(第20章)菌根

(第20章)菌根

 

のぴはクリスとドラキュラ伯爵の説明を受けつつも周囲を見た。

どうやらそこは『最果ての死の砂漠』の地下洞窟らしい。

そこは全体的にまるで子宮の形をした広大な空間が広がっていた。

壁や天井は黒結晶の岩石や小石で覆われていた。

さらに奥の穴が見えた。しかもこの先は一本道になっていた。

「本当にあっているんだろうな?この先に若村がいるのか?」

「間違いない!あいつは肉体を完全に失い。

それでも奴は計画を遂行する為に仮の肉体と賢者の石を得た。

君が聞いた多数の人間の女性の精神と魂と生命のスープの一部を取り込み。

多数の人間の女性の意識と魂の両面の心の力を利用して人間の形をイメージ

して元の成人男性の姿を保っている。そして肉体を再構成させたのさ」

のぴは思い出したようにその女性達の中に『おこさまぷれーと』の

自分のメンバーのりあらとゆいにゃとちゃきの声が聞こえた事を思い出した。

あいつの肉体の一部に・・・・・・・・。」

「酷い奴だ!仮の肉体を作る為に大量の人間の女性達を自らの一部としたのか?」

「ついでに意識もな。集めた膨大な精神力で人型の力場を保っているのさ」

それからクリスとドラキュラ伯爵について行く為に

のぴは2人が歩いた方向に歩き出した。

そして子宮の形をした黒い結晶の洞窟の先の一本道を進み続けた。

のぴは勿論、この道を覚えていた。そこは美しい黒い結晶と

赤と白と黄色の色とりどりの結晶の壁の天井がある筈だった。

その結晶は『死』に対する神聖の証で。

死の聖地でもある事をはっきりと示すものだった。

しかし今はその聖地も神聖も穢れていた。

全ての決勝は真っ黒なカビと白い結晶に天井や壁も覆われていた。

「これは?E型特異菌か??バカな!あれは消滅させた筈。」

「聖地が穢れているな。これは『死』への冒涜だ!許さん!」

「汚れてしまっている。『死』はどうなっているの?」

のぴは不安気に一本道の先を見た。

しかしその先は真っ暗闇だった。

のぴ、クリス、ドラキュラ伯爵のチームは一本道を進み続けた。

特にクリスは両手に銃器を構えて、慎重に周囲を警戒していた。

ここにE型特異菌がいる以上はモールデッドが潜んでいる可能性が高い。

その時、ガササッ!と何かが動く音がした。

クリスは素早く天井に銃器の銃口を向けた。

すると9つの節を持つ太く長いまるで百足(むかで)のような体形に

13の細長い短い昆虫の脚と黒い突起物を持ち。

真っ黒な頭部の昆虫型の怪物が張り付いていた。

複眼は真っ赤に輝き、楕円形の形をしていて中央に一本の黒い横線に

6本の縦の黒い線が入っていた。前脚には真っ赤な蟹に似た鋏があった。

2対の黒い細長い突起物がお尻の先に生えていて伸びたり、縮んだりしていた。

背中には黒い節に沿って線があり、中央にも長い黒い線があった。

全体的に楕円形のずんぐりした体形をしていた。

さらに昆虫はカチカチと2対の鋭い黒い鋏のような

短い牙を左右に鳴らして威嚇していた。

そして真っ赤な複眼がのぴを見るとより激しくカチカチと牙を鳴らした。

続けてその昆虫はのぴに向かって飛び掛かろうとしていた。

すかさずクリスは両手に構えていた『トールハンマ』の引き金を引いた。

同時に非常に威力の高い弾丸が銃口から火花を散らして

重い金属音を立てて発射された。

次の瞬間、グチャッ!と大量の血をまき散らして天井から落下した。

さらにクリスは何十発の弾丸を撃ち込むとその昆虫型の怪物は倒された。

やがて昆虫型の怪物は真っ白な結晶となり、砕け散り、消滅した。

「まさか?BOW(生物兵器)を殺傷するのみ目的として

開発されたアルバートWモデルのショットガンがここでも役に立つとはな」

「全くだ!お陰で私はサボれるよ。おいおい冗談さ!」

ドラキュラ伯爵が冗談交じりに言った途端、クリスは無言で彼に銃口を向けた。

「いいから先に進みましょ!喧嘩しないで!」とのぴはビシッと言った。

するとクリスとドラキュラ伯爵も直ぐに気持ちを切り変えて喧嘩を止めた。

それからクリスとドラキュラ伯爵は先頭に立った。

続けてクリスが両手に銃器を構えて先へ進んだ。

また隣の壁の穴の黒いカビかの中からまたぬるりとさっきの

昆虫型の怪物が次々と2体現れたがトールハンマにより。

昆虫型の怪物は倒されて行った。

ドラキュラ伯爵にもその昆虫型の怪物は牙を剥いた。

ドラキュラ伯爵は素手でいとも簡単に四肢を引き千切り。

頭部をねじ切りってあっさり倒した。

「やっぱり人間じゃないのね」

「勿論だ!私は人間(ヒト)ではないよ。」

のぴの言葉にドラキュラ伯爵は笑顔で返した。

勿論、のぴも手伝うつもりだったが。

ほとんどの昆虫型の怪物の個体はドラキュラ伯爵とクリスが倒していた。

その為、のぴは数体を控えめに倒して行った。

のぴとクリスとドラキュラ伯爵一行は進み続けた。

やがてグラグラと地震が起こり、のぴは足元をふらつかせたがどうにか踏ん張った。

さらにバラバラと白い粉が降って来た。

どうやら若村の仕業らしい。

「どうやら奴は調子に乗って暴れているようだ!」

「これ以上!現世・現実(リアル)の俺達の世界で暴れられてもかなわん!

