(第24章)孫へのメッセージ

(第24章)孫へのメッセージ
 
昆虫の標本をじっと見ていたクエントは2階の個室の
机の上に置かれた書き掛けのメモを確認した。
しかし残念ながら特に今回の『R型』暴走事件の
手掛かりになりそうな内容では無かった。
ふと烈花が何かを思いついた様子で静かに口を開いた。
「なあーもしかしたら?クレーマータックはシャーロットかも?」
そう言うと烈花はクエントに持っていたシャーロットのメモを見せた。
するとクエントは大きく唸った。
「成程!可能性がありますね。
ですが彼女は『R型』の暴走直後から逃げ回り、怪物化したシイナに
助けられてあのテラスだと思われた実験室に閉じ籠っています。
それは我々が反メディア団体ケリヴァーのメンバーの
スーザンの通報で事件が発覚する以前の出来事です。
彼女が大ホールで気絶しているゾイさんや私や烈花さんの
ポケットにカセットテープを入れるのは不可能でしょう。」
「じゃ!テレビや映画で良くあるその共犯がいるとか?」
「成程、可能性はありますね。閉じ込められていた彼女が
共犯者に指示を与えて、我々のポケットに
例のカセットテープを仕込ませた。
あとはゲームの成り行きを閉じ籠っている
真犯人のシャーロットが監視カメラで観察する。」
「真犯人は誰かが目星は付いて。あとの問題は共犯が誰かですね?」
烈花は両腕を組んで考え込んだ。
「流石にシイナでは無いでしょう。
シャーロットもたまたま閉じ込められただけで
真犯人ではないかもしれませんし。」
そう言いながらもまたあの昆虫の標本に目を向けた。
「この昆虫に標本は荒らされた形跡があります!」
さらにクエントは昆虫の標本内の青く輝く甲虫が
スイッチになっているのに気付いた。
試しに押して見た。
カチッと言う音のあと奥にあった水槽に溜まっていた
濁った水が抜かれて空になっていた。
続けて烈花が部屋の隅へ行き、そこから空になった
水槽を横に肘を付け、押すと意外と簡単に動いた。
多分、水が入った状態では恐らく重くて無理だったのだろう。
クエントは何気に部屋の右側の壁、水槽の置いてあった場所の
近くにあった大きな茶色の棚に肘を付けて、押した。
すると壁に観音開きの小さな扉があった。
クエントは観音開きの扉を両手で左右に開けた。
中には残念ながらXの宝箱では無かった。
しかし中には一本のビデオテープが入っていた。
どうやら昔懐かしの8mmのテープらしい。
一方、烈花は直ぐ近くの小さな机の上に埃まみれの
古びたテレビが置かれていたのが見えた。
更にご丁寧に古びたビデオデッキがあった。
それもまた昔懐かしの8mm専用である。
クエントはすぐさま8mmテープを
ビデオデッキに入れてテレビを付けて見た。
しばらくザーザーザーと砂嵐とノイズが続いた。
間も無くしてテロップに1998年5月20日と表示された。
これは丁度、Tウィルスを使用したBOW(生物兵器
ケルベロスによる20歳前後の若い女性のバラバラ死体が
ラクーン市内シダー区マーブル川の左岸で
発見された事件が発生した頃である。
勿論、烈花もクエントから聞いた事があるので知っていた。
続けてピーピーピーと言う音がしばらく続いた。
間も無くしてテレビ画面に長い茶髪にぱっちりとした青い瞳。
白い肌をした美しい青年の顔が映し出された。
「まさか?彼は?」
「えっ?知っているのか?」
「間違いありません!ジェームズ・マーカスです!」
「確かあの洋館の大ホールのあの老人の??何故だ??
まさか?T-ウィルスで若返ったのか?」
間も無くしてマーカスと思われる美青年は話し始めた。
「良く聞け!静粛に所長のマーカスである!当研究所の指針を告げる!
忠誠は服従を生み!服従は規律を生む!
規律は力となり!その力が全ての源となる!
私はアルバートとウィリアムに裏切られ!殺された!
しかし可愛い女王ヒルが体内に入り!
私は長い年月を掛けて女王ヒルに自らのDNAを差し出し!
