(第25章)生命

(第25章)生命
 
ジョン・C・シモンズに送られ自宅に帰って来たジル・バレンタイン
心も体も疲れ果てて、自分の娘がぐっすりと自分のベッドの上に
眠っている事を確認した後、自分の部屋のベッドの上に大の字に眠った。
やがて目の前が真っ暗になった。
しばらくして以前見たあの混沌の部屋の中に立っていた。
そしてまた目の前に魔女王ルシファーがいた。
今回は背中から一二枚の七色の翅は背中にしまっていた。
相変わらずジルの顔と容姿そっくりをしていた。
「残念じゃが!我ら外神ホラーにして!ニャルラトホテプの化身
であるドラキュラ伯爵と契約した汝は
既に肉体も魂も千の化身達のものじゃ!
諦めるのじゃ!汝は不死となったが不老不死となり!人間を超越する!」
「あたしは不老不死を望んだりなんか……」
心迷うジルにルシファーは妖艶な笑みを浮かべた。
「確かにに今は不老不死では無い!純粋な人間じゃ!
じゃから!メルギスに簡単に殺されて死んだ!
精神が壊れても寿命が尽きてもすぐに死ぬ!
汝もいずれは年老い、身体も衰え、衰弱し!やがて死ぬ!
しかし汝は我らのマリオネット(操り人形)つまり……」
ルシファーはジルを指さしこう言った。
「死した汝は賢者の石の力によって肉体を若返らせる!
そして魂は若返った肉体に帰り!3日後!
汝は人間の姿をしたベルゼビュートの言うカルキ(救世主)にして!
寄る辺の女神となるのじゃ!勿論!また封印されても!
また我の賢者の石の力で復活する事が出来よう!
まあー寿命が尽きるまで汝も精々!
純粋な人間のスローライフを最後まで心行くまで楽しむ事じゃ!」
再び目の前は真っ暗になった。
しばらくして再びジルが静かに瞼を開けた。
そしてゆっくりとジルは上半身を起こした。
ジルは念の為に周囲を見渡した。
どうやら自分の家の寝室にいるようだ。
ジルは大きく欠伸をして、両腕を上げ、うーんと背伸びした。
そしてベッドの横の窓を見た。
窓からいかにも暑そうな日差しがさんさんと降り注いでいた。
そこにジルの寝室に一人の女の子が入って来た。
6歳のジルの娘・アリス・トリニティ・バレンタインである。
黒味が掛った茶色のポニーテール。
美しい榛色の瞳。
そしてお気に入りの赤いパジャマを着ていた。
両腕には赤いテディベアーのロッティと
言う名前のクマの人形を抱えていた。
「ママ!早く起きて!朝ごはん食べちゃわないと!」
「えっ?」
ジルは慌てて時計を見ると幼稚園のバスの迎えが
もうすぐ来る時刻を指していた。
「ああああっ!ちょっと!えええっ!うっそおっ!」
ジルは慌ててベッドの上から転げ落ちる様に立ち上がった。
それから着替えを済ませて、キッチンで朝食を作った。
今日は目玉焼きとトーストだった。
しかしテーブルには鋼牙が作って置いたと思われる
サラダホールとトマトスープの皿が置いてあった。
「ううっ!鋼牙!本当に御免なさいっ!」
ジルはそれを見た瞬間、申し訳ない気持ちになった。
何故ならアリスとトリニティの弁当まであったのだ。
弁当の中身はまだ見ていない。
アリスはきっと美味しいごちそうに違いない!と考え、胸がわくわくした。
「さあーお昼に食べる前に弁当を持って!バスに乗らないと!」
「忙しいの?ママも鋼牙おじさんも!」
「ええ、今日は大事な仕事があるの!」
「早く帰れる?今日!ゴーストエンカウンターズの最終回なの!」
「うーん、なるべく努力はするわ!」
「分った!」とアリスはジルに向かってニコニコ笑い掛けた。
確か『ゴーストエンカウンターズ』の取材班がいつものインチキ霊媒師を
使って本物の悪霊達を刺激したせいで、危うく殺され掛けたのよね……。
それで鋼牙と烈花法師のお陰で命は
助かったけれどあとで長々とお説教されたとか。
結局あれは打ち切りなのよね。視聴率はそこそこ良かったのに……。
ジルは大きく溜め息をつき、アリスと一緒に朝食の席に付いた。
それからアリスは母親のジルと楽しそうに朝食を済ませた。
朝食後、すぐにアリスは自分の部屋で幼稚園に行く準備を母親のジルに
手伝って貰いながらアリスはなるべく早く弁当を鞄に入れ、玄関に出た。
ジルも玄関に出て、幼稚園のバスの迎えを待った。
その時、ズボンのポケットに入れていた携帯が鳴った。
ジルはアリスを玄関の外で待たせた。
そして玄関の中に入り、一人になったジルはこっそり携帯の電話に出た。
「…………貴方はBSAAの人じゃないわね……」
ジルは何故か分らないが電話の主が
BSAA関係者では無い事を見破っていた。
「その通りです。流石!元スターズの生き残りで
ラクーンシティを生き延びただけあります。素晴らしい洞察力です。」
「貴方は誰?何処の組織?」
「私はリー・マーラと言います。スパイ故、多くは語れません!
安心して下さい!私はジョン・C・シモンズの使いです!」
「彼の使い?何の用なの?」
「御月製薬の不正を暴く物的証拠を入手しました。
物的証拠名は『実験体HY006』です!
現在!仲間のエイダー・ウォンと共に貴方達より一足早く
御月製薬北米支部の極秘研究所のハイブに潜入し、救出。
既に彼女にT-エリクサーワクチンを投与。
彼女の体内に侵入していたTエリクサーと
卵細胞をほとんど殺しておきました、。
そして烈花さんと同じケースの発症を防ぐ為、
試作の抗Tエリクサー剤を投与して置きました。
これで望まぬ妊娠は防げるはずです。
救出当時のT-エリクサーの症状の詳しい情報は貴方も
メールに送って置きますのでご確認下さい!では!失礼!
本来の業務に戻らせて頂きます!」
「えっ?ちょっと!メールって?」
しかしジルの携帯はプツンと切れた代わりにメールが新着一件届いた。
ジルは用心深く付属のウィルス探知機でチェックした後、メールを開いた。
どうやら御月製薬の北米支部の極秘研究所のハイブに捕えられていた
実験体HY006と呼ばれた少女の手記のようだ。
手記の内容は短かった。手記の内容は以下の通りである。
「一日目。
あたしは御月製薬の極秘施設ハイブにいるわ!
得体の知れない化け物に襲われた後、
あたしは今の狭い部屋に密閉されたわ!
今のあたしはなんともないわ!
傷口のかさぶたも剥がれて治っているわ!よかった!
 
