(第59章)ポーカーフェイス

(第59章)ポーカーフェイス

再び雪がちらつき始めた北海道網走市で、
サンドラはしばらくゴジラの様子を伺った後、
何が気に入らなかったのか、
突然、怒りの咆哮を上げ、ゴジラに再び突進し、
長い爪を見境無く振り回した。
 さすがのゴジラも彼女の怒涛の攻撃には驚き、
彼女の長い爪はゴジラの右肩や右胸を容赦無く引き裂いた。
更にサンドラは鋭いかぎ爪でゴジラの頭を掴むとそのまま持ち上げ、
かぎ爪の刃を食いこませ、大きく右に振り回し、ゴジラを投げ飛ばした。
 ゴジラは逆さまの体勢のままビルにぶつかり、瓦礫の下に倒れた。

 ゴジラの背びれが青白く輝き、ようやくフラフラと立ち上がった途端、
サンドラに一瞬で間合いを詰められ、ゴジラが放射熱線で反撃する間も無く、
長い爪がゴジラの胸を突き刺した。
ゴジラは放射熱線の代わりに口から血を吐き出した。
その長い爪は幸いにも心臓から数cm外れていた。
しかしその爪は胸から背中にまで貫通していた。
 サンドラは5万5千トンもの体重があるゴジラを軽々と高く持ち上げ、遠くへ投げ飛ばした。
 投げ飛ばされた身体は網走厚生病院近くの廃墟となった街に落下した。
 しばらくして大量の雪煙が止み、倒れているゴジラが瓦礫の下に埋まっていた。
ゴジラはその場から全く動けなくなった。

 網走厚生病院の地下避難所で洋子は女子トイレに入り、凛を探した。
山岸は男子トイレに入り、蓮を探した。
山岸は「見つからない……そっちは?」
洋子は
「こっちも駄目よ……」
その時、
「何をしているの?」
と女性の声が聞こえ、2人が振り向くと長野先生が立っていた。
山岸は
「実は!蓮君と凛ちゃんがいないんです!」
長野先生は
「大変!早く見つけなきゃ!」
しかし山岸は
「それよりも!ここの職員や警備員にそのことを知らせた方が……」
と言い掛けたが既に長野先生は走り始めていた。
洋子は長野先生の不審な行動が気になり、後を追い始めた。
山岸も
「待って!ヤバいよ!」
と言って2人の後を追った。
しばらく3人は走り、すでに封鎖された筈の避難用の階段の隣にある脱出用の階段を昇り始めた。
しかし天井は頑丈なカギがしてあり、出る事は出来なかった。
長野先生はカードキーを取り出した。
洋子は
「そのカードキーは?」
しかし洋子の質問を無視して長野先生は黙々と作業を進めていた。
やがて天井のドアが開き、ドアに掛けられた丈夫な鎖を跳ねのけ、とりあえず3人は外へ出た。

 真鶴での会議を終えたトオルとビリーとロシア人は自家用機に乗り、
シベリアのツングース地方にある研究所へ向かった。
そこで宇宙服に着替え、ロシア軍極秘の施設へ入って行った。
 そこで3人のロシア人の研究員が
巨大な白いテーブルの上に段ボールから幾つものシャーレを取り出した。
その幾つものシャーレには様々な地層から採取された土が年代順に並べられていた。
それは右から以下の順である。
「癸隠坑娃検Α愼酳謄戰優坤┘蕕稜帯雨林』」
トオル
「南米のベネズエラ熱帯雨林から採取した土がどうしてここに?」
更に次のシャーレのラベルには
「癸隠坑苅押Α愿豕?僂粒つ譴悩亮茵戞
と書かれていた。
ビリーは
「だから?こんなに厳重なのか?」
トオル
「……初代ゴジラの高濃度の放射能とか?微小のデストロイアがいるかも知れませんからね!」
とつぶやいた。

 網走厚生病院の広場に作られた事情聴取用のテントの中
でガーニャはふとレベッカの今までの態度に不信を持ち、
「お前は何故、サンドラに2人の仲間が目の前で殺され!
FBI捜査官にM塩基とウィルス同一説を否定されて!
しかも俺に事情聴取をされて?精神的に追い詰められている筈だろう?
どうしてそんな余裕があるんだ?何故笑みを浮かべられる?」
 確かに彼女の今までの態度はおかしかった。

 あの時、目の前で仲間2人をあんな酷い殺され方で殺され、
彼女は精神的にかなりのショックを受けている筈である。
 しかも元FBI捜査官にM塩基とMウィルスに関しての論争。
普通精神的ショックを抱えて落ち込んでいる人間あるいは
宇宙人がここまで熱い論争を繰り広げられるだろうか?
ガーニャは無理だと思った。
悔し涙までしている?
仲間が死んで悲しくて泣いているならまだ理解出来る。
しかし気の毒に思っていても悔し涙など仲間を殺された後に簡単に出るものだろうか?
それではあまりにも精神的な立ち直りが早すぎないか?
または自分の事しか眼中にないか、どちらかだろう。
ガーニャの心中には幾つもの疑惑が渦巻いていた。
ひょっとしたらこの作品を読んでいる読者も彼女に対して
同じ疑惑を持っているのでは無いだろうか?
果たして彼女のポーカーフェイスの真意は?

(第60章に続く)