(第19章)組曲(後編)

(第19章)組曲(後編)
 
バイオの世界。クイーン・ゼノビアの展望台。
ヨハン事、アビスコアはフフフッと不敵に笑ったあと続けてこう話した。
「もう一つはあたし達ホラーに我が子として愛情を注いで育ててくれる
真のホラーの母はだーれか?気にならない?もちろん気になるわよね?」
「やはりドラキュラと!」
「あったらどうする訳?あーらー嫌らしい子!
でもね!あたしが一番興味あるのは!」
ビスコアは青い瞳で烈花とクエントを見た。
「貴方たちなのよ!2人は恋に落ちている!
しかし世界が違う故に幸せになれないの!」
「何故!そう言い切れる!」
烈花は向きになりそう叫んだ。
「あーらムキになっちゃって!可愛い子!」
更にアビスコアはムキになった烈花を尻目夜に映画を見た後、
ベッドの上でクエントを抱いた事を全て暴露した。
「この野郎!全て!見ていたのかよ!」
「恋は盲目よ!それに見て悪いんですかね?
セックスの現場をあーらーらー言っちゃった!あーらー」
「ふざけるなあああああっ!」
烈花は魔導筆から紫色の光線を放った。
光線はアビスコアの右腕を貫いた。
「うおおおっ!痛いわねっ!でもあなたの怒りもいい音楽になるわ!
普通の人間の楽譜じゃつまんないもの!
さあーもっと怒りなさい!もっと!もっと!」
ビスコアは左肩の管楽器のような器官から
青く輝く球体状の衝撃波を4発放った。
2発の衝撃波は烈花に向かって飛んで行った。
パーカーは腰のホルスターからコルト・ガバメントを引き抜いた。
同時に一丁をクエントに向かって投げた。
更にもう一丁のコルト・ガバメントを両手で構えた。
引き金を引き発砲した。
パーカーが撃ったホラーを封印する法術が施された
2つの銃弾は2つの衝撃波を見事な腕前で撃ち落とした。
2つの衝撃波は風船の様にパンと破裂して消滅した。
クエントは片手にサムライエッジ。
そしてパーカーからもう一丁のコルト・ガバメントを受け取った後、
残り2つの衝撃波と烈花の間に飛び込んだ。
そして横倒しのまま空中で停止した。
彼は空中でサムライエッジとコルト・ガバメントの引き金を引いた。
そしてホラーを封印する法術が施された
2つの銃弾は残り2つの衝撃波を撃ち抜いた。
同時にそのまま風船のように破裂して消滅した。
「どわあああっ!」
ドスっと音を立ててクエントは床に横倒しになった。
「イテテっ」
「大丈夫か?クエント?」
烈花は倒れているクエントを助け起こした。
「平気です!」
彼はすぐに立ち上がった。
「んもーん!勝手に曲調を変えたわね!」
ビスコアは急に怒り出し、乱暴に指揮棒を振り回した。
すると『バイオリン協奏曲第4番短調2楽章』は再びピタリと止んだ。
さらにオーケストラ楽団を見ていた何十枚もの楽譜が宙を舞い、
刃物のように烈花とクエントの体を切り刻もうと襲い掛かった。
「うわあああっ!」
「くそ!間に合わない!」
その時、目の前に鋼牙が立ち塞がった。
そして目にも留まらぬ速さで次々と飛んでくる
楽譜を容赦なく全て牙浪剣で切り裂いた。
鋼牙は牙浪剣を天井に掲げた。
するとオーケストラ楽団はまるで鋼牙の牙浪剣が合図だったように。
『牙浪SAVIOR IN THE DARK』を引き始めた。
ついでに何故か魔導輪ザルバまで歌い出していた。
「ちょっと!この曲は?まさか?」
鋼牙は大ジャンプし、アビスコアに斬りかかった。
そしてお互い火花を散らし、激突した。
ビスコアは指揮棒を振り、鋼牙の黄金の鎧を切り裂こうと躍起になった。
しかし鋼牙は冷静に黄金の右腕で指揮棒の攻撃を全て防いだ。
そして両手で牙浪剣を構え、アビスコアの右脚の脛をズバッと切り裂いた。
「うぐっ!ぐあっ!このやろ!」
ビスコアは両腕を広げ、鋼牙に組み掛った。
鋼牙は黄金の拳で殴り、アビスコアを一撃で吹き飛ばした。
ビスコアは身体をくの字に曲げ、吹き飛ばされた。
「グアアアッ!」
そのままアビスコアはコンクリートの壁に叩きつけられた。
「これが遥かな古から受け継いだ受け継がれた黄金騎士の歌のひとつだ!」
鋼牙はまるで風の如く、床を蹴り駆け出した。
そして狼を象った黄金の鎧と牙浪剣は月光に反射し、
美しくキラキラと輝いた。
