(第13章)裏世界の住人リサ・ガーランド

(第13章)裏世界の住人リサ・ガーランド

 

エイダとエアは病院地下から上の階へ戻ろうと階段へ向かった。

その時、エイダは気配を感じ、暗い廊下の奥をライトで照らした。

するとそこには赤い目をらんらんと輝かせてエアとエイダを見ていた。

その10歳未満と思われる女の子は黒いドアノブ型のナイトキャップを被っていた。

真っ黒な服装をしていた。半袖の服もミニスカートの一枚の布さえもボロボロだった。

しかし見た目は確かに魔人フランドールそっくりだった。

エイダはその女の子に話しかけようとした。

突然、サイレンの音が長々と響き渡った。

ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!ウーツ!!

ウーウーウーウウウウウッ!ウウウッ!!

更にエイダとエアの周囲の全ての壁と床が次々に細くまるで紙切れのように

どんどんパリパリと音を立てて、剥がれて行った。

そして瞬く間に壁や床の全てを引き剥がして行った。

続けて壁や床は見る見る内に真っ赤な血と錆に覆われた異世界

つまり、裏世界へどんどん変わって行った。

「これは?裏世界?まさか?フランが??」

「かも知れない!これは多分、彼女の力!!」

やがて表世界から裏世界へ変えたブラックフランドールは

ニコニコ笑いながらすーつと闇の中に姿を消した。

気が付くと病院地下は裏世界となっていた。

エアとエイダが階段で一回に戻ると思った通り、一面の床や

壁、天井は赤と錆に覆い尽くされ、うす暗くなっていた。

また窓の外もまるで夜中のように暗闇に包まれていた。

エアとエイダはさっきのブラックフランドールを探して

ボロボロになった自動販売機の角を曲がりエレベーターに立った。

エイダはエレベーターのボタンを押してエアと共に乗り込んだ。

エアはとにかく現在地は一階なので今度は2階のボタンを押した。

エレベーターは上昇し、チン!と音を立てて扉は開いた。

2人はエレベーターを出た・・・・筈だった・・・・・。

ふとエアは振り向いてエレベーターの四角い部屋を見るといつの間にか

エイダの姿が影も形も無く消え去っていた。

エアは慌ててエイダの姿を探した。

しかしどこにもエイダの姿は見当たらなかった。

エアは独りで2階の廊下を歩き回る羽目となり、「あーくそ!」とつぶやいた。

2階のエレベーターの横に茶色のドアがあったが鍵が壊れて入れなかった。

更に別のドアのドアノブを回したが結局、壊れていて開かなかった。

そこで仕方なく独りでエレベーターに戻った。

そしてボタンを押して今度は3階へ行った。

エアはエレベーターを降り、3階へ出た。3階はまた2階と同じようにドアがあった。

ドアノブを回したが壊れていて入れなかった。またエレベータにエアは戻った。

そして2階に戻ろうとした。しかし3階までのボタンしか無かった筈なのに。

いつの間にか4階のボタンがあった。思わずエアはぞっとした。

「マジ?」と呟きつつも恐る恐る指で4階のボタンを押した。

エレベーターは4階に着いた。エアは外へ出た。

幾つかのドアはあるようだがどれも開かなかった。

それから廊下の曲がり角の正面の赤と錆に覆われた扉の前に近付こうと歩き続けた。

右手を伸ばしてー。しかしー。

バアアアアアン!!といきなり正面の赤と錆のドアが左右に開いた。

続けて超高速であの『金髪の全身血塗れの赤い服の看護師』が突進して来た。

その姿は両肩まで伸びた金髪。更に額から顔全体。

そして深い胸の谷間まで真っ赤な地で濡れていた。

赤いカーディガンも看護婦の白い服もスカートも

両手も全て血で染まり尽くされていた。

更に血に染まった両腕をエアに向かって差し出した。

そして大きく口を開け、真っ黒な瞳をエアに向けた。

超高速でエアの目と鼻の先まで急接近した。

同時にエアの目と鼻の先で真っ赤な霧となって姿を消した。

エアは目が飛び出さんばかりに見開いた。彼は口を開き、やや高い声で絶叫した。

「だあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

それから金髪の血塗れの赤い服の看護婦の幽霊が赤い霧になって消えた後には。

エアの目の前に開けっ放しのドアとその先の入り口が残されていた。

エアは腰が抜けてぺたっと赤い血と錆の床に座り込んだ。

ハアハアハアと息を吐き続けた。恐怖のあまり心臓が痛くなった。

それから反射的に笑い出した。「ちょっ!今時!だあああっ!って驚くなんて(泣)」

そして『金髪の血塗れの赤い服の看護婦の幽霊』の精神攻撃に

元々、どっきり系ホラーやびっくり系ホラーが超苦手な

