(第4章)真犯人は?

(第4章)真犯人は?
 
ジェレミー刑事は謎の男の意外な言葉に驚愕の表情を浮かべた。
「もちろん、僕は犯人じゃないよ。
でも犯人について心当たりがあるんだ。」
「なんだって!!」
驚きと混乱の入り混じった複雑な表情を浮かべている
ジェレミーの顔を見ると黒縁お眼鏡を掛け直し、話を始めた。
「ケイト・クレイン。彼女を殺したのは人間じゃない。」
「人間じゃない?と言うと野生動物か?」
「いや、動物でも無い。もちろん野生のワニでも無い。昆虫さ!」
「昆虫??」
暫くしてジェレミーはハハハッと笑い出した。
「昆虫が?昆虫には肺が無い、故に人間大に巨大化するのは不可能だ!」
「でも僕は彼女の検死の結果の予想はついているよ。
凶器は亜鋏状の鎌、4本の刃物、複数の歯、当たりかい?」
「うっ……何故?それを……」
「犯人はそれしか武器が無いからさ。
いや、生まれつき持っていたと言うべきか。
僕は最近までCDCアメリカ疾病予防管理センター)に勤めていたんだ。
僕の妻は昆虫学者で昆虫の事を良く知っていた。
いいかい?刑事さん、大事な話はここから!
僕は妻からグンタイアリとその模倣者
について教えて貰った事があったんだ。
「僕達人間がグンタイアリの一種だとしたら?
それに君は小さい頃からナナフシが
細長い木の枝に自ら偽装する事を知っていた筈だ。
でも多分、君も他の動物でも植物でも無く、
万物の霊長類である僕達人間自信を欺く、
昆虫がこのニューヨークの何処かにいると
言う考えは脳裏にかすめもしなかったのだろう」
「まさか。本当に実在していたのか?だが全滅した筈じゃ……
「ああ、確かにユダの血統は本当に存在する。
しかもまだ全滅していない。」
「じゃ!彼女を殺したのも!ユダの血統の仕業??」
「ああ、何故?ユダの血統がそんな事をするかどうかは不明だ。
だが、基本昆虫は本能で行動する。
しかも悪い事にここ数年で更に進化している。
既に奴は人間の女性と交配する能力を獲得している。
しかもここ最近、ニューヨーク市内で
一人の若い女性が失踪する事件が起きている筈だ!」
「ああ、失踪してから六ヶ月経つが……
まさか?これもユダの血統の仕業なのか?」
ジェレミーは男の言葉を聞き、顔面にパンチを受けた様な衝撃を受けた。
「恐らく発情しているのだろう。
いずれは君の相棒の女刑事の身が危うくなるかも?」
「マーゴット刑事……」
「気付けてくれ!奴らは短い進化の末に
頑丈な外骨格と強力な凶器を持っている。
しかも向こうは戦闘のプロと来た。奴は戦闘が得意分野だ。
生半可な武器じゃ!倒せないぞ!
首や上半身と下半身を切断するな!逆に危険だ!」
「おいおい、じゃ、防弾チョッキも役に立たないのか?勘弁してくれ……」
「カチュカチュカチュカチュカチュカチュ!」
不意に何処からか怪奇音を聞こえた。
「なんだ??何の音だ……」
「畜生……まだ真っ昼間なんだぞ!」
茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた
茶色のロングコートを着た男は舌打ちをした。
その瞬間、ジェレミー刑事は直ぐに
彼と自分の身に危険が迫っているのを感じた。
すぐさまジェレミー刑事はホルスターから銃を取り出し、両手で構えた。
「誰だ?」
「カチュカチュカチュカチュカチュカチュ!」
「あそこだ!」
茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた茶色のロングコートを着た男は
公園の薄暗い雑木林の木の陰から現れた人影を指さした。
ジェレミー刑事は直ぐに両手で銃を構えた。
「あれは?ユダの血統か?」
「恐らく、僕達を見張っているようだ。」
「カチュカチュカチュカチュカチュカチュ!」
ジェレミー刑事はその公園の薄暗い雑木林の木の陰から