ビスコアは起き上がり「お覚悟おおっ!」と叫ぶと駆け出した。
「うおおおおおおおっ!」
鋼牙は大声で力強く叫んだ。
鋼牙は走りながらその場で身体を回転させた。
そしてアビスコアの身体に牙浪剣の怒りの刃を叩きつけた。
「ぐあああああああああ!」
ビスコアは黄金の光を放ち、真っ二つに切り裂かれた。
鋼牙は牙浪剣を水平に掲げたまま、大きく身体を捻り、
ドリフトをしながら床に着地するとまるで指揮棒の様に
牙浪剣を振り、GAROの文字を描くと血払いの動作をした。
最後の優しい口調のサビの音楽を奏でた後、
オーケストラ楽団は黒い霧となり消滅した。
ビスコアはそのままその場に座り、元の人間の姿に戻った。
「これも……私が……求めていた……
雷牙さんの音楽と並んで……ブラボオオオオッ!」
ヨハンはそう断末魔の叫び声を上げると
ホラー化した赤い太い両腕を大きく広げた。
そして彼自身もオーケストラ楽団と同じように黒い霧となって消滅した。
すると何処からか、拍手喝采の声が聞えて来た。
「おい、これは一体?どこから?」とパーカー。
「まあ、細かい事はいいじゃないですか?」とクエント。
「ふぅ~久々に歌ったぜ!」
「お前はしょっちゅう歌っているだろ?」
ザルバの一言に鋼牙は冷静にそう突っ込んだ。
「おい、これはなんだ?」
パーカーはアビスコアが消滅した場所に
小さな石の破片が落ちているのに気付いた。
「ザルバ!この石の破片は?」
「間違いない!これはメシアの涙エイリスを
封印しているアディ石板の破片だ。
そのアディ石板の破片から奴の強い邪気を感じる。」
「なっ!まさか?」
鋼牙は反射的に白いコートの赤い内側から赤い鞘を取り出した。
そして魔戒剣を引き抜き、銀色に輝く両刃を見た。
「ああ、魔戒剣の中に奴の邪気は封印されていない。
どうやら石板の破片の中に封印されているようだ。」
しばらくすると小さな時空の歪みが現われた。
そして石板の破片は時空の歪みに吸い込まれ、消失した。
「どういう事だ?」
「恐らく、お前達がアビスコアを討伐した事で
空の歪みが解消されたのだろう。
ちなみに俺様はザルバ!魔導輪だ!
俺様にはホラーを探知する能力がある。」
「だから、ここにホラーがいると分かった訳か?」
「道理で声がすると思ったら……指輪だったんですか?」
パーカーとクエントは納得した表情をした。
「ジルやクリスはあんなに驚いたのに……
お前達、意外とリアクション薄いな。」
ザルバは苦笑いを浮かべ、カチカチとそう言った。
烈花は顔を紅潮させ、ザルバや鋼牙と会話している
クエントの顔を見ていた。
「烈花」
「分かっている。」
鋼牙は烈花の顔を見た後、踵を返した。
「そうか……じゃ!帰るぞ!」
そう言うと鋼牙は歩き始めた。
「待ってくれ!」
鋼牙は歩く脚をふと止めた。
「俺は……出来れば帰りたくない、
命を賭して守りたい男が出来たのに……」
「邪美師匠や鈴法師、山刀翼、我雷法師、鈴村零、閑岱の仲間達
がお前の帰りを待っている。彼らもお前がいないと寂しがるぞ。」
「ああ、そうだな。」と烈花は1歩1歩と床を踏みしめ、歩き出した。
歩き出している間、このまま時間が止まってしまえばいいのに。
と彼女は強く思った。
しかし時間は止まる事は無い。
烈花はクエントとパーカーに「また会う」と一言、言った。
彼女は「『さよなら』と言えば二度と会えない」
そんな気がしたので言う事は出来なかった。
鋼牙と烈花は展望フロアに出来た時空の歪みを通り、
閑岱の森に無事帰還した。
それからクエントはパーカーに暫く一人にして欲しいと頼んだ。
一人になったクエントは目の前の窓に映る三日月と沢山の輝く星。
そしてどこまでも続く海と空の地平線の彼方をずっと眺めていた。
クエントは美しいセクシーな声でフランス語の歌を歌い出した。
彼が歌っている歌は自分の携帯の着メロの『エマニエル』と言う曲である。
彼の歌声はどこか優しく切なく、美しかった。
今回の事件が解決して、全ての時空の歪みが消えたら?
烈花さんに会えなくなりますね。
そう考えるだけでクエントは寂しさで
心臓が強く締め付けられるのを感じた。
彼は窓に向かって右手を伸ばした。
しかし彼が掌で触れたのは冷たいガラスの窓だけだった。
 
(第20章に続く)