(第2章)愛おしい恋人と謎の心霊現象

(第2章)愛おしい恋人と謎の心霊現象

 

『R型暴走事件』が起こる10年前。

僕の名前はミカエル・プレストン。

いやこの名前は偽名で本当の名前はエア・マドセンだ。

僕の父親のブレス・マドセンはこのHCFの

セヴァストポリ研究所の保安部長をしている。

そして僕は父親の反対を押し切って保安部に警備員として新しく入隊した。

母親のアンヘラ・マドセンはHCFのBOW(生物兵器)及びウィルス兵器開発研究員主任のダニア・カルコザ博士の助手としてウィルス兵器研究開発の実験区域にある

『BOW(生物兵器)及びウィルス兵器開発中央実験室』で働いている。

そして完成したBOW(生物兵器)に特性や能力、商品としての価値を審査する

為のテストやチェックを行う場所の一角の研究室で新型ウィルス兵器やBOW

生物兵器)開発を行っている。そして僕はその研究所の地下室によく行っていた。

地下室は広い部屋でそこは特別な彼女の。いや僕の彼女の為の部屋になっている。

中央には大きなコールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルがあり、

中に茶髪のボブヘアーにカチューシャや黒いゴスロリを着た女性。彼女は眠っている。

彼女の名前はストークス。グローバルメディア企業の軍用AI(人工知能

が搭載された最強の兵士。と同時に『R型暴走事件』で使用された新型のウィルス兵器

(T-sedusa(シディウサ)の強力なウィルス抗体の製造工場として保存されている。

僕は彼女がコールドスリープ(冷凍冬眠)

