(第8章)人体実験と言う名の応急処置


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(第8章)人体実験と言う名の応急処置

 

僕を先頭に保安部隊員とエイダは直ぐに救急車から降りた。

そして全員、素早くハンドガンとアサルトライフル銃口を小太りの男に向けた。

小太り男は驚きつつもとまみれの包丁をちらつかせた。

「お前も!邪魔をするのか?俺の事を馬鹿にしたのか?」

「そこに倒れている男から離れなさい!」

「ふざけるな!俺の邪魔をするな!今!殺したばかりだ!」

エイダは「仕方が無いわね」と言うとすかさずハンドガンの引き金を引いた。

エイダのハンドガンの銃口から放たれた弾丸は太った男の右足の太腿を撃ち抜いた。

「ぐあっ!いでぇつ!クソっ!何をするっ!何お!」

それから僕と保安部隊員は一斉に小太りの男に飛び掛かり、

あっと言う間に取り押さえた。

小太りの男が暴れ始める前にアサルトライフルを右手から左手に持ち替えて右拳でその

小太りの男の頭をさっきの理不尽で残酷な事を他人にした個人的な怒りを込めて

力の限り殴りつけて失神させた。

そして危険な小太りの男の完全失神と周囲にこの事件の目撃した一般人がいないか

確認したのちにアッシュ博士と医療チームを救急車から出した。

アッシュ博士と医療チームは全身をめった刺しにされてた大量出血により、

顔面蒼白で今にも死にそうな銀髪の男のところへ向かった。

その間、僕と保安部隊員は気絶した小太りの男の手足手首を

鉄の輪で拘束して鉄製の檻の中に放り込んだ。

そして僕は無線電話で『新型T-エリクサー(仮)の感染変異の経過観察用』

の成人男性のサンプルの入手を報告した。

そしてもう一人の狂ったさっきの小太りの男にめった刺しにされて

今にも死にそうな銀髪の男はアッシュ博士と医療チームが全身の傷の止血を試みた。

しかし傷は深くしかも全身に及んでいる為、いくらガーゼや包帯を使っても傷自体が

多過ぎてどうしても出血は完全に止められなかった。

銀髪の男は今にも死にそうな青白い顔で荒々しく息を吐き続けた。

そして生気を失いかけた茶色の瞳で何故か僕の顔を見た。

「助けて‥‥下さい‥‥。誰か‥‥…助けて。死にたくない……」

銀髪の男の生気を失いかけた茶色の瞳から涙が流れた。

アッシュ博士は直ぐに例の実験に取り掛かった。

アッシュ博士は医療チームに指示を出し、銀色に輝く

ジェラルミンのキャリーケースを持って来させた。

アッシュ博士は銀色に輝く銀色に輝くジェラルミンのキャリーケースの

蓋の小さなタッチパネル式の電卓を操作し、暗証番号を素早く押した。

電動の鍵が開いて蓋がゆっくりと持ち上がった。

中には黒い緩衝材に包まれたガラスのグリーンとブルーの試験管が2本あった。

そして蓋を開き、付属の2本の内、『新型T-エリクサー(仮)ウィルス投与専用』

の注射器の針をグリーンの試験管の蓋に差し込むとシリンダーを引いた。

彼は無言でその死にかけた銀髪の男の上腕部の血管に針を刺して

試験管の中にあるグリーンに輝く液体を血管に投与した。

アッシュ博士はHCFセヴァストポリ研究所にいるダニア博士に無線電話で報告した。

「こちら!実験実行班!アッシュ博士!『新型T-エリクサー(仮)ウィルス』

の治療に必要な試作ワクチンを投与します!」

アッシュ博士はもう一つの新型T-エリクサー(仮)試作ワクチン投与専用の

注射器を取り出し、また同じく注射器の針を今度はブルーの

試験管の蓋に差し込むとシリンダーを引いた。

それから銀髪の男の上腕部の血管に針を刺して中にあるブルーに輝く液体を投与した。

間も無くして銀髪の男は急に全身に鋭い痛みを感じた。

続けてバキバキと骨が鳴る音と共に銀髪の男は全身と背筋を振るわせた。

その後、銀髪の男の身体はピーンと伸びた。

続けて全身に燃えるような痛さと暑さを感じた。

そしてそれらの症状は徐々にゆっくりと収まって行った。

やがて全身の痛みも消え去り、呼吸もとても楽になった。

更に何が起こったのか見ようと首を曲げて刺し傷だらけの右腕を見てギョッとした。

あの狂った小太りの男に包丁でめった刺しにされて出来た無数の切り裂かれた刺し傷が

みるみると新しい肉と皮膚が形成され、元通りにしかも傷跡すら残さず

完全に再生して行った。そして全身の神経も元通りとなった。

