(第15章)旧米陸軍の闇と魔人フランドール

(第15章)旧米陸軍の闇と魔人フランドール

 

マッドはしばらくエアの無線の周波数を合わせようとしても出来ない事に首を傾げた。

「おかしいな!まさか?いや無線機は全員、昨日技術員達にメンテナンスをして

貰ったばかりだ!勿論、故障や不具合も全て長い時間を掛けてしっかりと

直して貰ったんだ!繋がらない筈が無いじゃないか!

まさか?あいつとストークスの身に何か??

まさか?また魔女王ホラー・ルシファーとか言う奴に襲われてんじゃねえよな?

確か保安室で「ストークスのところへ行ってくるよ!また怯えてないか心配だから」

って言って出て行ったよな!心配だぜ!一度あのストークスのいる

地下の隔離部屋の一本道の方を見に行くとするかな。

マッドはダクトの右の細道を使ってUターンするとストークスのいる地下の隔離部屋

がある一本道の天井裏のダクトを目指して

どんどん匍匐前進で先へと進んで行った。

 

四角いルービックキューブのような世界。

エアは「ここは何処だ?」とまた呟いた。

その空間は果てし無く広大でオレンジ色に輝く壁や床や天井を覆っていた。

それ以外何も無い空間。邪魔な障害物は一切無かった。

ただオレンジ色に輝く広大な更地にエアは見えた。

まるで荒野か砂漠のようだ。そう言えば結構暑い。汗ばんでいるなー。

そう思いつつもそのルービックキューブ異世界を歩き続けた。

やがて彼の耳にチリン!チリン!と言う鈴が鳴るような音が何度も聞こえた。

「んっ?何だ?」それは直ぐ近くで鳴り響いているように思えた。

続けてチャラ!チャラ!と何かぶら下がったものが

左右に揺れるような音も何度か聞えた。

エアは「誰だっ!」と大声を上げた。やがてエアの目の前に

一人の10歳未満の小さな女の子が現れた。「君は??」とエアは尋ねた。

その10歳未満の女の子の特徴は以下の通り。

金髪をサイドテールにまとめ、その上からドアノブ型のナイトキャップを被っていた。

瞳は真っ赤に輝いていた。また服装は真紅を基調とした半袖の服とミニスカートを履いていた。ちなみにミニスカートは一枚の布を腰に巻いて二つのクリップで留めていた。

背中からは1対の枝に七色のクリスタルが幾つも並んでぶら下がったような

歪な翼を生やしていた。そして赤いソックスに赤のストライプシューズを履いていた。

すると10歳未満の女の子はエアに初々しくお辞儀をした。

「私は魔人フランドールよ!初めまして!エア・マドセンさん!」

エアは10未満の女の子の大人びた口調に戸惑いながらもこう答えた。

「ああっ!あっ!よっ!よろしくっ!エア・マドセンだ!エアと呼んでくれ!」

「フフフッ!じゃ!そうさせて貰うわ!エアさん!ところで突然だけどさ!

このHCFのセヴァストポリ研究所のあるこの土地はね!大昔に魔女王ホラー・ルシファーがここを訪れて人間とある取引をした場所なの!貴方達知らなかったでしょ?」

エアは魔人フランドールの言葉に驚いた表情をした。

「大昔にあいつがこの土地に訪れていたって?

どう言う事なの?えっ?その話はここじゃ!」

魔人フランドールは戸惑いを隠せないでいるエアの姿を見て楽しくなったようだ。

「えへへ」と笑いつつも話を続けた。

「聞いた事も無い?何せこの土地にいた旧米陸軍が当時の細菌兵器の研究実験資料

終戦後かその戦争中に全て地下の暖炉や焼却炉に放り出されて

燃やし尽くされたほとんど残っていないわ。

既にこの土地の旧米陸軍の研究所にはほとんどの物的証拠も真実も闇に葬られたわ。

「じゃ!いや!この土地には何も残っていないと?

これは?この四角いルービックキューブのような世界は?」

「これは私が賢者の石の力を利用して作り出したバベル超結界!!

一時的なもので用が済めば消滅する。さあ!エア・マドセン!

貴方は魔女王ホラー・ルシファーから力を得た。貴方がその力を使いこなし、

明日!彼女と戦うに相応しいかどうか試してあげる!ルシファーの力は賢者の石の力!

その力を持つ資格があるかどうか!私が見極めてあげるっ!」

「何を言って・・・・君は何がしたい!何が目的なんだ!」

「敗北を知りたいっ!!」そう言うなり魔人フランドールは全身から真っ赤に輝く

強力な賢者の石の力と魔導力の刃を放ち、エアの身体を吹き飛ばした。


フランドール・スカーレットの主題によるフーガ イ短調【Fuge a-moll】

「うおおおおおおおおおおおおっ!」

更に賢者の石と魔導力の刃は全身のHCFの保安部隊員の真っ黒な鎧のような戦闘服や

背中のショットガンと腰のハンドガンと両頬と両手の皮膚をズタズタに切り裂いた。

そして全身から赤い血液と黒い破片が飛び散った。

やがてハンドガンもショットガンも完全に壊れてしまい、

使い物にならなくなっていた。

最初の一撃で防具と武器は完全に機能を失った。

エアはあおむけに倒れたもののようやく立ち上がった。

しかし防具や武器が全て役に立たないと知るや否や「チッ!」と舌打ちした。

くそっ!これじゃ!攻撃と防御の手段がっ!!

