(第67章)『静かなる丘』へ(後編)

(第67章)『静かなる丘』へ(後編)

 

リー・マーラの話によれば一ケ月前に『R型』とその土着神が会話していた形跡が

脳内に埋め込まれた軍用AI(人工知能)の音声データに残されていたらしいの。」

「かなりヤバい神様だって聞いたけれど・・・・」

「その静かなる丘の土着神は人間の憎しみや心の闇を餌にして成長するらしいの。

そして異世界を産み出して人を迷わせる。

復活するには母体となる人間の女性が必要で。

エロースの母体になったリサ・アルミケラと類似性と共通性が見られるの」

「エロースはただの超巨大BOW(生物兵器)ではないと?」

「完全復活した場合、この世の全てを破壊するらしいわ」

じゃ!エロースも!もしも?ジルさんやクエントや烈花法師に倒されなかったら?

こちら側(バイオ)の世界はヤバかった訳ですね。」

「幸いにもそれは無かった不幸中の幸いね。」

エイダは車を運転しつつもニューヨーク市内のチェルシー地区を出た。

エイダは『静かなる丘』のある

アメリカ北東部へ向かって車を走らせて行ったのだった。

ちなみにエアは自らエイダから借りたスマートフォンから

HCFセヴァストポリ研究所にいる父親のブレス保安部長に自らの無事を伝えた。

そしてスマートフォンのスピーカー越しでブレス保安部長の

雷のような怒鳴り声が聞こえてきたので耳がキーンとなった。

エアは思わずスマートフォンのスピーカーを遠くにやる為に右腕を伸ばした。

「全く心配をかけて!みんなも心配していたぞ!保安部隊全員も!ダニア博士もだ!」

「御免なさい。帰ったらちゃんと謝るから!」

それからブレス保安部長とエアがスマートフォンでしばらく

やり取りをしている中、エイダが運転する車は道路を走り続けていた。

 

そしてエアとエイダが乗る車が『静かなる丘』に出発した頃。

魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーは真っ赤な車に乗って

北東部の『静かなる丘』に向かっていた。

それで大君主様、ジョン・C・シモンズ事、魔王ホラーベルゼビュートに

依頼された新たな仕事としてHCFのエイダ・ウォンとエア・マドセンと

『静かなる丘』で合流して、合同で例の土着神の調査をするようにと言われていた。

やれやれ、さっきニューヨーク市内の講演でチラッと顔を見ただけなのに。

まさかその『静かなる丘』で会う事になろうとは・・・運命かしらね?

そして静かなる丘の土着神について大体、大君主様から聞いていた。

私も風の噂で聞いた事がある。かなりヤバいらしい。

恐らく本質的には破壊神の性質を持っているようだ。

それから私は手元に持っていたテープレコーダーを再生させた。

しばらくはザーザーザーザーザーとノイズが流れ続けていた。

やがて『R型』の声がスピーカーから聞こえて来た。

「貴方?本当の神様?私の復讐の手助けをしてくれる?」

更に名状しがたく冒涜的で不気味な声が聞こえて来た。

「そうだ!私も復讐・・・・手伝おう・・・人間の女を器に・・・・・」

「人間の女を器にって?どうやって?」

「反メディア団体・・・ケリ・・・ヴァー・・・の女を・・・使えばいい・・・・」

神の・・・・保育器・・・・造り出せ・・・いう通りに・・・。

神の力を授けよう。『R型』に・・・・さあ!!」

「うん!分かった!これで復讐がうまく行くなら!

汚れた大人達を一人残らず殺し尽くして!新しい理想の世界を創造出来るなら!