現れた人影に向かって威嚇の為に空砲を撃った。
「パアアアアアアン!」と言う大きな音が聞えた。
するとの公園の薄暗い雑木林の木の陰から
現れた人影は驚いたのかそのまま姿を消した。
「如何やら逃げた様だ。」
「やれやれだ。これじゃおちおち外も出られないよ。」
茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた
茶色のロングコートを着た男は安堵の表情を浮かべた。
「本当にあの人影は……」
「ああ、間違いない!あの奇怪な鳴き声はあそこから聞こえていた。」
茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた茶色のロングコートを着た男は
先程、人影が消えた公園の薄暗い雑木林の木の陰を指さした。
茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた茶色の
ロングコートを着た男は有力な情報を提供した。
「人工昆虫のユダの血統を研究していると言う優性遺伝子学者がいる」
事を教えてくれた。
彼はその優性遺伝子学者の名前と住所を教えて貰った。
謎の男と別れたジェレミー刑事はすぐさまパトカーで
ワシントンDC首都警察に戻ると
警察署内で相棒のマーゴット刑事と合流した。
ジェレミー刑事はマーゴット刑事にさっき会った茶色の髪に
黒縁の眼鏡を掛けた茶色のロングコートを着た男の話をした。
しかしマーゴット刑事はハハハハッと笑った。
「へえ、殺人鬼の犯人は昆虫??冗談がうまいのね。」
「違う!本当だ!確かにこの目で見た!彼にも確かめた!」
「でも昆虫の特徴は一つも無かったんでしょ?」
「そうだが。」
確かに昆虫らしい特徴は無かった。しかし。
「その昆虫は人間に巧妙に擬態しているんだ!」
「擬態??そんな事が出来るって??面白い発想!」
「茶化さないで真面目に聞いてくれ!」
ジェレミー刑事は真剣な瞳でマーゴット刑事を見た。
「そして!例のマクライ夫人の娘の失踪事件も!!」
「でも!それと今回の殺人事件と何の関係があるって言うのよ!
しかも仮に昆虫が犯人だとしてマクライ夫人の娘を誘拐する理由は??」
彼女の質問に暫くジェレミー刑事は黙りこくっていたがやがて口を開けた。
「発情期さ!繁殖のご相手を探しているらしい。」
「はあい?」
マーゴット刑事は顔を真っ赤にした。
「つまり?あたしも惚れられているって訳?」
「ああ、どうやらその昆虫は君の魅力に気付いたのかも?」
「馬鹿馬鹿しい!きっと犯人は彼よ!
彼がそのユダの血統の仕業に見せかけて!
そのマクライ夫人の娘を誘拐して……」
「それは絶対に無い!」
「どうしてそう言い切れるのかしら?」
「私はユダの血統と思われる人影に威嚇射撃をして追い払った!」
そうね。いきなり銃口を向けられて
銃をぶっ放せば誰だってビビって当然よ!
マーゴット刑事は呆れてものも言えないと言う表情で口を閉じた。
「そう言えば?例のマクライ夫人の娘の失踪事件の捜査の進展は?」
「過去の捜査資料を全部洗い直したけれど!
全く無し!もちろん進展無し!」
マーゴット刑事はそう答えると肩を落とした。
その後、ジェレミー刑事は先程、茶色の髪に黒縁の眼鏡を掛けた
茶色のロングコートを着た男から提供された情報をマーゴット刑事にヒソヒソ声で伝えた。
「どうやらその人工昆虫のユダの血統を研究していると言う
優性遺伝子学者がいるらしいんだ。彼の名前や住所を教えて貰った。」
ジェレミー刑事はマーゴット刑事に白いメモ用紙を手渡した。
「名前はカイラ・ウルフ博士。優性遺伝子学者ね。住所は……」
「彼の家を今日の夜にでも尋ねよう!
もしかしたら何か分るかも知れない!」
「そうかしら?多分何の手がかりも無いんじゃないかしら?」
マーゴット刑事はそっけなくそう答えた。
 
(第5章に続く)