2日目。
なんだか。頭がぼーつとする。
ただひたすら眠い。なんで?ぐっすり寝たのに。
まだまだ足りない。もっと眠りたい。
でもなんだか全身が暑くてむず痒い。
幾らかきむしっても治まらないわ。
今日助けに来てくれる人はいるのかしら?
あたしも化け物になるの?もし?死んだとしても!
この手記が善き人に渡れば……。
きっと御月製薬の不正を暴いてくれる筈!
(ここで彼女は書くのを止めている)
その彼女の手記を読んだジルは御月製薬に対し、
今まで同じように強い憤りを感じた。
間も無くして再びメールが来た。
今度はクエントからだ。
「先程、T-エリクサーの投与実験にされたラッキー・キャンディ、
本名はレイン氏をBSAA医療施設に移しました。
現在!生き証人として厳重に保護中。
彼女の証言が裏付けとなり、バイオテロ評価委員会から
御月製薬北米支部強制捜査が決定されました。
これからBSAA北米支部で作戦を伝えるので。急いで来て欲しいです。」
「いよいよね」
ジルは携帯をしまい、玄関に出ると
アリスを時間通り、幼稚園のバスに乗せた。
その後、自分も緑色のバイクに乗り、BSAA北米支部へ向かった。
 
(第26章に続く)