(第6章)吸収

(第6章)吸収
 
アンガスはマルクの胸倉を掴み、そのまま近くの棚に叩き付けた。       
続けて彼は殺気に満ちた目でマルクの顔を睨みつけた。
マルクは急に涙を浮かべ、シクシクと泣き出した。
「お前のせいだ!お前が!マーメイドを捕まえようなんて言うから!
ジミーもフランクも!
凶暴な大悪魔の雌のリバイアサンに殺されたんだぞ!」
リバイアサンの話は!もういいだろ!
それよりもマーメイドをどうするか?」
するとアンガスはフフフッと笑った。
「どうするか?だって?もう無理だろ?
俺達二人とあんたが命令して閉じ込めた
セバスチャンの3人で何が出来る?地味な悪魔払いでもするのか?えっ?」
続けてアンガスは無性に腹が立ち、
近くに置いてあった木箱を蹴り飛ばした。
木箱は粉々に砕け散ったが更にアンガスは
何度も何度も砕けた木箱の破片を踏みつけた。
「くそっ!くそっ!くそったれ!くそったれめ!畜生が!」
「セバスチャンを……上手く利用……いや。どうすれば……」
マルクは絶体絶命の状況に頭を抱え、上手く考えがまとまらなかった。
どうする?セバスチャンをあそこから出すか?
いや、セバスチャンはマーメイドの大悪魔の歌声に心を支配されている!
マーメイドの歌に心を操られて俺達を殺すかも知れない!
アンガスの言う通り、ジミーまで死んだ今、俺達二人じゃ!どうにも……。
それから長い間、マルクは考え続け、無情に時間が過ぎて行った。
マルクは仕方が無くセバスチャンをあの海から引き揚げた
魚介類を保管する部屋の中から出す事を決めた。
それからアンガスとマルクは無言で黙々と物置部屋を出て船内を歩いた。
アンガスとマルクは階段を降り、
海から引き揚げた魚介類を保管する部屋の中に立った。
マルクは厳重な鍵を慎重に外し、
ドアをギイイと軋ませ、ゆっくりと押し開けた。
その横でアンガスは震える両手で麻酔銃を構え、油断なく銃口を向けた。
海から引き揚げた魚介類を保管する部屋内はまた一変していた。
部屋内は相変わらず網目状の紫色の無数の触手に覆い尽されていた。
しかし部屋の網目状の紫色の無数の触手に覆い尽された床には。
大量のピンク色に輝く粘液に覆われた卵塊がびっしりとこびりついていた。
父親が漁師だったマルクはそのピンク色に輝く卵塊が
コイやフナ類に見られる粘着沈性卵だと直ぐに分かった。
その部屋の中央にはセバスチャンが全裸で全身、
透明な粘液に覆われ、仰向けに寝転がっていた。
天井の開いた穴からマーメイドの胸元まで伸びた緑色を帯びた
赤毛の髪と美しい白い肌に覆われた柔らかく形の整った
張りのある大きな丸い両乳房との上半身がひょっこりと現われた。
続けて大きな美しい緑色の分厚い鱗に覆われた
大きな形の整った張りのあるお尻と巨大な魚の尻尾を初め、
ふたつに分れた大きな尾ビレを持つ下半身が現われた。
ビチャと網目状の紫色の無数の触手に覆い尽された床に着地した。
2人は余りにも不気味で異様な光景に
金縛りにあったかのように動けなかった。
マーメイドは茶色い瞳で唖然としている
アンガスとマルクを見た後、優しく微笑んだ。
恐らく彼女はセバスチャンを支配した
満足感で心の中が満たされていたのだろう。
マーメイドは口元を怪しく歪ませ、恍惚の表情を浮かべた。
それから仰向けに倒れているセバスチャンに近付いた。
続けてマーメイドは仰向けに寝転んでいる
セバスチャンの身体の上に跨った。
マーメイドは狂った様に自らの腰と美しい緑色の分厚い鱗に覆われた
大きな形の整った張りのある
お尻を目にも止まらぬ速さで上下に振り続けた。
同時にマーメイドの大きな丸い両乳房も
目にも止まらぬ速さで上下に大きく揺れ続けた。
マーメイドは徐々に両頬と深い胸の谷間を紅潮させ、口を大きく開けた。
そして非常に荒々しく、甲高い喘ぎ声を上げ続けた。
「きゃああん!きゃああああっ!
きゃあああああん!ああああああっ!ああああっ!」
セバスチャンも荒々しく息を吐き、太い喘ぎ声を上げ続けた。
「あああっ!ああああっ!ああああっ!
ああああっ!いいぞ!いいぞ!あああっ!」
セバスチャンはマーメイドの大きな丸い両乳房と濡れた
接合部分を見ている内に性的興奮が徐々に高まって行くのを感じた。
「ああああん!あああっ!んんんんっ!
あああっ!おああああっ!ああっ!きゃああっ
きゃあああん!ああああっ!きゃああっ!
きゃあああん!んふっ!はっ!はっ!はあん!」
「あああっ!あああああっ!
ああああああああっ!ああああっ!はああん!はあんっ!」
やがてマーメイドとセバスチャンは同時に性的興奮が絶頂に達した。
マーメイドの腰はガクガクガクガクと激しく前後に痙攣した。
同時にピンク色に輝く粘液に覆われていた
