(第49章)M神社の奇跡の夜(後編)

(第49章)M神社の奇跡の夜(後編)

 

勿論、東風谷早苗は気付いていた。恐らくそいつの名前は『イナンナ』だろうと。

恐らく『母親』『親子』『息子』の思念を持つエアの母親の残留思念に引き寄せられた

のだろうと考えた。そして今、新しい役割と共に復活しようとしていた。

今後、復活した彼女は自分の息子を守護するように地母神になるように

現人神(アラヒトガミ)である東風谷早苗は祈った。今はそれしかないのだから。

間も無くして東風谷早苗と他の隊員達の周囲は膨大な光に満ちた。

やがて膨大な光は強烈な神風と共に誰の目にも見える事も止まる事も無く

一気に吹き抜けるように天空を切り裂き、光の矢野如く進んで行った。

やがて空気中の全ての粒子の思念に万物に奇跡が宿った。

そして粒子の思念は一気に女性の姿となった。

やがて女性の姿はゆっくりとスペイン人の顔と容姿になった。

彼女は艶のあるツインテールの茶髪を胸元まで伸びて行った。

キリッとした細長い眉毛。高い鼻。茶色の瞳。形の整った美しい顔立ち。

ピンク色の唇。美しい白い歯。禁色に輝く服を着ていた。

更に金色の服に覆われた丸い両胸。また深い胸の谷間には白い肌をしていた。

体形はスレンダーな身体のままで下は真っ白な球体の形をしたスカートを履いていた。

両脚はしなやかで長くしかも茶色にまるで鳥のような形をしていた。

また両足はまるで鷹に似た鋭利な10対の長い鉤爪が生えていた。

頭部には十字架が組み合わさった突起が生えていた。

それはアンヘラそっくりの新しい現人神(アラヒトガミ)だった。

しかし実際は違っていた。

「我は。いや私は転生した。地母神イナンナ。」と名乗った。

しかし同時に「自分はエア・マドセンの母親であり。

エアを守護する役割を与えられ現世に復活した。」とも付け加えた。

「貴方の息子のエア・マドセンは魔女王ホラー・ルシファーの

手によって目の前で失ってしまった前世の貴方の存在を求めています。

今、貴方の息子さんはストークスのみならず貴方も

心の底から愛しています。どうか彼の元へ!」

マッドも他の隊員も「お願いします!!!」

と恥を忍んで頭から全身ずぶ濡れになりながらも深く頭を下げた。

するとイナンナはフッと笑い、こう答えた。

「フッ!言わずもがな心得ておる。すぐに彼の元へ行き。

生前人間だった頃の母親の人の子と同様!再び我が息子に生きる力と戦う勇気を。

この世界で恋人ストークスを守るのに必要な全ての力をエア・マドセンに

与えに行きます!現人神(アラヒトガミ)東風谷早苗とHCF保安部隊の隊員達よ!

その妾を新たな母親として転生し、産んでくれた事に心から感謝する!

早速だが彼の元へ急ごう!!」

そう言うか早いか地母神イナンナは直ぐに姿を消した。

東風谷早苗も安堵した表情を浮かべた。

続けて東風谷早苗は「良かったです。」とつぶやくと、消えた。

それを保安部隊の隊員達は東風谷早苗と同じく安堵の表情で見ていた。

やがてマッドは他の隊員に「帰ろうか」と言った。

そして保安部隊の隊員達はマッドの意見に賛成して再び車に乗り込んだ。

マッドはエンジンを起動させて車を発進させてM神社を後にした。

それからマッドとHCF保安部隊の隊員一行は

HCFセヴァストポリ研究所へ帰って来た。

同時にM神社へ行くマッド達のHCF保安部隊とは別動隊のマルフォス隊長率いる

『第2十字部隊・諜報班』の大型トレーラーで到着していた。

やがて大型トレーラーからは金髪のオールバックの青年が降りて来た。

続けて他の隊員も降りて来た。すると金髪のオールバックの青年は

全身ずぶ濡れのマッドや他の隊員達を見るなり、小馬鹿にしたように笑い出した。

「ハハハッ!マッド!他の隊員方諸君!

