(第59章)生命の重さ

(第59章)生命の重さ

 

「彼とはしばらく会わせません!!」

そのリーの判断にエアはとても複雑な表情でこう答えた。

「そうですか?賢い選択ですね。いや父親と会えないんじゃ・・・・」

リーは寂しそうに顔を俯いた。

「そうですね。息子も寂しがっていました。このせいで。

私の判断のせいで精神的に悪影響が出ないか。

正直とても心配です。これが正しいのか?・・・・・・・」

エアは息子を心配するリーの話を聞いて気分が落ち込みかけたが気持ちを切り替えた。

数分後、ストークスは自室で早速購入したばかりの

『2B(ヨルハ2号B型』の黒いゴスロリ服とカチューシャと

黒い布のゴーグルを付けてコスチュームチェンジしてエアとリーにお披露目した。

トークスは恥ずかしそうにエアの方を青い瞳でチラチラと

見ながら絞るような声でこう言った。「どっ?どう?」と。

エアは穏やかに笑って「うん!凄く似合うよ!」と答えた。

トークスは大喜びして両腕を振り上げて、万歳してはしゃいだ。

リーはそれをまるで母親のようなとても優しく穏やかな表情をしていた。

「髪型も物凄い似合っているわよ!」とリーが言うとストークスは

更に大喜びしてもっとはしゃいでベッドの上をピョンピョン飛び回った。

エアはそんなストークスの姿が愛おしく思った。

彼女無しの人生はもう生きられない。そう純粋に思った。

リーはベッドの上ではしゃいでいるストークスを見て自分の息子のマーティンと今、

このHCFのセヴァストポリ研究所内で母親代わりをしている

『R型』の事をふと思い出した。私もマーティンや『R型』を幸せに導けたらいいな。

と純粋にそう思ってしまった。しかし特にあの子『R型』は普通の子供じゃない!

いずれは私と同様に新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)

のウィルスと遺伝子操作で生み出したプラントリーチを利用した

非人道的な人体実験が一年後に行われる。

そして『子供型BOW(生物兵器)』として改造される。

続けてあの酷い事ばかりする非常識な反メディア団体ケリヴァーを壊滅させる。

彼らの非道で非常識な行為が虐待に当たるなら彼らはそれ相応の身も毛が

よだつ恐ろしい天罰を『R型』が与える事になる。でも?彼女の幸せはどこに??

やっぱり!エヴリンのように自身を破滅させて欲しくない。

これから私は『R型』が自身を破滅させずに済む方法を

自分なりに考えて模索しなければ!

リー・マーラは新たにそう決意して両拳を強く握った。

 

2日後の運命の日。

HCFセヴァストポリ研究所(正確な位置は不明)。

そこは広い部屋で中央には大きなハイパーコールドスリープ

(超冷凍冬眠)カプセルがあった。

トークスは2日前に買って着たばかりの『2B(ヨルハ2号B型)』

のコスチュームに身を包み、茶色のボブヘアーに黒いカチューシャを

付けたストークスの姿があった。彼女の強い希望により。

この『2B(ヨルハ2号B型)』のコスチュームのままに入る事になっていた。

勿論、ダニア博士もそれを許した。エアはストークスとの別れを惜しんだ。

「寂しくなるなぁー」

するとストークスは明るく美しい笑みでエアにこう言った。

「大丈夫!きっと!また会える!」

エアはフッと笑い、うん!と頷いた。

「またコールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルから目覚めたらー。

その時は!もっと!もっと!色々な場所に行って貴方の事が知りたい!!」

「分かった!またチェルシー地区以外にも色んなところへ行こう!」

僕もー。僕もー。もっと付き合って。そして。そして。」

エアは急に恥ずかしくなり、顔と両耳を真っ赤にした。

そしてエアはストークスの言いたい事を何となく理解した。

「うん!分かった!」とだけ明るく答えた。

トークスは自らの意志でコールドスリープ(冷凍冬眠)カプセルの

中へ入って行った。やがてプシューと音を立てて強化ガラスが

トークスがカプセルの中に入ると同時に閉まった。

やがてカプセル内は白い冷凍ガスで一瞬で満たされた。

そしてカプセル内が白い冷凍ガスで満たされた。

やがてそれが消えるとストークスは瞼を閉じ、全身が急速に冷やされて。

脳と心臓を除いて全身の細胞活動が休眠した。

そしてそのストークスの表情は今ままで見た中で一番穏やかな表情だった。

こうしてストークスは4年後の『R型暴走事件』で使用される新型の

T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)のウィルス兵器(Tシデュウサ)

の強力なウィルス抗体の強力なウイルス抗体の製造工場として機能する事になる。

そして『ウィルス兵器開発部門』の研究員や職員やスタッフの手によって

トークスから血液を採取し、血液から抗体を抽出し、

それをワクチン素材として利用する。

やり方がもう出来ているのであとはウィルス兵器の対となる

ワクチンを大量に製造するだけであった。

既に新型のT-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)

ウィルスとワクチンは新商品として完成目前だった。

エアは「これできっと・・・・いや。考えるのはよそう!