カプセルに保存される前から良く会っていたんだ。

それは大体、あのニューヨーク市内で起こった

『魔獣狂騒曲(ホラー・ラプソティ)事件』が起きてから4年後の話だ。

当時の彼女のストークスはオールバック風の三つ網に束ねたポニーテールの

茶髪が胸元まで伸びていてとても艶やかだった。

美しい瞳は海のような青色で彼女にみつめられると物凄く心臓がドキドキしたんだ。

そして細長いキリッとした茶色の眉毛も丸っこい鼻も全てが愛おしかった。

両手の肌は白く美しく最初にストークスにおっかなびっくり握手を

お互いした時にふと笑ったのが良かったな。

スレンダーな体形に薄着の灰色のシャツを着ていた。

噂によると表向きは秘密組織ファミリーのシモンズ家現当主の

ジョン・C・シモンズの妹らしい。

でも裏ではシモンズ家がHCFに依頼されてジルの遺伝子を

利用して作り出されたクローンらしい。

だからオリジナルのジル・バレンタインと彼女はそっくりだった。

最初、写真を母親に見せられた時は「まさか?」と思って笑っていたが

母親から説明を受けると信じられなかった。

でも今は彼女がジルのクローンであれ、最強兵士であれ、何でもよかった。

僕はストークスの人間として、いや女として好きになっていたんだ。

好きな女の子の素性がどうであれ、受け入れるつもりでいた。

母親のアンヘラ博士もダニア博士もこのウィルス兵器実験区画で

働いている全ての研究員もスタッフ達も父親ブレス・マドセンも知っていた。

とりあえずこのセヴァストポリ研究所内ではストークスと

僕事、エアは有名なカップル、あるいは恋人同士を認知されている。

実際、僕は母親のアンヘラ博士をうまく説得して、ストークスに会っていた。

僕はストークスに振り向いて貰おうとあらゆる手を尽くした。

彼女は精神的に不安定で時々、隔離部屋の壁や床をバンバンと叩き、

獣のような凄まじい絶叫を上げ続けて暴れる事があった。

そうなるとしばらく誰の話も聞かないし、手が付けられなくなる。

そして僕がストークスの隔離部屋に入って落ち着かせようと話しかけてみるものの

彼女はやり場の無い怒りを僕にぶつけて。まあ―まあ―酷かった。

彼女にいきなり、両手で首を掴まれて、多分、賢者の石の中にあるお馴染みの

始祖ウィルスの作用で凄まじい超怪力で僕の身体を軽々と持ち上げられて。

彼女の凄まじい超怪力で遠くにぶん投げられたな。

それで分厚い白い鉄の壁にしこたま頭をぶつけて目の前に

火花が散って意識も失いかけていたけれど。

僕は彼女の事が好きだったし、どうにか助けようとさ。

立ち上がって何とか話をしようとするんだけど。これが彼女は全く聞かない。

今度は右頬と左頬に強烈な拳のストレートを食らい。

続けて正面のパンチで危うく鼻をへし折られそうになった。

僕は両手でその彼女の右拳を受け止めた。

けれど今度は僕の下腹部に強烈なパンチが入ってー。

僕が「うっ!」と呻いて身体をくの字に曲げた途端に彼女の拳が僕の下顎に直撃して。

天井近くまでぶっ飛ばされて仰向けに床に落下した。

それでもどうにかこうにか話をしている内に。

(勿論、ボッコボッコに何度も殴られて、蹴られて、とうとう鼻も折れた。)

ようやくストークスも落ち着いて来て。

それで今回の騒動もどうにかこうにか収まったんだ。

あの時が一番大変だった。

それからはダニア博士が頼んだカウンセリングの女の人の数か月に及ぶ話し合い。

精神状態の回復の為に僕や僕の母親と協力してストークスを助けようとした。

それ以降はストークスも精神的に安定する日数が

少しづつゆっくりと確実に増えて行って。

最初の頃よりも大分明るくなり、精神不安定になる日数も大分、減り始めた。

それから僕とストークスは本格的に付き合いを始めた。

僕は父親のブレス・マドセンや先輩の保安部の仲間達に指導して貰いながら

保安部で動くのに必要な知識を技術と戦闘の立ち回り方を1から10まで

厳しく時には優しく教えて貰った。

そしてまた時々、休憩時間を利用してその恋人のストークスに会っていた。

僕は『プラントE45R000』と言うコードネーム

では呼ばずちゃんとストークスと呼んでいた。

そして時にはスマートフォンのゲームで通信して遊んだり。

好きな曲をCDで聞いてたりしていた。

最近は一ケ月前に解散してしまった日本のアイドルグループで

ニューヨークで活躍していた『NYK48』の曲だった。

それをイヤホンでお互い聞きながら二コ二コと笑い合い、歌を口ずさんでいた。

僕はセヴァストポリ研究所の食堂の厨房を借りて、手作りのクッキーを焼こうとした。

しかし結局は失敗してしまい。無残にもクッキーは円形の真っ黒な塊に

なってしまったのである。つまり焼き過ぎて見事丸焦げになってしまったのである。

チーズケーキも作ったがやはり失敗し、半分液体に近い、油に浸した

もはやケーキとは呼べない代物になっていた。

一応母親のアンヘラ博士にある程度教わっていたがやっぱりうまく行かなかった。

そんな事をしている内に見かねた産業スパイの仕事をしているエイダ・ウォンさんと

リー・マーラさんに手伝って貰い、ようやくまともなクッキーと

チーズケーキが完成したのだった。

僕はそのまともなクッキーとチーズケーキをストークスに食べさせた。

僕は激しく心臓をドキドキと鼓動させていた。

そして恐る恐る僕はこう尋ねた。

「おいしい?」と。

するとストークスはモグモグと口を動かし、クッキーを噛み砕きながらこう言った。

「うん!美味しい!」とニコニコ笑いながら。

すると僕は安心したのと嬉しさで笑い出した。

つられてストークスも口元を緩ませて、

クッキーを口に含んだままクスクスと笑いだした。

そしてチーズケーキもフォークで一口ずつ口へ運び食べた。

「おいしい!」と言うとストークスはよほど気に入ったのかバクバク食べ続けた。

そして全てのクッキーとチーズケーキを食べ終えると僕を

青い瞳で見ながらおずおずと礼を述べた。

「ありがとう!美味しかった!」と。

それには思わず僕ガッツポーズをした。

2人は幸せだった。とにかく今は。今は。こんな幸せが長く続けばいいのに。

そう、思い願っていた。しかし幸せが続かなかった。

いや、続く筈がなかったのだ。そう言えば最近・・・・・。

あのストークスがいる地下室へ続く一本道で時々、

誰かの囁き声が聞こえる気がするんだ。

大体、毎日彼女のところへ遊びに行く度に僅かな男の声がどこからともなく聞こえる。

中にははっきりと「我を解放しろ!」と言う言葉が何度も聞こえたりする。

勿論、自分の空耳だと思って気にも留めていないが・・・・・・・。

一体??何の声だろう……不気味だな……。心霊現象のような・・・。

 

(第3章に続く)