魔人フランドールはそんなエアにこうアドバイスした。

「じゃ!魔女王ホラー・ルシファー由来の賢者の石を使えば??」

「でも?どうやって!!うわっ!うわっ!ぐっ!わっ!」

魔人フランオールはエアの目の前に急接近した。

同時に目と鼻の先で回転しながら左右の腕を振り、小さな拳でエアの

右頬と左頬を交互に殴り続けた。エアは左右に酷い激痛を感じた。

「キャハハハッ!反撃しないと!死んじゃうよ!!」

魔人フランドールは最後に右腕を高速で伸ばして右の小さな拳で

エアの下顎を殴りつけた。エアは高速で真上に吹っ飛ばされた挙句に

高速でオレンジ色に輝く床に叩き付けられた。

エアは胸部に激痛を感じつつも両膝をオレンジ色の床につけてどうにか立ち上がった。

その力はもはや10歳未満の女の子とは思えない凄まじい万力だった。

エアは思わず口から血を吐いた。量は少しだがヤバいかも知れない。

魔人フランドールはストン!とオレンジ色の床に着地した。

「まだ足りないわ!貴方には極限の死の恐怖がっ!だから!貴方は人間のままよ!

強大な力を得た貴方は意志があるの?自らの意志で戦う権力は貴方に存在するの?

その意志は何?何の為に貴方は生きている?

何の為に人と関わっているの?何故?闘う?

何故?ここで働いているの?思い出しなさいっ!そして賢者の石、

始祖ウィルスに自らの意思を示せ!あと!ついでに貴方の恋人ストークスが何故?

HCF上層部の決定で殺処分されるかも教えてあげるっ!知りたかったら!

私を倒して力を認めさせなさいっ!」

魔人フランドールは両掌に真っ赤に輝く賢者の石を収束させた。

「火炎属性魔法特大威力!ブラッディローズ!!」と彼女は凛とした声で言った。

同時に魔人フランドールの両掌から真っ赤に輝く獄炎の超巨大な

血の薔薇の形をした火球をエアに向かって放った。

魔人フランドールは両手を差し出し、

両掌から賢者の石を集束させた真っ赤に輝く獄炎の

超巨大な薔薇の形をした火球のブラッディローズをエアに向かって放った。

エアは目の前に迫り来る超巨大な獄炎の薔薇の形をした火球を茶色の瞳で見るなり

「うわあああっ!」と大声を上げた。その超巨大な薔薇の形をした火球が

徐々に自分に近付く度に両腕や全身が焼けるような痛みが強くなって行った。

「くっ!くそっ!やばいっ!やばいっ!焼け死んじゃう!!」

エアはどうすればいいのか分からずただ茫然と立っていた。

そして必死に彼はどうしたら命が助かるのか頭をフル回転させて考えた。

必死に回転、回転を繰り返しても何も思い浮かばなかった。

全身の肌が暑くちりちりと焼けるのを感じ、焦りを募らせた。

やがてその真っ赤に輝く獄炎の巨大な薔薇の形をした火球を目の前にして

エアはどうしようも出来ず半ば諦め、思わず苦笑いを浮かべた。

「これは・・・・無理だな・・・・まさかね。ここで死ぬなんて」

御免な!HCF本部長ブレス・さん!みんな!パパ!ママ!

そして・・・・ストークス!僕は何も出来ない無力な存在だ!

僕は無力!無力!無力!何も出来ない!くそっ!ちくしょう!

ちくしょう!ちくしょう!ちくしょおおおおっ!僕はッ!どうして?!

その時、僕の脳裏にストークスの笑い声が聞こえた。

更に今度はストークスに僕の手作りのクッキーとチーズケーキを

あげた日の事が思い出された。ストークスはモグモグと口を動かしながら

「おいしい」と笑顔で言ってくれた。

チーズケーキもフォークで一口づつ口へ運び食べて「おいしい」と言ってくれた。

次の出来事は今日、ストークスは真っ青で怯えきった青い瞳で僕の顔を見ると

ポロポロと涙を一気に流し始めた。僕は無言で優しくストークスの

スレンダーな身体を両腕でしっかりと抱き締めた。

そのあと僕は彼女に言った事を思い出した。

「大丈夫だ!君は僕が命懸けで守って見せる!」と。

心配する両親に対して僕は言った決意の言葉。

「それでもストークスを守る為にやるんだ!」

「僕はまだ子供でもやるっと言ったら!やるんだ!」

そして徐々にエアの心の中にかつて自分が決意していた「ストークスを守りたい」

と言う思いがふつふつと湧き上がっていた。

 

(第16章に続く)