(序曲)黒き烏に捧げる鎮魂歌

牙浪Xバイオハザード外伝
魔獣狂騒曲(ホラーラプソディー)
 
(序曲)黒き烏に捧げる鎮魂歌
 
ニューヨーク市内にある秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷。
HCFのリー・マーラの取引を終え、
自室から彼女を送り届けた後、自分は屋敷に戻った。
ファミリーの長であり、シモンズ家の現当主のジョン・C・シモンズは
シモンズ家の豪華な部屋に入って行った。
その中には幾つかの家具や木の机の上に置かれた棚の上には
薬の入った袋や注射針が置かれていた。
中央には豪華な白いシーツが敷かれたふかふかのベッドが一台置かれていた。
更にベッドの脇には最新式の車椅子が置かれていた。
車椅子には一人のおばあちゃんが座っていた。
そのおばあちゃんはシルクの赤い服を纏っていた。
真っ白な短い髪は先端がぴんと立っていた。
額には年相応の皴があった。
おばあちゃんは青い瞳でジョンの顔を真摯に見た。
ちなみにおばあちゃんの青い瞳は自分やディレックには
遺伝しなかったが他の兄弟や姉妹には受け継がれている。
そして目の前にいるおばあちゃんは僕やシモンズ家の最長老にして
僕やディレック、シモンズ家の兄弟姉妹の曾祖母のアリシア・C・シモンズである。
アリシアはジョンを青い瞳で静かに見据えた。
「元気そうね!ジョン!いやベルゼビュートかしら?」
ジョンは本来の人間を捕食する魔獣ホラーの名で呼ばれ、
思わずアリシアから目を逸らした。
そうおばあちゃんは人間だ。でもー。
アリシアおばあちゃんは何でもお見通しだ。
なんせ、おばあちゃんは100年も生きている。
だから多分、人々の善悪を絡めた色々な人間関係を見てきたから
きっと経験上何となく分かるのだろう。直感的に。
でもおばあちゃんは僕が人間からホラー化しても
僕が『シモンズ家の愛しい自分の息子だ』という真実は変わらないと言ってくれた。
またおばあちゃんはそのホラーに対して強い興味を持っていた。
また逆に僕は人間に興味があった。もちろん食い物としてじゃない。
やがてアリシアはまたジョンの顔を青い瞳で静かに見据えるとゆっくりと口を開いた。
「さて!ジョン!例の賢者石バエル細胞の研究は?」
「ある程度遺伝子解析が進んでいるよ!おばあちゃん!」
「人間とホラーの融合。暴走して人間を根絶やしになるまで食い殺す事無く
ある程度の理性と自我を持ち、元の人間の感情と記憶が存在し、
高い戦闘能力と自衛本能を持つ新人類を創造出来たら?」
「おもしろいかーうーん、おばあちゃん。」
「まあ―出来ればだけどね!最近長生きをしすぎちゃって!
老後の楽しみがなかなか見つからなくてね。」
アリシアは優しく口元を緩ませ、ほほ笑んだ。
「それと!例のその細胞のオリジナルは?」
「魔王ホラー・バエルだね!彼は人間を捕食して女と接触……つまりセックスを……」
ジョンは躊躇しながらも答えた。
「それで?あのビアンカ以外の感染者は?」
「現在!マルセロ博士をリーダーとした調査チームの報告によれば!
ぺルシッサ・ウィッチャーを初め、日本人や他のイギリス人、
ドイツ人、オランダ人、オーストラリア人と様々な人種と接触している模様。
また女性と接触したと思われる現場からいわゆるカイコガや蜘蛛、蜂等の昆虫に
よく似たフェロモン物質が周囲の空気から検知されています。
これらは生殖に関係する性フェロモンとよく似ています!
また実際に彼にあった時に全員共通してー。
「凄く甘ったるい匂いが彼の体からした」と証言しています。
また当の本人は全くそんな匂いはしなかったらしいです。
またマルセロ博士がフェロモン物質を採取して詳しく分析した結果。
人間と昆虫に近い未知の遺伝子が検出されました。
しかも現在アメリカ遺伝子研究所に持ち帰り、実験の結果、
人間の女性以外にもゴキブリやハエ等の雌の昆虫類。
雌の蜘蛛やサソリ等にのみ効果がある事が分かりました。」
「種を維持する為に自らの子孫を残す為の能力があたし達人間よりも優れているのね」
「確かにそうですが……」
ジョンとちらちらとアリシアから目を逸らし、答えた。
「ジョン!何も男女がセックスするのは悪い事じゃないわ!
全ての生物は自ら子孫を残し、人類という種族の数を維持するのに必要なの。
これは本来は自然の営みなのよ。だから悪い事じゃないの。」
アリシアは悪びれた様子を一切見せる事無くジョンに返した。
しばらく二人は黙っていた。
しかしすぐにアリシアは話をつづけた。
「それにセックスは人間の男性と女性がもっと深い感情で
コミニュケーションを取る手段の一つよ。
まあ他にも公の場では言語やジェスチャー、文章を書く、
