(第49楽章)彷徨う霊魂達の鎮魂歌(レクイエム)

(第49楽章)彷徨う霊魂達の鎮魂歌(レクイエム)
 
ジルの自宅。
アリスとダーマとモトキの3人は仲良く川の字でベッドに眠っていたが
朝6時には必ず起きて朝食を食べた。今日のメニューはジルの野菜炒めと
チャーハンとミソスープ(みそ汁の事)である。
3人は朝食の後、アリスの提案により実は自分は気まぐれで
ホラーゲーム実況をしている事を三人に話した。
2人はゲーム画面にのみでジルの自宅内とアリスの部屋を
自分達の顔は撮影しないと言う事を条件にアリスのホラーゲーム実況に参加した。
今回はアリスのYouTube(ユーチューブ)のチャンネルでFISCHRRS(フィッシャーズ)
のダーマとモトキのコラボと言うように動画を取る事になった。
それからモトキ、ダーマ、アリスは母親のジルの部屋のカーテンを閉め切って
なるべく真っ暗にしてホラーの感じを演出した。
今回プレイするホラーゲームは
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ2』である。
ジルのパソコンでゲームだけと言う条件付きで借りているという感じである。
「前作はアリスちゃんがプレイしたんだよね?」
モトキの質問に「うん」とアリスは元気よく答えた。
「今回は『2』か?どんなホラーゲームだろう?」
ダーマは興味津々と言った感じでアリスに尋ねた。
アリスはいつものように視聴者さんとモトキとダーマに
ゲームの説明を手慣れた口調で行った。
「これは1987年のお話で前作とは過去の話なの」
「フーン大体10年前の話か?へえー」
「トップバッターはモトキさんで!」
それからモトキは早速、パソコンのマウスを動かしてパソコン画面の
ノイズの中から僅かに見えるヒヨコとウサギと
熊の並んだ画面の下部のニューゲームをクリックした。
そしてパソコン画面には新聞のバイトの募集の広告の記事が現れた。
そして写真にあのウサギと熊とヒヨコの人形がギターや
お菓子を持ってイエーイとポーズをしていた。
丈夫には『HELP WANTED』と書かれていた。
「バイトの募集?バイトって何?」
「夜のピザ屋さんの警備のバイトよ」
「えっ?ピザ屋のバイト?僕達出ちゃったんだ!」
「そうだーね。ふーんかな?」
「なんだよそれ!」モトキはまるで他人事のように
鼻を鳴らしたダーマにビシッと突っ込んだ。
それからパソコンの画面は一時的に真っ暗になり『12:00』と表示された後、
また画面が真っ暗となり、次の画面には狭い部屋が映し出された。
どうやら警備員のプレイヤーは椅子に座っているらしく木の机には書類や
飲みかけの青いカップ紙クズが転がっていた。
目の前には扇風機とテレビを挟んで中央は四角のドアの無い
出入り口と思われる空間があった。
更にマウスを動かすと左右のスイッチやダクトも見えた。
やがて電話が鳴り、男の声が聞こえて来た。
「ハローハローんっ?何々?」とモトキ。
「んっ?これでどうするんだ?」とダーマ。
「えーとコントロールキーでフラッシュライト。それと被り物。
後は監視カメラもコントロールキーのそれで」
モトキはキーボードを操作して動作確認をした。
「それでモトキさんを衣装を着ていないから内骨格と間違って皮を着せてくるの。」
「んっ?んっ?皮って?着ぐるみの?」
「んっ!それ!着せられると色々な骨組みの梁やワイアーが
全身に突き刺さってズタズタになって死んじゃうの」
「ちょっとまって!ちょっとまって!こえーこえーよ!」
モトキはアリスの説明を聞くなり、ハハハハッと笑い出した。
「やべーな。やべーぞ。このバイト(笑)」とダーマ。
「だから5日間きちんと中身の無いフレディの頭を被って。
ライトを使って左右のダクトの中央を照らして。
チカやボニーやフレディが近づかないように見張らなきゃいけないの」
「チカ!ボニー!フレディって?あのウサギとヒヨコと熊の人形?」
「うん!そう!そいつらよ!夜中に勝手に動き回っているの!」
「まって!それって!ヤバくない!」
「スイッチ切っておけよ!マジで!」
「実はね!夜間は錆防止の為に自動徘徊モードになっていて歩き回っているの」
「何それ?こええーっ!ピザやヤバくね?」
「いや!ヤバいどころじゃないでしょ?ブラック過ぎないか?」
「そうだね。人殺す人形が歩き回っている時点で一人で警備なんて凄く怖いでしょ?」
「これシルクだったら『マジでふざけんなよ!』って叫んでいるよ!」
アリスもダーマもモトキも大爆笑した。
「確かに奴ならそう言いそう!言いそうだな!アハハハハハッ!」
「モトキも頑張れよ!フフフッ!フフフッ!」
「おい!この!ダーマ!他人事だと思ってよぉ!他人事だと思ってよぉ!」
モトキはパソコンのキーボードを指でいじり、マウスを世話し無く動かして
クリックして動かしてクリックしながら
その殺人人形(本当は違う子供達のマスコット)
のフレディ、チカ、ボニーが入って来ない様に中央の空間、左右のダクトに
ライトを当てて『いる』かどうか確認して、3匹が最初の倉庫の中にいるか確認して
いなくなれば店内の複数の監視カメラの映像を見て、そのボニー、
フレディ、チカの行方を捜す。自分自身は移動出来ないので
その部屋の中でずっと同じ作業を延々と繰り返す。
単調でシンプルだが部屋の中に入ってくるか?来ないか?とにかくドキドキしていた。
またアリスが言うには今作は監視カメラの傍にあるツマミを
マウスホールドで回し続けないといけないらしい。
つまり常にオルゴールの音を出し続けないとヤバいと言う(笑)
しかし不意にモトキが何気なく右側のダクトのスイッチをマウスで
クリックしてライトを付けた途端、黄色のヒヨコのチカがダクトの中からぬっと
顔を出していたのでモトキはビクンと全身を震わせた。
「うおっ!」と驚いて声を上げて、直ぐにフレディのからの頭を被った。
やがてフレディの頭の内側の目になっている
穴から両手の黄色のヒヨコ翼を左右に広げて
オレンジ色の嘴の内側から無数の鋭い牙を剝き出し、オレンジの瞳でしばらく
ずっとプレイヤーの警備員(この場合はモトキ)の顔を見ているチカが見えた。
「んんっ!んんっ!ヤバい!ヤバい!」
しかししばらくすると目の前にいたチカが消えたので本来ならもうフレディの
人形頭部を外して良かった筈だったがモトキは怖過ぎてなかなか外せずにいた。
「早く外さないと別の奴が来ちゃう!」
「早く外そうぜイエーイ!」とアリスとダーマに急かされて
ようやくモトキはフレディの頭部をマウスで操作して外した。
その時、いきなりパソコンのゲーム画面の狭い部屋の何処からか
「ハアイッ!」と言う子供の声が聞こえて来た。
途端にモトキは驚き思わず「うおっ!」と声を上げた。
続けてモトキは慌てふためいた様子で声を上げ続けた。
「えっ!ちょっと待って!少年?子供の声がしたんだけど!何々?」
「待って……聞こえる……」
「何が聞こえるの?子供の『ハイッ!』って声?」
「違うのよ。この家のある空間から……パソコンのゲームの声じゃない」
「んっ?」「何が?」「えっ?」「マジで?」「リアルなの?」
それからモトキとダーマは聞こえるかどうか試そうとまずは
パソコンのスピーカーを消音にして息を殺した。
しかしいくらモトキとダーマが耳を澄ましても何も聞こえなかった。
家がはパソコンのスピーカーを消音にしたので何も聞こえない。
正に家の中もジルの部屋の静寂に包まれていた。
だがアリスの耳にははっきりと聞こえていた。
最初は名状し難い冒涜的な意味不明な言語だった。
やがて徐々にお経に似た一定にリズムを持つ不気味な言葉に変化して行った。
それは歌にも聞こえるし、ただの不気味な言葉にも聞こえた。
正体不明の『それ』はジルの自宅のジルの部屋の空間の中にしばらく留まっていた。
とにかく訳も分からず不気味で夏の暑さなどぶっとび、アリスは冷や汗をかいた。
ダーマは普通でそのおかしなお経に似た一定にリズムを
持つ不気味な言葉は一切聞こえていないようだった。
モトキがジルの部屋の異変にいち早く気付いた。
「あれ?あのパソコンの置いてある部屋の隅の
空間が歪んでいるような気が……あっ!消えた!」
ダーマはそこを見たが既に心霊現象は消え去っていた。
同時にアリスの耳からそのお経に似た不気味な言葉も
あっと言う間に遠くへ走り去るように消え去った。
それからアリスの耳にも何も聞こえなくなり、正直ほっとした。
やがてジルと鋼牙がジルの部屋に入って来た。
「みんな平気か?」「無事なのね?良かった!」
それから鋼牙とジルは安全の為に再び家の中の隅々まで
調べ回っていたが何もないと判明して安心した。
どうやら単にこの家を通り道にしていただけのようだった。
正体不明の『それ』が何なのかはアリスにもジルにも鋼牙にも
モトキにもダーマにも皆目見当がつかなかった。
 