セバスチャンの筋肉質な肉体が瞬時に液化した。
ズルルルルルルルルルルルッ!ズリュウウウウウウウウッ!
大きく不気味な吸入音が部屋中の分厚い壁に反響した。
やがてセバスチャンの筋肉質な肉体は
骨も皮も茶髪も全てマーメイドの体内に吸収された。
仰向けに倒れていたセバスチャンの姿はもう影も形も無かった。
マーメイドは茶色の瞳で恐怖と狂気で
全身を震わせているアンガスとマルクの顔を見た。
「うわあああああっ!ちくしょおおおおおっ!よくも!セバスチャンを!」
アンガスは再び一時的狂気となり、両手で麻酔銃を構えた。
マーメイドは素早くジャンプした後、
水掻きの付いた両掌で天井にへばりついた。
それからマーメイドは無数の牙を剥き出し、
威嚇する様に甲高い咆哮を上げた。
「グルルル!キィイイイイイイイイン!」
すかさずアンガスは麻酔銃の引き金を引いた。
放たれた麻酔銃はマーメイドの額に直撃した。
これでマーメイドは再び徐々におとなしくなり、
意識を失い、ぐったりとなる筈だった。
しかしマーメイドは小馬鹿にしたように甲高い声で大きく笑った。
「キャハハハハッ!キャハハハハハハッ!」
「嘘だろ?じゃ!あの時も……演技だったって言うのかよ?」
アンガスは頼みの綱の麻酔銃が実は
最初から効果が無かった事に気付き絶望した。
そう、徐々におとなしくなり、意識を失い、
ぐったりとなったのも彼女の演技だった。
つまり、我々は道化だった!マーメイド、
いやリバイアサンの操り人形だったんだ!
畜生!俺の仲間を喰い殺して吸収しやがって!
セバスチャンまで吸収したな!
「なにをしている!早く逃げろ!アンガス!アンガス!」
マルクはショックで茫然としつつも
怒りに震えているアンガスに声を掛けた。
マーメイドは無数の牙を剥き出し、口を大きく開けた。
そしてショックの余り茫然としているアンガスに飛びかかった。
「くそっ!どけっ!俺が殺してやる!」
とマルクは直ぐにアンガスを突き飛ばした。
アンガスは我に返ったと同時にそのまま海から引き揚げた魚介類を
保管する部屋の外に放り出され、床を不様にゴロゴロと転がった。
マルクは素早くマグナムリボルバーを両手で構えると引き金を引いた。
ダアン!ダアン!ダアン!ダアン!ダアン!ダアン!
放たれた全てのマグナムの弾は
マーメイドの白い肌の両肩と紅潮した頬を傷つけた。
しかしマーメイドは小さな傷も気にも
留めず無数の牙でマルクの首筋に噛みついた。
続けてマーメイドは猛獣のように激しく
首を左右に振り、彼の頸動脈を食い千切った。
「ぎゃあっ!はあうぅ……かっ!かっ!こっ!くっ!」
マルクは頸動脈を食いちぎられ、気道を塞がれ、呼吸が出来無くなった。
間も無くしてマルクは呼吸困難により、
全身の力が徐々に抜け落ち、やがて窒息死した。
マーメイドはマルクの首筋に噛みついたまま茶色の瞳で恐怖と
狂気で顔を激しく歪ませているアンガスを静かに見据えた。
一人残ったアンガスは「ひいいっ!」と小さく情けない声を上げた。
彼は海から引き揚げた魚介類を保管する
部屋の床からフラフラと立ち上がった。
さっきマーメイドに襲われた時にマルクのズボンのポケットから偶然にも
落ちたであろう緑色に輝く分厚いマーメイドの鱗を
アンガスは床から素早く拾い上げた。
続けてアンガスは緑色に輝く分厚い
マーメイドの鱗を胸ポケットにしまった。
その後、一目散にその海から引き揚げた
魚介類を保管する部屋から立ち去った。
彼が部屋を出た背後でまた何かを啜る様な奇妙な音が聞えた。
ズルルルルルルルルルルルッ!ズリュウウウウウウウウッ!
アンガスは網目状の紫色の無数の触手に覆い尽された廊下の階段を昇り、
再び地下から網目状の紫色の無数の触手に覆い尽された船内に出た。
しばらくしてアンガスはこの船に救命ボートがある事を思い出した。
アンガスは船内の休憩室と自分の部屋から出来るだけ
多くの食料と水をかき集め、リュックサックにしまった。
もう!こんなところ!なんか!
もう一秒もいたくない!とっとと!おさらばしてやる!
それから30分後、アンガスは無事に
救命ボートが保管されている格納庫に辿りついた。
救命ボートが保管されている格納庫のほとんどの床、壁、天井は
やはり網目状の紫色の無数の触手に覆い尽されていた。
しかし幸いにもカプセル型の救命ボートは無事だった。
また警戒して天井のダクトにも目を配った。
幸いにもマーメイドが出現する物音も無かったし、姿も見えなかった。
アンガスは着水時に自動で膨らむ小型のゴムボートの
カプセルを近くの機械のボタンとレバーを操作し、暗黒の海へ運んだ。
そして切り離しボタンを押し、小型ゴムボートの
カプセルを船外の海に着水させた。
 
(終章に続く)