(第24章)一部の記憶を消された男

(第24章)一部の記憶を消された男

 

(太った男の日誌に続き)

「ひふの腫れものーが全身にひろがってりょてーよ、りょあしひろがる。

くびーにちいさな赤い花がー生え る。なにがどうって。

かゆいかゆいかゆい 今日はらへったの また生肉くうー。

かゆいかゆい うまかっ です。 かゆい うま。」

ダニア博士は日記を読み終えると大きくため息を付いた。

「正にかゆうま日誌ね。」とつぶやくとまた別の報告書を書く為に

日誌のファイルを閉じて新しい文章作成アイコンを指で押した。

ダニア博士は『新型ウィルス兵器開発部門』に送る為の報告書を

指でキーボードを叩き、文章を書いた。

「新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有』ウィルスは

T-ウィルスの遺伝子の他にGウィルス変異株も含まれている。

どうやらこのウィルスの遺伝子は感染したあらゆる他生命体の

繁殖能力を飛躍的に上昇させる効果があると私は推測した。

つまり独立したウィルス兵器かBOW(生物兵器)として独立させる為には

このGウィルス変異株の影響をなるべく抑える必要性が極めて高い。

繁殖能力が高いと数が増えすぎてしまい。戦場での後始末が困難となり。

自然界のバランスを崩す。早急にウィルス改良を行いGウィルス変異株の

影響を抑えるように。研究主任ダニア・カルコザ」

「それで例のあの次郎と言う日本人の男はどう処置を?」

「彼は『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有』

のウィルス抗体を持っているわ。

もうウィルス実験には使えないし。流石に殺処分は勿体ないわ。いい男だし。

彼はこの研究所の秘密を知り過ぎているわ。外には出す訳にはいかないわね。

いや?まって?このまま記憶の一部を完全に消してBSAAに見つかって

もいいように外へ出してしまおうかしら?一部の記憶さえ消せれば・・・・」

「はい!例の記憶消しですね!では準備を!!」

ダニア博士のアイディアにAI(人工知能)のアポロはそう返事した。

 

そのダニア博士の処置から数時間後。

急に次郎は唐突に目を覚ました。瞼を開いてそこに見えたもの。

馴染み深い自分の家の木の壁。茶色のフローリング。

そして自分が愛用しているウィンドゥズ10が置かれた木の机。

僕はベッドの上にいた。我が家のベッドの上で目覚めた?

僕はパジャマのまま目が覚めた。僕はベッドのシーツに覆いかぶさっている。

僕はゆっくりと上半身を起こした。そして鏡で自分の顔と容姿を見た。

僕の名前は銀浪次郎。僕は数時間前に頭のイカれた男に

ナイフで刺されて殺されかけてー。その先は何も思い出せなかった。

でも救急車が来て何をされたか詳しくは覚えてはいないが『助けられた』。

そしてどっかの病院にいてー。2人の美女に囲まれて。

顔はぼんやりとしか覚えていないけれど『退院』だって言われてー。

全てが曖昧で記憶もほとんど失っていたようだと次郎は思った。

しかも美女の顔さえもぼんやりとして覚えていない。

でも知識は残っていた。パソコンの操作とブログやネットの

繋ぎ方は驚く程、はっきりと覚えていた。

どうやら全ての記憶が消え失せた訳では無い様だ。

あの医者や2人の美女は誰なのか?何者なのか?

あそこはどこの病院だったのか全く思い出せない。

しかしやがて思い出した。そうだ!あそこは聖ミカエル病院だ!

僕はそこに運ばれて治療されたんだ!!あの2人の美女は看護婦で。

医師は多分、俺の担当医師だでも顔や名前は全く思い出せない。

でもーおかげで命が助かった。僕は生き延びたんだ!きっと全ては夢なのか?

いや!きっと現実だろう?だってそうだろ?

ちなみに混乱している次郎は実はHCFセヴァストポリ研究所内で何度も

実験を繰り返して失敗して何度も改良してようやく完成して実用化された

神経ガスを吸わされて意識が無くなり、記憶障害となり、

HCFセヴァストポリ研究所で会った全ての出来事とアッシュ博士、

アンナ、アーニャ、エリナの名前も顔も記憶が消滅して跡形もなく脳から消え去った。

そして『HCFセヴァストポリ研究所の医務室』と言う単語も『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』の単語も

『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り』

の感染変異の経過観察用の男性の生態サンプル入手』と言う単語も

『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)の投与』

と言う単語さえ全てが脳の記憶から二度と思い出せなくなり、

(多分、一生思い出せないと直感で思った)