ケリをつけるぞ!のぴ!ドラキュラ伯爵!」

「勿論よ!それが今までのループ世界の私の役割だから!」

「どの道!奴は太陽神テスカトリポカには勝てないさ。

地上へ出て暴れる前に瞬殺されているさ。

所詮は口がでかくなろうが図体がでかくなろうが小物なのさ!」

クリスとのぴの決意に反してドラキュラ伯爵は上品な口調で冷静にそう指摘した。

さらに一本道を進み続けるとやや広い空間に出た。

そこは円形の広場で周囲には4枚の真っ黒なカビに覆われた

大きな三角形の花弁の付いた巨大な花のようなものが転がっていた。

しかも途中でちぎれてどこかから落ちて来たらしく

千切れたと思われる大木のような円形の断面図が見えた。

しかも花弁の中央には2対のカビに覆われた真っ黒な細長いものの

先端に球体が付いた真っ黒な突起が生えていた。

花の内部にはまるで太いミミズのような白い菌糸のようなものがまるで

血管のように絡み、蠢いていた。

「ああ・・・・花まで・・・酷い・・・」

のぴは悲しげな表情を仮面の内側で浮かべた。

本来なら真っ赤に輝く美しくも妖しげな花だったのに今はカビによって汚れていた。

周囲の他の花もひとつ残らず千切れて黒いカビで汚れていた。

「酷いな。美しい花が全て台無しだ!!」とドラキュラ伯爵も怒りをにじませた。

「どうやら全てE型特異菌によるものだが」と花を調べていたクリスは指摘した。

さらにボコボコと岩の床に広がっていたE型特異菌の黒い液体が波打った。

やがてバシャン!と音を立てて無数の牙が並んだ黒い頭部がぬるっと現れた。

続けて黒い胴体と細長い両腕と両脚。

両手に4本の細長い爪を持つ怪物が11体出現した。

クリスは既に両手でトールハンマーを構えていた。

「モールデッド???どうして?これも奴の仕業か??」

2体のモールデッドは右腕を振り下ろしてクリスの身体を鋭く細長い爪で

切り裂こうとした。しかしクリスは慣れた手つきでトールハンマの引き金を引いた。

同時に放たれた弾丸はモールデッドの頭部を撃ち抜いた。

2体のモールデッドの頭部は吹き飛び、バタッと

同時に仰向けに倒れて動かなくなった。

残り8体のモールデッドもドラキュラ伯爵とのぴに近づいた。

更にモールデッド達は両手で2人に次々と掴みかかろうとした。

続けて大口を開けて円形の無数の細長い牙で噛みつこうとした。

ドラキュラ伯爵は両手でモールデッドの頭部を掴むとボキッと首をへし折った。

更に他のモールデッド2体も次々と首をポキポキとへし折った。ついでに通行の

邪魔なので首も無いモールデッドの死体を道の左右の脇の穴の中にぶん投げておいた。

のぴは「このやろ!」とと叫び、また右手の黄金のショットガンを撃った。

放たれた赤い弾丸は2体のモールデッドの頭部を吹き飛ばした。

残りの2体のモールデッドはクリスとドラキュラ伯爵が

それぞれトールハンマと素手で倒した。

「奴は取り込んだ人間の若い女性達と狂信者の男女を縛りつけている!」

「どんな風にだ?ここに来る前に話したオズウェル・E・スペンサーや

アルバート・ウェスカーのような選民思想か?それとも反メディアか?自然主義??」

「全てが含まれている『排他的脅迫の呪縛』だ。

このせいで人々は若村に束縛されている。

彼女らを救うにはこの呪縛から解放させて全ての魂を救い出すしかない。」