ネットのSNSやブログ、掲示板にパソコンのキーボードで想いを叩いて書くとか
色々方法はあるのよ。コミュニケーションの方法はね。貴方には理解できるでしょ?」
「ああ、そうですね。これも生きる為、だから人間は……」
「そうよ!人間と人間がコミュニケーションを取るのは生きる為ー。
そして人類が種として維持するのに必要な事なの。
これら全て……ね。もちろん同意のないセックスやただの私欲だけで
強制的にセックスするのは犯罪者のする事よ!
周囲の人間に不快な動画や画像を公の場で出すのも一方的な
想いだけで他人をストーキングしてDV(ドメスティックバイオレンス
をして無理矢理、自分の欲望通りに動く操り人形に変える。
かつての仲間であり、息子、いや、息子と呼べないわ。あのー。」
「ディレック・C・シモンズですね!あいつはー。」
「バカな息子よ。断罪されて同然よ!」
「ごもっともです!だから我々は見捨てた!」
アリシアは優しく微笑み、こう返した。
「その通りよ。息子は息子と呼ぶ必要はなくなった。だから見捨てられたのよ。
それだけの事よ!我々のルールを守らなかったのだから。」
「それでおばあちゃんはあの『賢者の石バエル細胞』を利用して
新人類を産み出す。そんな計画を。」
「ええ、あのディレックのやり方じゃ我々秘密組織ファミリー、
いや、シモンズ家の『世界の安定』、つまり『ファミリーに有益な世界情勢』
にはなり得ない。そう、例えあのCウィルスや強化型Cウィルスを
使って人間を超えた新生物になろうともね。結局あの男が招いたのは混沌であり、
ファミリーにとって無益な世界情勢になっただけ。」
「でも、僕は違う。僕はー。」
「そうね貴方はホラーに憑依される前からおばあちゃん子だったものね。」
間も無くして「失礼します」と言う声と共に黒いドレスと両耳に赤色の大きな
涙型のイヤリングを付けた大人びた凛とした顔立ちに両頬まで伸びた
茶色のアメリカ人の女の子が入って来た。
ジョンは静かにつぶやいた。
「ぺルシッサ・ウィッチャー?確か……君は……」
ちなみにウィッチャー家のぺルシッサとシモンズ家の
ジョンとはあのカペラ家と同様に親戚同士である。
「ぺルシッサ!一体?今日はどうしたんだい?」
「実は貴方との親戚同士の間柄を良くしようとね。それで!
妊娠しているの魔獣ホラー・バエルの子供をね。」
とぺルシッサは何処か機械を思わせるぎこちない口調でそう言った。
ジョンが驚きを隠せない表情に対してアリシアは口元を緩ませた。
「そう!人間の血や肉や魂を食らう魔獣ホラー。餌になる人間。
餌になる人間を守る為に魔獣ホラーを狩る天敵の魔戒騎士と法師の人間。
賢者の石の力を持ち、黒い縞模様の緑色の異形の
戦士と赤色の異形の戦士のアンノウン。
新たなホラーの天敵。そして賢者石バエル細胞を
持つ新人類がホラーと人間の両方を持ち、
人間を食らうか?人間を守る為にホラーを狩るかどちらも選択できる存在。
ぺルシッサから生まれる子供よ。他にもいるかも?」
するとぺルシッサは両手で黒いドレスの裾を両手で掴んだ。
そして両頬を紅潮させ、恥ずかしそうにゆっくりと捲り上げた。
ジョンは思わず大きく息を飲んだ。
ぺルシッサの下腹部の臍の辺りの皮膚に2対の刺し傷があった。
「でも!おばあちゃん!そんな生態系を持ち込んで本当にファミリーの
最も有益のある世界情勢になるのかな?」
「さあー!やってみないと何も始まらないわよ!」
アリシアとぺルシッサは口元を緩ませてにやりと笑った。
ジョンは自室へ戻った後、メイドのメアリーにある頼みをした。
メアリーは「かしこまりました」と答え、彼の自室を出て行った。
間も無くしてメアリーはある資料を持って戻ってきた。
「組織のネットワークで調べてみましたがやはりご主人さまのご察しの通りです。」
メアリーは持ってきた資料を見ながらジョンに説明した。
「あのペルシッサ氏は1年前に高層ビルの屋上から飛び降り自殺したそうです。
彼女は『学校で好成績の令嬢として両親や先生等の大人から
過度の成績の期待をさせられていた事と自分の好きな趣味を
周囲の生徒や両親に全否定され、付け加えて周囲の同級生から疎まれて、
奪われた挙句、陰惨なイジメを苦に自殺したもようです。」
「酷いものだね。アーリントン墓地に彼女の墓があるようだね。」
「しかし遺体のない墓です。遺体に賢者石バエル細胞のオリジナルの
ジルの賢者の石を注入され、完全に死から蘇ったようです。」
「生ける死体。通りで何処か機械を思わせるぎこちない口調でしゃべると思ったよ。」
『光あるところに闇がある。』
でも光と闇が交わったら?一体?こちら側(バイオ)の世界は一体?
どうなるのだろう?
そして全ての物語はジョンの疑問から始まったのであった。
 
(第1楽章に続く)