ずぶ濡れでさ!傘かカッパでも忘れたのかい?」

するとつられて他の隊員達も吹き出したように「クスクス」「ぶはっ」と笑い始めた。

「フーン!マルフォス隊長!今日はご機嫌じゃないか?どうしたんだ?」

マッドはこみ上げる怒りを抑え込み、固く拳を握り締めて平静をよそった。

「なんでも。今日はかなり凄い収穫があってなあー」

マルフォス隊長はその部下の大柄な茶髪の青年と細身に茶髪の青年に合図をした。

こいつらの名前はグラップスとゴイルズだ。マルフォス隊長の右腕と左腕だそうだ。

グラップズとゴイルズは大型トラックからある遺物の入った強化ガラスケースを

取り出した。その強化ガラスケースに入っている遺物はマルフォス隊長が言うには

『ファントムの遺物』らしい。その『ファントムの遺物』は巨大な生物だった。

大きく捻じれた太く長い三角形の頭部の表面は無数の鋭い棘に覆われていた。

更にモノアイの形をした長四角の僅かな隙間から真っ赤に輝く昆虫の複眼があった。

また下部の底には巨大な三角形の口があり、無数の鋭利な銀色の牙が並んでいた。

更に4対の鋭利な異常に長い蜘蛛の脚が生えていた。

4対の蜘蛛の脚の先端は長く変形して超巨大な死神の鋭利な鎌の形をしていた。

しかし後ろの細長い蜘蛛の脚は先端が細長い槍のように尖っていた。

下腹部は大きく丸く膨らんでいて真っ黒な完璧と言えそうな甲殻に

全身を含めてかなり強力に守られていた。コールドスリープ(冷凍冬眠)状態に

されていて全身に青い氷と冷気を纏い、一切、身動きをしなかった。

「いやーこいつを捕まえるのを苦労したよ!

何せ滅茶苦茶凶暴でさ!」とマルフォス隊長。

更にマッドが怒りを堪えて黙っているとマルフォス隊長は自慢げに話を続けた。

「こいつは昔にHCF社が技術提供した『コネクト』とかつてアンブレラ社の

遺産を求めて活動している『アンブレラコア』のならず者の無能な傭兵と

ザル組織の連中共がトライセル社が所有していた廃研究所に白い仮面を被った

黒いマントの怪人が隠したとされる

『ファントムの遺物』を探していてな!!それで!!」

するとゴイルズとグラップスの隣に立っていた女性隊員の

レオナ・ポートマンは怒った表情でマルフォス隊長を見た。

「あいつら自業自得だっただろ?」とやや戸惑った表情で答えた。

レオナ隊員は何か言いたげに険しい表情でマルフォス隊長に詰め寄った。

しかしすぐに呆れた表情をしたブレス保安部長が現れた。

「お前ら!さっさと回収した『ファントムの遺物』を研究所の最下層の

厳重な隔離エリアに運べ!モタモタするな!仕事しろ!!サボるんじゃない!」

マルフォス隊長や他の隊員達は強化ガラスケースに入っている

『ファントムの遺産』をコンテナの中に収容する作業に入った。

それを見届けたマッドと他の隊員達は直ぐに踵を返して保安室へ戻って行った。

 

HCFセヴァストポリ研究所のBOW(生物兵器)及び

ウィルス兵器開発中央実験室の片隅にあるHCF研究開発主任

ダニア・カルコザ博士の自室。ダニア博士はモニター画面を見ていた。

目の前のモニター画面には例のマルフォス隊長率いる『第2十字軍・諜報班』

が回収した『ファントムの遺物』の回収任務に関しての報告書が表示されていた。

『ファントムの遺物』回収作戦。『ファントム・トレジャー作戦』。

HCFが過去に技術提供した『コネクト』とアンブレラの遺産を求めて

アンブレラ社の跡地に潜入しているならず者の『アンブレラコア』が白い仮面を被った

黒いマントの怪人が残したとされる『ファントムの遺物』を求めてかつて

トライセル社が所有していた廃研究所へ侵入し多との報告があり。

勿論、直ぐにHCF『第2十字軍・諜報部隊』も潜入した。

しかしHCFの特殊部隊が潜入する頃にはあのファントムの遺産が

単生殖により増殖していた。幼体と成体の大群と交戦しており、

これらによって『コネクト』の日本人とアメリカ人女性の分子生物学者を除く

約294人の死者と共に全滅。また『アンブレラコア』の傭兵も雇われた

45人が死亡したものの『コネクト』の日本人女性とアメリカ人女性の

分子生物学者を救出した3名の『アンブレラコア』は生存した。

これにより生存者は6名いる事が判明した。

また3人の『アンブレラコア』は2人の『コネクト』の

日本人女性とアメリカ人女性の分子生物学者2人を救出してHCF特殊部隊の

裏をかいて廃研究所から脱出して逃亡した。

またHCFの特殊部隊は地下の最深部にいた『ファントムの遺産』と生まれた

成体と幼体との死闘の末に『ファントムの遺産』を強力な冷凍冬眠C4にて捕獲して

強化ガラスの中に収容して無事にHCFセヴァストポリ研究所に輸送して回収した。

また『コネクト』が僅かに残したデータも回収した。そして成体に襲われてしまった

日本人女性とアメリカ人女性の分子生物は妊娠しており、胎内には

SHB(サイレントヒルベイビー)と呼称される人間の胎児が存在する事が判明した。

これらは異形の怪物では無く人間の胎児である。成長も少し早いらしい。」

更にダニア博士はその『ファントムの遺産』から産まれた異形の怪物の

幼体と成体の写真画像を用意した。

『ファントムの遺物』から産まれた異形の怪物の特徴は以下の通りである。

その姿はゲームの敵キャラに出て来そうな奇妙な身なりをしていた。

大きく捻じれた太く長い三角形の頭部に無数の鋭い棘に表面が覆われていて

目も鼻も口も存在しなかった。しかも頭部は時々、真っ赤に発光した。

まるでクリスマスツリーのように点滅し続けていた。

どうやら光っている間は呼吸をしているらしい。

そして動きを感知するようだ。

更に周囲の生物の動きを感知すると大群で襲い掛かるようだ。

 

(第50章に続く)