(第23章)進化

(第23章)進化
 
アメリカ自然史博物館の地下にある円形の隠し部屋。
部屋には古代の生物や恐竜の骨格標本や絵が一面に飾られていた。
円形の部屋にはドクター・リーパー事、マルセロ・タワノビッチ。
御月カオリ、ジョン・C・シモンズが立っていた。
「久しぶりね!ドクター・リーパー!!」
「久しぶりじゃのう!御月カオリ殿!」
マルセロは胸元が大きく開き、深い胸の谷間が見える
セクシーな肌色のドレスを着た御月カオリに親しく話しかけた。
「実はカオリ殿!最近、君の父上の御月勇気さんの出生と
経歴を調べさせて貰ってのう。」
「あら?どうして?そんな事を?」
「何故?まだ現役で社長を続けられる筈の君の
父上が実の娘に社長の座を譲ったのか?
そしてそんな君の父上が魔獣ホラーやウィルスの力に頼ってまで
不老不死の夢を追い求め続けるのか?その理由がようやく分ったのう。
君の父上はオズウェル・E・スペンサーの
『ウェスカー計画』に関わっていたのう。
本来は存在しない筈の14番目の被験者。君の父上の本名は。
『勇気・御月・ウェスカー』じゃな。」
「御名答よ!素晴らしいわ!良くそこまで調べられたものね!」
「君の優秀な機械オタクを散々!利用させて頂いたよ!」
「へー、なかなか頭がいいわね!その機械オタクと同じ位!
貴方を気に入っちゃった!」
「それは!光栄で御座いますぞ!御月カオリ殿!」
ドクター・リーパーは恭しく頭を下げ、お辞儀をした。
「だからこそ!我は才能のある彼女を我が味方に引き入れたのだよ!」
不意に壁に掛けられた金色の触手が数本中央から伸びる、
粘液質の巨大な山の形をした異形の生物のレリーフから声がした。
ニャルラトホテプ!いや!アトゥ様!」
「それはさておいて昨日の夜、ジルと鋼牙、そして。
人間の女2人がシェイズの館に踏み込み、そいつを封印したようだな」
「はっ!今回はメリーと同様、冴島鋼牙がトドメを刺したようです。」
「2日前にはジル・バレンタインがカラス・メリン・リーガン教会の街頭に設置された防犯カメラからパズズと闘う為に緑の異形の戦士アンノウン
に変身する姿とパズズを封印する様子が録画されていましたっ!」
「凄いわね!流石!外神ホラーのニャルラトホテプの賢者の石の力!
実に魅力的だわ!」
御月カオリは茶色の瞳をキラキラと輝かせた。
続けてドクター・リーパーはニャルラトホテプ・アトゥにこう報告した。
「シュブ・二グラスも既に999人の人間を捕食しています!
あと一人の人間を捕食すれば完全体となり、覚醒準備は整います!
ジルの方も他のホラーから邪気を奪い、
同じように覚醒し、完全体なろうとしておる。」
「そうか!伯爵騎士は計画通りにやったようだな!」
「どうやらそのようじゃ!」
「ジルには我の千の化身のひとつ
伯爵騎士が持つ賢者の石を与えられておる!
どっちも転んでもいい様に考えてある!
我の千の化身の伯爵騎士に失敗は無い!
我は人間以上の高度な頭脳を持っている!」
「あたしからも報告を!現在、未知の細菌、賢者の石と新しく手に入れた
Tウィルスを組み合わせて新型ウィルスの開発に成功しました!」
「私からも報告を!偶然、街中で保護したホラーと思わしき女の体内から
賢者の石とTウィルスを組み合わせた新型のウィルスを発見しました!
どうやら我々、カオリ社長のウィルス開発よりも先にシュブ・二グラスが
素体ホラーをベースにウィルス投与の実験をしていたようです!」
「よろしい!引き続きカオリと協力し、
『T-エリクサー』の研究を続けたまえ!」
ドクター・リーパー事、マルセロ・タワノビッチは深々と頭を下げた。
しかしそのシュブ・二グラスにウィルス投与の実験を
されたと言う素体ホラーの名前がどうしても気になるのう。
「素体ホラーだった女の名前は?」
「はい!これから仲良くしようと思います!名前はえーとですね!
芳賀真理と言ったな!可愛いですね!」
「ようやく帰れる場所を見つけたか……」
ドクター・リーパーは照れくさそうに笑う、ジョンの顔を見た。
 
 
 
