(第4章)超常的な侵入者。

(第4章)超常的な侵入者。

 

僕はダニア博士からストークスの殺処分が先延ばしになった事を

さっきの電話で知り、安心して大きく溜め息をついた。

そしてまたHCFのセヴァストポリ研究所のBOW(生物兵器)及び

ウィルス兵器中央実験室の一本の廊下を歩き出した。

また他の白衣を着た研究員達はエアの顔を見るとまたお互いヒソヒソと話を始めた。

そして『自分は父親がHCFの幹部の一人で保安部長のコネで保安部に入った』

と思われているのが少し嫌だった。

更に『僕はこのHCFで働く人間として余りにもまとも過ぎる』と言う意見もあれば。

ほとんどの研究員達やスタッフや情報部は

『外部に新型ウィルスの情報が漏れるとしたら

先ずにはあいつ(エアの事)からだな』と言う意見が

各地様々に大袈裟に囁かれていた。

しかもさっきの上層部に意見した僕の行為を愚か者の極みと考えている事が多かった。

だからさっきからいつも以上に彼らの目は厳しかったし。

まるで腫物のように僕に近付こうとする者は誰一人いなかった。

きっと巻き添えは御免だから近付こうとしないのだろう。チキン野郎め!!

僕は心の中で悪態をついた。

そして僕は一本の長い廊下を黙って歩き続けていた。

何時間歩いたのだろうか?ようやく目の前に分厚い自動扉があった。

そしてこの先にストークスがいる地下の研究所に続く階段があるのだ。

さあ―行こう!レディを待たせちゃ!失礼だね!

僕は歩き出し自動ドアに近付いた。

次の瞬間、誰かが電気のスイッチを切ったかのように目の前が真っ暗になった。

続けてウイーンウイーンウイーンと警報器の警報音が鳴り響いた。

なっ?なんだ??確かダニアのクローンのヘレンは死んだよな?

一体?まさか?HCFに侵入者??嘘だろ??

僕は驚いたと同時にしっかりと目を凝らした。

そう目の前の分厚い自動扉の目の前に何かがいた。

それは幽霊で人型にも見えた。

背中に一二枚の翼らしきものと両手に10対の鉤爪らしきものがぼんやりと見えた。

僕は腰のホルスターからハンドガンを引き抜き、両手で構えた。

そして人間とも幽霊ともつかぬ何かに銃口を向けた。

なんなんだ??あんたは?まさかグローバルメディア企業の産業スパイ??

それとも他の企業のスパイか?おい!両手を挙げろ!そして両腕を後ろに回せ!」

僕は精一杯の大声でその人型の幽霊に呼びかけた。

すると人型の幽霊はノイズが掛かった甲高い声でしゃべり始めた。

「ここに?・・・こ・・・こに?スト・・・クス・・・いる?」

どうやらこの正体不明の人型の幽霊はストークスが狙いらしい。

何故??彼女が狙われるんだ??何故??

「何故??ストークスを狙う!目的は何だ?」

「肉体が・・・・必要・・・・・現世に・・・・実体化・・・・」

「肉体が必要?現世に実体か?なんだそれは??」

僕はこの正体不明の人型の幽霊が言う事が分からず

ただ小首を何度も傾げ動揺していた。

「そっ!それは!何故だ?あんたは何者なんだ??」

僕はどもりどもりやや早口でそう質問した。

ぶっちゃけこの目の前にいる正体不明の人型の幽霊に

自分の言葉が分かり、質問の意味が分かるのか?

分かるとは何となく思えなかった。分からないだろう。

しかし僕の分からないだろうの予想に反して正体不明の人型の幽霊は

僕の言葉と質問の意味をちゃんと理解していた。

まるで宇宙人と話している気分だ。

「我は人間と同じ肉体が必要である。我は魔女王ホラー・ルシファー!」

「魔女王ホラー・ルシファー??まさか?魔獣ホラーなのか?」

僕はうわさで聞いた事があった。

そう、魔獣ホラーは本来はこちら側(バイオ)の世界に存在しない筈の生物で

元々は真魔界と呼ばれる異世界に住んでいるが時々、陰我(人間の欲望や邪心)

のあるオブジェ、つまり冷凍庫とかライターとかハンドガンとかを門(ゲート)

魔戒と現世を繋ぐ通り道を通って出現して人間や物に憑依して魂を喰らって

肉体を乗っ取ってしまうと言う。最近そんな奴らがバイオテロや犯罪組織。

BOW(生物兵器)やウィルス兵器等のバイオハザード(生物災害)に

続いて裏社会では問題になっているらしい。

しかも目の前にはその本物の魔獣ホラーがここにいる!!

確か実体化した後は他の人間の血肉や魂を喰うとか?

くっそっ!まさか!本当にそんな奴がいるなんて!!