同時に消えかけた痛みや夏の暑さ、草や地面は触れるあらゆる感覚が元通りになった。

心臓もより強く動き、リズムを刻み始めた。

銀髪の男は動けるようになり、上半身を起こした。

「私は?一体?何が起こったんですか!」

「成功したな!俺で治療法も確立した!」

素っ頓狂な声を上げる銀髪の男に対してアッシュ博士は

嬉しそうなホッとした表情になった。

「これで一安心だ!」

銀髪の男は訳が分からない表情でアッシュ博士の顔を見ていた。

アッシュ博士と医療チームはさっき投与された『新型T-エリクサー(仮)』

とそのワクチンを投与した銀髪の男を救急車に乗せた。

それから採血や遺伝子検査、抗体検査、ウィルス検査、

ついでにアレルギー検査やその他の精密検査を受けた。

その為、血液採取の為にちょうちょ注射をされたり。

点滴で造影剤を身体に投与されたり、まだ若いのにバリウムを飲ませられたり。

レントゲンを撮られたり色々と数えきれない程された。

いきなり人間ドックをされて銀髪の男は戸惑いを隠せなかった。

しかし全ての検査の結果、現時点での身体の骨格変異異常も

肉体変異異常も無く、どうやら抗体も特定のウィルスに対して正常に機能している

事が分かった。ただ微量の『新型T-エリクサー(仮)』が残っていた為、

残念ながら家には帰してくれず良く分からないが研究所の

医療施設へ移送されると言う。

何でも僕は『ウィルス抗体を持つ人間の第2号』らしい。

そして僕は『新型T-エリクサー(仮)』の治療に必要な

試作ワクチン投与完治用の貴重なサンプルとして連れ去られたと言う事も。

僕を包丁でめった刺しにしたあの狂った小太りの男が

『新型T-エリクサー(仮)の感染変異の経過観察用被検体』として回収された事を

知るのはかなり先の話である。いやまた別の話だね。

 

HCFセヴァストポリ研究所内の『BOW(生物兵器)及びウィルス兵器中央実験室』

の一般の医療室のある場所からさらに遠くにある

『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた

超厳重な何百層もの分厚い巨大な円形の扉の先には除染室とエアシャワーが完備され、

いわゆる感染防止用の黄色と青と緑の宇宙服と

マスクが所狭しと鉄の棚に置かれていた。

そして奥の螺旋階段を降り、その地下の広大なエリアには巨大な飼育用の檻が

大量に置かれていた。中には何体かの幼体と成体と区分けされた

BOW(生物兵器)達が檻の中で身を寄せ合い暮らしていた。

迷宮のような入り組んだ廊下を飼育係の男と女が忙しなく歩き回り、

飼育されているBOW(生物兵器)達の健康や食事、排せつに

至るまできちんと世話されていた。

しかし女性の飼育係達はあの新型の昆虫型BOW(生物兵器)の事故を

最近目撃したのもあり、みんなとても緊張した様子でとても神経質に

BOW(生物兵器)の世話をしていた。また事故を目撃した精神的ショックで

体調を崩したり、発狂したりして、治療の為に休んだり仕事をやめる者も何人かいた。

つまりあのHCF講演室でストークスとエアが見つけた研究資料に書かれた

昆虫型BOW(生物兵器)のスーパープレイグクローラーとその世話をしていた

若い女性のロシア人の飼育係のエレナ・ハリスの事である。

一方、飼育係の男性達は何事も無かったのように

BOW(生物兵器)の世話を続けていた。

やがて研究員のお偉方によって『試作のT-エリクサー(仮)』を投与された

感染変異の経過観察用の被検体サンプルの世話を頼まれた。

そいつはあの狂った小太りの男だった。

そして今や物凄い分厚いコンテナの中に閉じ込められ、観察用のスペースに運ばれた。

コンテナの中で狂った小太りの男は自分が置かれている状況を理解出来ず

自分が閉じ込められているコンテナの内部の周囲を見た。

コンテナの内部は白いベッドと赤く錆びた机とノートとペン以外何も無かった。

更にコンテナの壁には食料を入れる為の細長いポストのような投入口が付いていた。

実際に本当にそれだけで他は何も無く殺風景だった。

「おいおいおいおい!俺はどうしてここにいるんだぜ!」

訳が分からず小太りの男は細長いポストの投入口から

コンテナの外を茶色の瞳で覗き込んだ。

外では青い服と帽子を着用した男女が忙しそうに行き交っていた。

更によく聞くとまるで動物の鳴き声や男女の話し声も聞こえてきた。

 

(第9章に続く)