秘密組織ファミリーの本部に当たる大きな屋敷のジョンの自室。
彼は朝になっても例のプレステーションポータブル型の魔道具のゲームを通して
こちら側(バイオ)の世界とは全く異なる世界を覗いていた。
そしてある出来事を思い出した。
僕は一ケ月前にニューヨーク市内の古びた教会内に毎月24と25日になると
教会の大聖堂に新しく夫婦となった男女の幽霊が出てくる事をネットの噂で知り、
興味を惹かれて、夜こっそりと行った事があった。
噂によれば結婚式中に無念の死を遂げた夫婦がもう一度、
愛の誓いの言葉とキスをしようとする為に現れるというものだった。
ジョンは教会でその新婚夫婦に出会った。話している内に彼らの事情を知った。
あの新婚夫婦はこちら側(バイオ)の世界とは違う別の世界から流れ出た幽霊で
別の世界に残して来た思うとと仲間達が忘れられずここに留まっていると言う。
さらに『自分のいない世界』、つまり姉の存在が消えた世界に時空を改変した為
姉である花嫁の自分は肉体も魂も存在出来ないのだと言う。
花婿はそれを変えるべく方法を探しているらしい。そこで僕はこう提案した。
「僕が君達の存在する世界を創造するのを手助けをしよう」
僕は右目の瞼を閉じてもう一度開いた。
その瞬間、彼に左目は七色にらんらんと輝いた。
同時に目の前の時空の歪みがグルグルと渦巻きのように回転し続けた。
 
(第50楽章に続く)