とうとう復活した!私アンブレラ社に復讐を誓う!そして!
私は……私は!うっ!ぐぼぼぼぼぼぼぼおぼぼぼぼっ!」
テレビ画面の中のジェームズ・マーカスは自らの口から
ボタボタと大量の29cm余りの茶色の蛭を吐き出した。
彼は口から透明な粘液と涎をボタボタこぼした。
「私は復活した!そう!しかし!
仮に私がアンブレラ社に滅ぼされようとも!
私の可愛いヒル達やT-ウィルスや
BOW(生物兵器)の研究成果は残り続ける!
そして!私は!私の手から離れたT-ウィルスを持つ
蛭達が子孫を残してくれていると信じている!
そう!私の孫がいる!きっと!現れる!
これから何十年!何百年の未来に!
そして私の意志を継いだ孫はお前達を苦しめるんだ!
出来ればこのまま世界を支配して生き延び!
私の孫を……見たかった……見たい!これはメッセージだ!
孫が見てくれたら……蛭の……私の……かわいい子供たちの……」
やがて8mmテープは止まり、自動でデッキが出て来た。
烈花とクエントは暫く無言だった。
間も無くして烈花は口を開いた。
「もし?これを『R型』やシイナが観たら……」
「さあーどうでしょうね」
クエントは何故かそっけなく返すと
BSAAの服に8mmのカセットテープをしまった。
それから二人は個室を出ると今度は反対側の左の茶色のドアに近づいた。
クエントは慎重にドアノブを回した。あと開けようとした。
バアアアアアン!と言う騒がしい音と
共にいきなり茶色のドアが高速で開いた。
「のわあっ!」とクエントは咄嗟に飛び退いた。
そして何も無い所で躓き尻餅を付いた。
部屋の中から「うわあああっ!」「あああっ!」「うええっ!」
と3体のプラントデッドが次々と出て来た。
すかざす烈花はハンドガンの引き金を引いた。
クエントもどうにか立ち上がり、両手でマシンガン構え、引き金を引いた。
一匹はクエントのマシンガンでハチの巣となり、仰向けに倒れた。
続けて2匹目もマシンガンでハチの巣となり、うつ伏せに倒れた。
最後の一匹も烈花のハンドガンの高速撃ちにより、力尽きようやく倒れた。
「びっ!ビックリしました!」
「全く油断も隙もない!」
烈花がそう言った途端、彼女に撃たれて死んだ筈の
一匹のプラントデッドが「あああっ!」と大きく呻き、起き上がった。
しかし烈花は急に起き上がって来たプラントデッドに全く動じる事無く、
サバイバルナイフでプラントデッドの首を素早く切断した。
切断されたプラントデッドの頭部はゴロゴロと床を転がって行った。
切断面から大量の血を噴き出し、やがて首無しの胴体は仰向けに倒れた。
烈花は何かを堪える様に強く奥歯を噛みしめた。
「うっ!助けられなくて……すまないな!」
烈花は小さく呟くと再び死体に帰って行った
プラントデッドに手を合わせ、合掌した。
「ちゃんと!弔ってやりたいが……」
「何とかしますよ!BSAAの代表がいますから!」
クエントは申し訳なさそうにプラントデッド達、
元反ディア団体ケリヴァーの
メンバーの人間を見ている烈花を安心させようとそっと優しく答えた。
それから反対側の開きっ放しのドアから部屋の中に入った。
反対側の部屋の中は寝室の様だった。
部屋の中央には白いシーツが掛けられたベッドが2つあった。
部屋の隅には誰かの荷物が置いてあった。
どうやら反メディア団体ケリヴァーのメンバーの物のようだ。
また大きな棚の上にはスマートフォンが置かれていた。
どうやらスマートフォンの持ち主はシャーロットのものらしい。
クエントは調査の為に彼女のスマートフォンを操作した。
やがてシャーロットのスマートフォンの動画ファイルから
『生物学的に貴重な映像』とだけタイトルされた動画が一件見つかった。
烈花は2つの内の右側のベッドの白いシーツの上に
反メディア団体ケリヴァーのメンバーと思われる手記を見つけた。
この手記を書いた人物はケイト・ブランジェットと言う人物らしい。
 
(第25章に続く)