「それで?彼が持ってくる予定のあの槍とネガブドネザルの鍵が必要か?」とクリス。

「あの槍って?」とのぴ。

「来てからのお楽しみさ!のぴさん!君は一時的に人を超えてもらうよ!」

ドラキュラ伯爵は楽しそうに笑い、のぴとクリスに背を向けると歩き出した。

クリスは「やれやれ」と首を左右に振り、彼について行くように視線を送った。

のぴも無言で頷くとクリスとドラキュラ伯爵について行って歩き出した。

私が一時的に人を超えて貰うって?まさか私に神になれと言うの?

私はただの人間なのに。そもそもどうやって?私を神に?人を超えさせるの?

あの槍とネガブドネザルの鍵で?私は死を殺し続けるだけの存在なのに?

私は・・・人間でも・・・これはループ世界の記憶には存在しない新しい試み?

のぴはさっきドラキュラ伯爵に言われた新しい試みに対して

不安と期待で心が大きく揺れ動いていた。

更に細長い通路の先には地下室の空間が広がっていた。

「これは?若村秀和の研究室か?」

その地下室には何かの生物実験の機械や医療器具。

研究資料のようなものを発見した。

クリスは手あたり次第に全ての研究資料を読み漁った。

ドラキュラ伯爵も興味津々で研究資料を読んでいた。

「研究資料・人類補完計画の完全再現の為の依り代の人間の女性の器について」

「賢者の石と始祖ウィルスについて」

「21の秘跡について」

「ウォルター・サリバンについて」

ドラキュラ伯爵はスラスラと資料を読んでいた。

のぴにはどの研究資料も一般人には全く理解できずに頭がこんがらがっていた。

そう、元々は毎日投稿アイドルであり、こんな人体実験や人間の闇には全く

無縁な生活を送ってきた彼女にとってこの研究資料の内容はショッキングだった。

例えば「私は『静かなる丘・サイレントヒル』の

力を利用して村が消滅する前の過去から

E型特異菌の菌根とあの線虫カドゥを手に入れた。

あの『R型』は出来損ないだった。

新型ウィルスの『Tシデュウサ』は暴走して大勢の仲間が死んだ。

私も感染した。あのクエントとか言う男にワクチンを打たれて私は助かった。

だが。今はそれでは無いのだ。この菌根とサイレントヒルの神の力と

賢者の石を組み合わせて私は自ら人間を捨てて神となり。

私が創造神となる。サイレントヒルの神が私を裏切った場合の保険にな。

私のBプランだ。しかしその為には『ネガブドネザルの鍵』を持つ

人間の女の聖母となる子宮の器が必要だ!!探さねば!」とか。

「良し!仲間の多くにはその菌の持つ媒介用の線虫のカドゥの変異体を寄生させた。

私を崇拝するように今までの仲間達や性行為をした若い女性達に感染させて

ケリヴァー・ミショナリー達を作り出す事に成功した。

やったぜ!適合しなくても構わない。

理性を失っても私の為に動いてくれればそれでいいのだ。

いずれは私と合一する。個性はいらない。」

「ついに!ついに!『ネガブドネザルの鍵』を持つ女性の器を見つけた!

日本人の女性だ。私が神になる為にの計画が。今までの苦労が報われる。」

のぴはその研究資料を顔面蒼白で見ていた。

3人は話を終えると若村の研究所を出て歩き続けていた。

目の前に四角の広場が現れた。

ドラキュラ伯爵は慌ててのぴとクリスを両手で制止した。


(第21章に続く)