そして場所は変わり、マンハッタンにある日本の製薬企業『御月製薬』
北米支部の地下深くに建造された
アシナガバチ等の蜂の巣の形をした極秘研究所『ハイブ』。
ここではおよそ500名のスタッフ、技術者、科学者が働いていた。
御月製薬の所長の御月カオリは研究員とスタッフに案内され、
『ハイブ』に足を踏み入れていた。
地下の階段を進み、主にTウィルスを初め、
アフリカの太陽の階段の土壌の奥深くから発見された
未知の細菌を研究する為の大小の様々な実験室を通り抜け、
どんどん地下に潜って行った。
更に何故か魔獣ホラー(主に素体ホラー)達の標本や人間。
ホラーの細胞や血液サンプル、更に未知の細菌やTウィルスの
サンプル等がケースの中に保管されている標本室を通り、
研究所の中枢に位置する最高機密物保管庫と書かれた部屋へ入って行った。
殺菌室に入り、十分殺菌した後、正方四角形の部屋に入った。
正方四角形の部屋の中央の大きなガラスケースの中には。
一本の試験管が極めて厳重に保管されていた。
そして一本の試験管に張られた金属製のラベルには。
『Tーエリクサー』と書かれていた。
「これが我が社の、いや人類の不老不死の夢を実現させる唯一の物」
カオリはうっとりとした表情をした。
彼女は一本の試験管の中の赤い液体を長い間、眺めていた。
「ところで『Tーエリクサー』の投与実験はいつだったかしら?」
「はい!これからです!」
「では上の階の実験室の方へ!」
「ありがとう!実験が楽しみだわ!」
カオリと研究員とスタッフは再び上の階に戻り、大小の実験室の内、
一番大きい方の実験室に入って行った。
実験室の中央には巨大な手術台があり、そこには両手足首を縛られた
ドクター・リーパー事、マルセロ・タワノビッチが寝転んでいた。
「ご協力感謝しますわ!ドクター・リーパーさん!」
「わしはジル・バレンタインと闘う為に
どうしても賢者の石の力が欲しい!」
御月カオリは妖艶な笑みを浮かべた。
「まさか、貴方が『T-エリクサー』
の投与実験に参加してくれるなんて!」
カオリは他のスタッフや研究員に命じて実験の準備をさせた。
周囲の数人の研究員やスタッフは慌ただしく準備を始めた。
彼らは注射器や『Tーエリクサー』
の入った真っ赤なカプセルを用意していた。
「うふふふっ!これは魔獣ホラー達。
パズズとメリー、シェイズ、姑獲鳥にも投与したのよ!」
それはまるでクリスマスプレゼントの蓋を開ける
子供のような純粋な茶色の瞳をドクター・リーパーに向けた。
「唯一、魔獣ホラーのメリーとシェイズと姑獲鳥には
ウィルスによる肉体強化の効果が現われたわ。
でも残念な事に魔獣ホラーのパズズだけは『Tーエリクサー』を投与しても
ウィルスの効果ははっきりとは現れなかったわ。
代わりに『Tーエリクサー』とそのウィルスの力を目覚めさせる薬品
を体内に仕込んで他の人間を改造出来る様、力を与えたの!」
と言いながらカオリは注射器の針をドクター・リーパーの腕に突き刺した。
そして黙って注射器のシリンダーをゆっくりと押した。
彼のこめかみがひくひく動き出した。
額にうっすらと汗が滲んだ。
同時にパズズの時とは全く違う生体反応を見るなり、
嬉しそうな表情を見せた。
ベッドの上でマルセロは急に脳幹への鋭い痛みに襲われた。
続いてキイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞え始めた。
同時に全身の筋肉が急檄に発熱した。
続けて全身の筋肉が引き裂かれるかのような痛みが襲った。
マルセロはベッドの上で歯を食いしばり、苦しそうに呻いた。
やがて脳幹への鋭い痛みも甲高い耳鳴りも全身の筋肉の発熱も
引き裂かれるかのような筋肉の痛みも徐々に順番に収まって行った。
そして彼は思い出した。
高温で高圧の人間界の海で生まれた原始生命が三十八億年の進化を
遂げて我ら魔獣ホラーの餌となる人間になった事を。
己が旧始祖ホラーメシアから産み出された弱々しい素体ホラーだった事を。
そしてー。
自分が旧始祖ホラーメシア由来の
弱々しい素体ホラーや人間達の進化の頂点にいる事を。
こうして彼は本物の賢者の石の力を手に入れたのだった。
同時にマルセロは自分自身が起動させた
『STPシステム』に繋がれた事を悟った。
 
(第24章に続く)