考えるだけ気が滅入りそうだ!」とつぶやくとこれ以上深く考えるのを止めた。

とにかくストークスが無事でいいな。ただそう思い続けたし、願い続けた。

でもとりあえずグローバルメディア企業とHCFは長い間、話し合いと交渉の末に

(あと米民主党多数党内幹事の話も加わって)結果は敵対する反メディア団体ケリヴァーを壊滅させる事に成功したらストークスの

殺処分の依頼を取り消される事になっていた。

つまりHCF達はなんとしても僕の大切なストークスの命を守る為に

『R型計画』を大成功させなければいけないのだ!!」

しかし『R型計画』が成功したら反メディア団体ケリヴァーの人々は沢山死ぬ事に

なるだろう。僕は天秤に掛けるなら反メディア団体ケリヴァーの非常識な

人間の命よりも純粋で誰にも優しく明るく常識のあるストークスの命を僕は迷わずに

選ぶだろう。もう!ストークス無しではこの世界に存在する理由が無いのだから。

でも?それでいいのか?人間としてそれが正しいのか?

そもそも全ての生物の命は重い事は知っている。だからそれが何だと言うのだ??

そもそもカマキリは蠅を喰う。寄生虫ハリガネムシはカマキリに寄生して

腹を食い破って出てくる。ライオンは鹿を喰う。魔獣ホラーは人間を喰う。

腹が減ったら必ず他の命を喰って殺している。

この世は弱肉強食。動物や昆虫、魚の世界も人間社会も根っこは同じだ。

だが魔女王ホラー・ルシファーは何故?このHCFのセヴァストポリ

研究所へ来たのだろう?何故?

トークスの魂を喰らい、肉体に乗り移ろうとしたのだろう?

魔女王ホラー・ルシファーは一体?何処から来たのだろう?

彼はそれが気になって勝手に仲間や父親にもエイダにもリーにも黙って調べ始めた。

そしてあのHCFセヴァストポリ研究所に現れた魔女王ホラー・ルシファーの

顔や容姿は人型の姿に背中に一二枚の羽根らしきものと

両手に10対の鉤爪らしきものがぼんやりとしか見えなかったのをエアは覚えていた。

しかしストークスのいる地下研究所に来る前に目撃した数人の研究員に話を聞くと

その魔女王ホラー・ルシファーの顔や容姿がストークスのクローンの

オリジナルのジル・バレンタインそっくりの顔と容姿をしていたと言う。

つまり魔女王ホラー・ルシファーが産まれたのは恐らくジル・バレンタインであろう。

しかし何故??いや!!何故?人を襲う危険がありながら何故?放置した?

まさか?ジル・バレンタインが意図的に魔獣ホラー・ルシファーを野に離したのか?

だとしたら?ふざけるなあっ!!もし本当なら!本当なら絶対に許さない!!

勝手に野に離したのならもっと許せない!そのせいで!そのせいで!

俺の恋人は襲われかけてっ!俺の母親は俺と恋人のストークスを守る為に

魂を喰われて肉体を乗っ取られた??つまりジル・バレンタインのせいなのか??

エアは心奥底で『もしも自分の推測が本当なら!!絶対に許せない!』と言う

強い怒りの感情がマグマのように沸々と沸き立つのを感じた。

しかしそれはあくまでも推測であって断定は出来ない。

ついでに彼女が意図的に魔女王ホラー・ルシファーを

ジルが本当に魔女王ホラー・ルシファーを野に放したのか?

彼女自身の証言も無ければ物的確証も無いからジル・バレンタインに罪は問えない。

それでも湧き上がる怒りの感情は抑えられなかった。

『もしも?本当だったら?』と言う疑念がその彼の怒りの感情を燃え上がらせていた。

きっとエアの顔は酷い顔だったのだろう。

エアの鬼神のような怒りに歪んだ表情を見てしまった女性研究員は

ビクンと体を震わせて顔を引き攣らせた。

エアはそれに気付き、慌てふためいて笑顔をぎこちなく作った。

それでエアは周りの空気を和ませようとした。

しかしかえって女性研究員を怖がらせてしまったらしい。

 

(第60章に続く)