結局、その異端尋問官の名前は思い出せなかった。
 
1431年5月27日。
ジルの前世のジャンヌダルクルーアンの独房の中にいた頃。
彼女はフランスの聖職者のピエール・コーションによって5月26日に
火刑台が設置されたサン・トゥアーン墓地に連れて行かれた。
そしてコーションが判決文の朗読中に恐怖の余り
「教会の命じる事は守ります!読むのを止めて下さい!
貴方達の命令になんでも従います!」と叫んだので彼女の回心文を
読み聞かせて署名させた。そして火刑は取り止められて独房に閉じ込められたのだ。
そして『二度と武器を手にしない』『男物の服を着ない』
『髪を短く切らない』のルールを守れば彼女は無罪と言わずとも火刑は避けられた。
筈だったー。しかし5月20日。彼女はイギリス人の看守達が彼女に襲い掛かって
婦人服を剥ぎ取り男物の服を投げ入れる事件が起こった。
それから男物の服を着たジャンヌは教会の不服従とみなされ
イングランドに引き渡された。
そこで裁判も無しに5月30日ジャンヌは火刑に処された。
何者かの陰謀が絡んでいるか分からぬままに。
更にジルはその記憶の断片からさらにイギリス人の看守達による
彼女の婦人服を剥ぎ取る際に起こった更なる悲劇を思い出していた。
それは一人のイギリス人の看守が仲間のイギリス人の
看守に周囲を見張るよう指示した。
続けて一人のイギリス人の看守はジャンヌの身体の上に無理矢理乗り、
両腕で押さえつけて獣のように唸り、腰を前後に振った。
その度にジャンヌは悲鳴交じりの喘ぎ声を上げた。
彼女は目に涙を浮かべて嫌がった。
しかしイギリス人の看守は自分の欲情が満足するまで酷いレイプを続けた。
殴られはしなかっただけ救いだった。
 
(第52楽章に続く)