やってみる!とにかく!私なりに頑張ってみる!」

「き・・・たい・・・・いして・・・・い・・・る・・・・」

それからカチッと音を立ててテープレコーダーの音声は止まった。

「まさか?異教の神が『R型』に接触して来るなんて。

きっと奴はその時に『R型』に自分のデモニックジーン(悪魔遺伝子)を

科学的に説明のつかない霊的方法で与えたんだわ。

『R型』も迷わずそれをエロースに利用した。しかもほぼ完全な状態として。

BSAAエージェントの2人の活躍が無かったらこちら側の世界(バイオ)の

世界は滅んでいたかも知れないわね。そうなったら最悪の結末ね。

魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーは運転しながらそう考えていた。

「それに気お付けなきゃいけないのは例のカルト教団ね。

あいつらはロス・イルミナドス教団の10倍以上ヤバい連中だって聞いているわ。

それにあの子・・・・神の力・・・・」

と呟きながらしばらく彼女は運転し続けていた。

しかし不意にニューヨーク市内の街から出た先の道路のど真ん中に

一人の男性が立っているのがフロントガラスから見えた。

「えっ?ちょっとまって!」と彼女は大慌てでブレーキを踏んだ。

キーツと音を立てて車は急停止した。そしてドアを開けた。

彼女が車から出てくるとそこにうずくまっている男性がいた。

しかもよく見ると12歳の少年だった。「ねえ?」と彼女は呼び掛けた。

そして彼女の声に反応した12歳の少年は魔人フランドール事、

エルザ・ウォーカーを見た。彼女は息を飲んだ。

その12歳の少年はかつてエア・マドセンの前世だった

アキラにそっくりの顔をしていた。

「嘘・・・でしょ?」と信じられない表情になった。

エルザ・ウォーカー事、魔人フランドールは激しく動揺した。

そんな。筈無いわ。だって!死んだ者!ここにいる筈が!

「名前は?名前は?」とおっかなびっくりと尋ねた。

「僕はアキュラス。」と名乗った。

「・・・・・・・・・・・まさか?本物のアキラ?それとも幻??」

「どうかな?」とアキュラスははぐらかした。

「どこに行くつもりなの?何をしに行くの?」とエルザ。

「『静かなる丘』に行くつもりだよ。もちろん!君もでしょ?」

「ええ、そうよ。ある極秘調査で・・・・あっ・・・・」

「知ってるよ!あの悲劇の少女『R型』が操ったエロース」

すると魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーは鋭い目つきに変わった。

「どうして?『R型』の事を知っているの?エロースの事まで!!

貴方何者?本当に人間なの?それとも?」

するとアキュラスは魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーに近づいた。

そしてお互いの鼻がくっつ位、顔を近付けた。

「エロースって?性を司る神様だっけ?」

「いや、エロースはギリシャ神話に伝わる恋心と性愛を司る神様よ。

それが一体?はっ!・・・・・・・・・・・・・・・・・」

その時、急に周囲の空気が一変した。同時に夜空は一瞬で真っ白な霧に覆われた。

あっと言う間に一寸先も何も見えなくなった。

しかも冷たく明らかにこちら側(バイオ)の世界の自然で起きる霧の現象とは

違う感じがした。魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーは警戒した。

そして彼女は自分の目の前にいる12歳の少年のアキュラスから

距離を取ろうとそのままジャンプして後退した。

しかし目の前にいた筈のアキュラスは一瞬で姿を消した後に瞬間移動して

魔人フランドール事、エルザ・ウォーカーの背後に現れた。

「警戒しなくていいよ。おめでとう!君は・・・・」

アキュラスは右手を差し出し、真っ赤な円環の魔法の強力な結界を発動させた。

同時にエルザ・ウォーカーと言う名前の20の成人女性の姿は消滅した。

気が付くと本来の10歳未満の幼い子供の魔人フランドールの姿に戻されていた。

変身を!解かれたっ!これじゃあたしの正体が奴らに!!

魔人フランドールが振り向いた時にはもう遅かった。

アキュラスは12歳の少年の姿をしていたが明らかに人間でない邪悪な力を感じた。

その目の前のアキュラスの邪悪な気配に気を取られていた

魔人フランドールは突然、背後から何者かに捕らえられた。

あっ!くそっ!離せっ!このっ!このっ!

魔人フランドールは吸血鬼特有の万力で振りほどこうと暴れた。

しかし自分を捕らえた何者かの力の方が上回っていた。

彼女の10歳未満の小さな身体は赤いゴム手袋を履いた両手で

しっかりと胴体を持ち上げられていた。しかも幾ら暴れても全く離さなかった。

「ヴァルティエル様!神の母体!聖女を捕らえてくれましたね!」

「まさか?『静かなる丘』の土着神??」

「そう、さて『エロース』は人間に囚われてしまいましたが・・・・。

道でしょう?捕らわれる気分は?魔人フランドールさん!」

「くそっ!最悪よ!神の母体って?聖女って?私はまだ子供なのよ!」

「ですが強大な力と闇のトラウマと闇を持っています。」

アキュラスは掌を魔人フランドールに向けた。

スーツと上下に掌を動かすと魔人フランドールはゆっくりと瞼を閉じた。

そして全身を力無く両腕両脚をダランとさせて眠りについた。

「さあー神降ろしの準備をしよう!!小屋へ運ぼう!!」

ヴァルティエルは魔人フランドールをお姫様抱っこした。

そしてすぐにアキュラスとヴァルティエルはその場から姿を消した。

残っていたのは彼女が乗っていた車のみだった。

 

(第68章に続く)