(第82章)犠牲

こんばんわ職場から帰って来た畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第82章)犠牲

 アメリカ・アパラチア山脈・地下研究所アルカドラン。
美雪、覇王は、いなくなった凛とその友達の洋子を探して、
予めウラヌス部隊と覇王が確保して置いた脱出経路を辿りつつ先へ進んで行った。
 しかし、一緒にいたサンドラや、一カ月前に小笠原怪獣ランドに
来た瑞穂や他の国連の人たちが気になったので、美雪は覇王に彼らの行方を尋ねた。
「小笠原ランドのコントロールセンター付近で無事全員保護されたそうだ!」
ようやく美雪は安心して、力が抜けた様に急にその場に座り込み
「ありがとう!よかった!無事で!」
覇王は笑顔で
「よかったな!さあ!」
と言い、美雪を立ち上がらせた。
その時、覇王と美雪の先頭に立っていた
ウラヌス部隊のキエフ隊長と隊員達は2人の方に振りかえり、
「おい!大丈夫か?」
「大丈夫だ!」
と覇王は美雪を抱きかかえ、歩き始めた。
それから全員はある部屋の中へ入って行った。
「あっ!あれは?」
黒い袋をしつらえたベッドが倒れていた。
更に出口のあるシャッターも閉じていた。
 覇王は天井を見上げると巨大なマンホール
のような穴から真っ白な光が差し込んでいた。
「ここから出られそうだな……」
とつぶやいた。
キエフ隊長は
「キレンコ!カンコフ!全てのシャッターのドアを開けろ!」
2人の特殊部隊の隊員は
「ダー」
と敬礼するとノートパソコンを取り出し作業を始めた。
「よーし!残りのヨヴオヴィッチ!プーチンは周りを見張っていろ!
それから医療班のブライアンはマークの血液検査を!」
と次々と名を上げていた時、最後の隊員が
「隊長!隊長!既にⅩ星人達にやられました!」
キエフ隊長は怪訝な顔で
「なんだ?どうした?ラグナロフ?」
と尋ねた。最後の隊員であるラグナロフは、
レーザー銃で全身を貫かれた北村の死体を指さしていた。
さらにラグナロフは
キエフ隊長!これを!」
と床に意図的に置かれた白いボードも指さした。
キエフ隊長はその白いボードを手に取り、読むと、赤い文字でこう書かれていた。
「UZ-2・劣化型既に廃棄済み。
Ⅹ星人の軍事企業の『エクスクロス社』との取引に応じるなら、
君達が探しているU-Z2・完成体(サンドラ)の生体サンプルを渡そう。
但し、幾つか交換条件がある。既にその旨を日本とカナダの地球防衛軍に伝えてある。以上」
「『エクスクロス社』。確か本社は地球外の木星にあるⅩ星か?しかし幾つかの交換条件って?何だ?」
と覇王は首を傾げ、つぶやいた。
 その時、2人の特殊部隊の隊員のキレンコとカンコフはようやくシャッター
を開けるパスワードを入手し、全てのシャッターを開ける事に成功した。
 キエフ隊長は無言で表情も変えず、ただその白いボードに書かれている赤い文字を見つめていた。
 キエフ隊長は額に脂汗を滲ませ
「彼の血液検査の結果は?」
「まだ採血をしていません!」
「早くしろ!」
美雪は赤い文字でⅩ星人達のメッセージが書かれた
白いボードを背中のカバンか何かにしまっているキエフ隊長に向かって
「どうして?彼の血液検査を?」
「奴が体内にM塩基破壊兵器を隠し持っているかもしれないからさ!」
そしてマークの血液を採取し、
その場で行える血液検査の結果、やはりキエフ隊長が思った通り、
M塩基破壊兵器に感染している事が明らかになった。
 感染していながら発症していない。恐らく『キャリア』である可能性が高い。
それなら彼を専門の病院で精密検査を受けさせ、
マークや死んだ北村が密かに話していた重大な副作用を持つ抗生剤の
タブリス』よりも、安全で有効な抗生剤を製造出来るかも知れない。そう美雪は考えた。
 しかしキエフ隊長の考えは美雪の考えと全く異なっていた。
 キエフ隊長は地上の感染の拡大を防ぐ為、
腰のホルスターから拳銃を取り出し、マークの額に銃口を突き付けた。
「やめてえええええ―っ!」
と言う絶叫と共に
「バキューン!」
と言う銃音が部屋中に虚しく響き渡った。
キエフ隊長が放った銃弾はマークの額を貫通し、
後頭部から飛び出し、大量の血が床一面にまき散らされた。
 マークは驚きと恐怖の混じった表情のまま顔を硬直させ、
一枚板の様にバッタリと床一面にまき散らされた大量の血のついた床に倒れた。
 その姿を見た美雪は覇王の手を振り切ろうと必死に身体を激しくジタバタさせ、
何度もマークの名を呼んだ。
「マーク!マーク!イヤアアアッ!マーク!」
覇王は無言で、必死に抵抗する美雪の両肩を両手で強く掴み、
驚きと恐怖の顔のまま硬直しているマークの傍に行こうとするのを思い留まらせた。
 美雪は泣き叫び、必死に覇王に抵抗したが結局、無駄だった。
 残念ながら覇王さえ、元恋人のマークの死を前にしてどうしてやればいいのか分からなかった。

 ガイガンと洋子の死に物狂いの反撃により、
左脚を切断されたジラは残った右脚で器用に起き上がった。
 しかも切断された左脚から大量出血をしたのにも関わらず、
背後から飛んで来たゴジラの放射熱線を右脚をバネ
にして大きくジャンプし、いとも簡単にかわした。
 更に驚くべき事に、他の場所に木々をなぎ倒し、
着地したと同時に、切断された左脚が再び膝から
新しい脚が形成され、瞬時に再生した。
 ガイガンは大量のジラの返り血とドス黒い塵を頭からかぶり、
ようやく立ち上がると、身体を震わせ、それを跳ね飛ばした。
 それからジラは大量の涎を垂らし、大口を開け、ガイガンの首筋に噛みついた。
 ガイガンと一心同体になっていた洋子は首筋に激痛を覚え、悲鳴を上げた。
 そこにゴジラが駆け付け、ジラの片腕を掴むとそのまま遠くへ投げ飛ばした。
 ガイガンは首筋からの噛み傷で危うく致命傷を負うところだった。
ジラは再び立ち上がり
「太古の昔にお前が犯したアトランティス大陸の重罪とやらをどう償うつもりだ?
バトラの言う通り、臭い物に蓋をするつもりかね?」
と言う声に混じり
「グオォォン!」
とまるで笑い声を上げたかのような奇妙な咆哮を上げ、ガイガンと洋子を挑発した。
同時に、竜の頭部と赤い翼の形をした背びれを赤く光らせ、口から火球を放った。
 ガイガンはすぐに目の前に迫る火球をかわそうとした。
しかし間に合わず、ガイガンの顔面に灼熱の火球が直撃し、大爆発を起こした。
 洋子は顔面に灼熱の痛みを感じた。ガイガンはそのまま吹き飛ばされ、倒れ込んだ。
ガイガンの赤いモノアイにはヒビが入り、顔の頬の一部は焼けただれ、
皮膚がベロッと剥がれ、機械と筋肉の一部が露出した。

(第83章に続く)

では♪♪