エア・マドセンは精神的・肉体的に行動不能になった。

幽霊は本人も恋人のストークスも苦手な存在だった。

しばらくエアは涙を流しながら「ハハハハハハハハッ!」と笑い続けた。

「ああっ!2030年一番びっくりしたかも知れん!」

とエアは思わず苦笑いを浮かべた。

その時、ふとアルミケラ病院の玄関の救急車のフロントガラスにあった

『ある看護婦の走り書き』を思い出した。

そしてさっきのが多分、このアルミケラ病院でマイケル・カウフマン医師に

殺されたリサ・ガーランドではないか?と思った。

他にも彼女はアキュラスに脅されて火傷した魔人フランドールの看護をしていた。

もしかしたら何か知っているかも知れない。呼ぶのは怖いが。

エイダも消えてしまった今、彼女を探す為にリサの幽霊から情報を。

「おーい!ここだ!エアだ!リサ!話を聞いてくれ!!」

しーんと何も反応は無かった。真っ暗な病院内は静まり返っていた。

しかしエアは諦めず何度も何度もリサの幽霊を大声で呼び続けた。

すると背後から「なんなのよ!とっとと出て行けって!!」

と苛立ちの募った声がした。

エアは「わあっ!」と声を上げて素早く振り向いた。

すると『金髪の全身血まみれの赤い服の看護婦の幽霊』の正体の

サ・ガーランドが立っていた。その時、彼女は生前の人間の女性の姿をしていた。

とても美しい女性で額も顔全体も白い肌で白い肌の深い胸の谷間。

赤いカーディガンを着て真っ白な服にスカートを履いていた。

そして美しい緑色の瞳でエアを見た。「実はー」とエアは話を切り出した。

「君はアキュラスって言う名前の少年に脅されて魔人フランドールの

世話をしていたね。彼女は知り合いなんだ!!今この病院内にいるか?

それともアキュラスは何者なんだ?」

「ええ、確かにそんな名前の女の子をあいつに脅されて重度の火傷の世話と

看護をしていたわ!アレッサの時みたいに!!またあの子!苦しんでたし!

苦痛を感じていたわ!!想像出来る?高熱で目も覚まさない!点滴を受けて!

あの子は微かに息をしているだけだった。

皮膚のほとんどが焼け爛れて包帯を何度も変えても

直ぐに血と膿でドロドロになっていた。

あの子は神に生かされているのよ。またアレッサの時のように。」

リサは両手で頭を抱えてうずくまってしまった。

しばらくしてフラフラ立ち上がり、話を続けた。

「私は彼に脅されてアルミケラ病院で重度の火傷を負った魔人フランドールの

世話を強制的にやらされていたけど。だから私はあのアキュラスって奴の

『全てのメモ』に書いて最初の路上に置いたのよ。それをもしかして?」

「そうですか。貴方が置いたんですね。」

エアはポケットから『アキュラスと名乗る謎の男の子のメモと写真』を見せた。

リサは喜んだ表情になった。「ええ、そうよ!貴方が拾ってくれたの?!

「そうだ!じゃ!魔人フランドールの行方は知っていますか?」

「彼女はついさっき貴方が来る10分前に移動したの。

私がさっきのメモと写真で居場所をバラしちゃったから。その子はここにはいない。」

「じゃ!一体?どこに?」とエアはリサに尋ねた。

「それは分からないわ!どこへ行ったのか?私も知らない内に。でもアキュラスの小言

を盗み聞きしたら『2つの宇宙の卵は静かなる丘のどこかに隠した。』って言ってた」

「『宇宙の卵』だけじゃ情報が少ないな!

探して欲しい!頼む!リサさん!僕の願いを!」

続けてエアは理沙の青白い両手をギュッと握りしめた。

「お願いします!貴方が幽霊なら何処にだって!裏世界や表世界!

死者と生者の世界を行き来出来る貴方なら!」

しばらくリサは顔を僅かに赤くして視線を逸らし、黙り込んだ。

「分かったわ!探してみる!」とだけ答えた。

エアは大声で大喜びした。「やった!やった!」と少年のように。

リサは思わず「ウフフフッ!」と笑い続けた。楽しくなったのでリサも笑った。

するとエアも嬉しくなった。「じゃ!とにかくやってみる!」とだけ答えると

エアに背を向けて歩き出した。しかし直ぐにリサは立ち止った。

「あのー出来ればシルクロードさんって日本人に

・・・・いや・・・なんでもないです!」

とだけ言うとリサは物悲しい顔をした。

そして再び背を向けてリサーはスーツと前進した。

やがて血と錆の壁の中にゆっくりと消え去り、姿を消した。

エアも曲がり角の正面の血と錆に覆われた開きっぱなしの扉を通って先へ進み始めた。

その時、床にメモが落ちていたので拾って読むと『賢者の石の力で瞬間移動成功!

トルコ陸軍回収ヘリに移動成功!!クルセアーン・ネイリス』とあった。

クルセアーンは無事に異世界化したこの街を脱出したか。僕はエイダを探さないと!!

 

(第14章に続く)