ただのオカルトか都市伝説だと思って全く信じていなかったのに!!

しかも本物なら!今持っているハンドガンなんか効く訳ないじゃないか!!

通常兵器が駄目なんだぞ!どうすれば!でもここで何とかしないと!!なんとか!

僕ハンドガンの引き金に指をかけた。僕は意を決意して引き金を引いた。

ダアン!ダアン!と大きな銃声の後、銃弾が放たれた。

銃口から高速で放たれた銃弾は魔女王ホラー・ルシファーの右肩と左肩に直撃した。

しかし銃弾はまるで鎧に弾かれたように穂花を散らして跳弾した。

まるで効果が無かった。それでも僕は必死の形相で更に何度も

ハンドガンの引き金を引き続けた。

3発。4発。5発。6発。7発。8発。9発。10発と撃ち続けた。

しかしどれも全て跳弾してしまいまるで効果は無かった。

カチッ!カチッ!と銃弾が切れた事を僕に知らせた。

しかしそれでも僕はまだカチッカチッ引き金を引き続けた。

どうすればいいのか分からず。ただひたすら混乱していた。

言い知れぬ恐怖感と絶望感が徐々に心の中に虫食いのよう広がって行った。

やがてそれはどんどん僕の心を支配して行った。

他の武器も駄目だろう。背中のマシンガンの存在に気付いていたが

恐怖で身体が麻痺しているせいか動けなくなっていた。

ただ阿呆のようにその場で銃を構えた姿勢のままま立っていた。

「あっ!あっ!」と言葉にならない声を上げた。

魔女王ホラー・ルシファーは10対の鉤爪の内の一本の鉤爪を

エアの心臓のある胸の中央に向けた。

やがて鉤爪の一本が真っ赤に発光した。

さらに一本の鉤爪は真っ赤に輝き、徐々に電撃に包まれて行った。

同時にズドオオオオン!と言うこれまでで大きな銃声がした。

そして一本の真っ赤に輝く鉤爪鉤爪から真っ赤に輝く三角形の魔弾が高速で放たれた。

放たれた真っ赤に輝く三角形の魔弾はエアの心臓のある

胸部の中央に高速で突き刺さった。

エアは余りの突然の事で「えっ?」となった。

更にエアの細身の身体はくの字に曲がった。

エアのくの字に曲がった身体は高速で3m先の

細長い廊下の一本道まで吹っ飛ばされた。

エアは起き上がろうとした全身に力が入らなくなった。

それどころかぼんやりした視界で自分の胸部を見た瞬間、

驚きの恐怖で危うく失神しかけた。

何故なら自分の心臓の位置にある胸部の分厚い防弾チョッキとTシャツと

皮膚を全て貫通して真っ赤に輝く三角形の銃弾が深々と突き刺さっていたからである。

しかも僅かだが出血しているらしい。

「うっ!うわああああああああああああああっ!!」

僕は絶叫した。更に魔女王ホラー・ルシファーは僕の方にすうっと近付いた。

そしてジル・バレンタインそっくりの顔で僕の顔を覗き込んだ。

「汝に試練を与えよう。我は明日。ストークスの魂と血肉を奪いに行く。

汝には我と同じ力を与えた。闘うがいい。明日。そしてこの理不尽に抗い。

我を倒して見せよ!期待しているぞ!」

魔女王ホラー・ルシファーは楽しそうにそう僕に告げるとまたスーツと消え去った。

僕はゴホゴホと咳き込み、その場を仰向けのまま動けずにいた。

そこに連絡を受けて駆け付けた僕の父親のブレス・マドセン率いる

保安部隊の多数の隊員達が駆け付けた。

「おいっ!おいっ!ああっ!なんてこった!!」

失神しかけている僕の耳に父親の悲痛な声が入った。

「早く医療チームを!急げ!畜生!」

「この馬鹿!無茶なんかしやがって!」

「タンカーだ!急げ!早くしろ!死んじまうぞ!」

「エア!エア!しっかりしろ!しっかりするんだよ!!」

意識を失いかけたエアは耳に誰かの声が聞こえた気がした。

それは「生きなさい!」と言う幼い女の子の声だった気がした。曖昧だが……。

他にも笑い声や男の呻き声が聞こえた。「キャハハハッ!」「うううっ!」とか

そんな感じの声だ。また「ドンドン!」「バンバン!」と言う物音も聞こえた。

更に周囲に僅かだが白い影や赤いフードを着た髑髏の仮面を被った人影が沢山見えた。

何なのか分からず輪郭もぼやけて何が何だか分からなかった。

でもこれだけは分かる……多分……僕はここで死ぬ。

あいつらは僕を迎えに来た死神達だと。そうこれから死の世界を彷徨うんだ……。

 

(第5章に続く)