何もかもの記憶が全て抹消されていた。

代わりに神経ガスの他に記憶操作処理ガスを用いて『HCFセヴァストポリ

研究所にいたのではなく聖ミカエル病院に入院していて医師や

看護婦の世話になっていた』と言う偽の記憶を植え付けられていた。

また聖ミカエル病院に問い合わせたところちゃんと入院歴があり。

一日で退院した事が分かった。ちなみにこれは聖ミカエル病院に

HCFベテラン工作員エイダ・ウォンが侵入し医療関係者に

偽のカルテと治療に使われた薬品や医療器具リストを渡して銀浪次郎と言う男が

電話して来たり、訪ねてきたら偽のカルテを見せて、入院したように偽装するよう

彼らを脅した為である。もちろん自分や家族に危害が及ぶのを恐れた医療機関関係者達

は誰も逆らう事無く素直に従った。(エイダ本人も彼らの素直さに心底ほっとした。)

これにより銀浪次郎は元のIT企業の職場に電話して明日仕事に復帰する事に決めた。

いつも通り、ウィンドウズ10で自分のブログの更新をした。

こうして彼はウィルス抗体を宿したまま元の日常生活へ戻って行った。

とは言えこれもダニア博士の神経ガスと記憶処理ガスのおかげで彼は記憶は無くとも

五体満足で解放された。彼にはあえてある単語の記憶だけが残されていた。

『R型』と『新型T-エリクサー(仮)(E型特異菌遺伝子有り)』と。

彼の脳の奥深くに記憶として残っていた。のちにBSAAは彼を見つけて

新型T-エリクサーの研究開発している組織の存在を知り、ワクチンの完成を

知った事からジルとクエントが調査に乗り出した。また『R型』の存在を知り、

クエントとジル、『R型』を産んだ真の母親の烈花法師が

加わって更なる調査が行われた。

 

再びHCFセヴァストポリ研究所のBOW(生物兵器)及びウィルス兵器中央実験室。

ダニア博士はまた自室で大きな金色の柱と縁取られた黒色の玉座に座って

ダニア博士はモニター画面を開き、また新しい文章を

キーボードを指で叩き、書いていた。

それはさっき電話で話したあのHCFの常連客のライアンズと言う男で

ガーデニングが趣味の女好きの金持ちの意向で開発を進めている

『プラーガータイプ4』では無くこのHCFセヴァストポリに出現した

2体の魔獣ホラーについての文章だった。

今はもうプラントデッドとクモを融合させた新種のプラーガーは

身近にありふれていて文章にしてもつまらない。

それを作るように無理矢理要求されたその客も案外つまらない男かも知れないわ。

まあ―あれはあれで仕事だしね!そう思いつつも実際はプラーガータイプ4

では無く2体の魔獣ホラーについての書いているのだった。文章は以下の通り。

「魔女王ホラールシファーを初め多くの魔獣ホラーは非常に知能が高く

主に夜間に単独で人間を捕食する魔獣ホラーや複数の魔獣ホラー達が集まって

コミニュティを作り仲間と協力して人間を狩るような

個体群がいる可能性も非常に高い。

彼らは陰我(人の欲望や邪心)の宿ったライターやハンドガンを

魔界と現世の通り道にして出現して人間に憑依する。

生物学的に言えばその人間の肉体に寄生してしまう。

つまり彼らはパラサイトでもあるのだ。

多くは人間の全身の肉体に寄生して完全に乗っ取るが一部の個体は人間の体内に

寄生して人を操り、外敵を攻撃したり、あるいは宿主となった人間を

体内から喰らって逃亡する個体もいるようだ。

またある程度追いつめられると本来の姿に変身して戦闘態勢を取る。

姿形は様々で私が過去に遭遇した魔王ホラー・ベルゼビュートは

巨大な蠅と狼を掛け合わせたような巨大な合成獣の姿をしていた。

そして私の目の前で巨大な口と鋭い牙で私の仲間を次々と丸呑みにして捕食している。

人間時は我々普通の人間と変わらず感情もあり、

人間の社会も理解している個体もいた。彼らは常に人間のふりを

して何喰わぬ顔で人間社会に溶け込んでいる。

彼らは人間そっくりに話したり、笑ったり、話題を合わせたり、

演説したり、感情豊かだが実際は夜中機会があれば人間を捕食する。

危険な存在である。彼らは獣なのだ。

また人間に憑依する事によって人間の身体能力を

驚異的にまで引き上げて使いこなす個体もいるらしい。

ある意味では寄生する獣と呼べるかも知れない。

また肉体も完全に憑依した場合は全身の細胞が

魔獣ホラーの細胞と置換されているので通常武器は一切通用しない。

ただし単に体内に寄生しただけなら全身の細胞が人間のままなので

トラックに跳ねられたり、高い所から落ちたりすると

血を流して骨折したり怪我を負う。だが死ぬ事も無い。

つまり脆い人間のままである。また生殖活動や寿命は不明。

しかし寿命に関しては魔王ホラー・ベルゼビュートを例に取ると約2000年

以上は生きられるらしい。つまり我々よりも遥かに長生きなのである。」

 

(第25章に続く)