(第17章)エリート教師の苦悩

(第17章)エリート教師の苦悩

担任の先生は嬉しそうな顔をすると
「我々のクラスの生徒の中には国連の分子生物学者の娘がいる!!
その彼女には家の学校の看板を背負って欲しい!!」
と大声で言っていた。
友紀は少し呆れた様に
「それは無茶だと思うわ……」
ひとり言を言った。
山岸も
「凛ちゃん……国語や体育とか色々できるけど……理系は全然
得意じゃないからな……これなら高校2年生の時の先生の方が良かったな……」
先生は友紀と山岸を指さしながら
「そこの2人!!何ブツブツ言っているんだ!!」
と怒鳴った。やがてテストの答案が配られた。空席になった凛
の机にもテストの答案が置かれようとした時、友紀が先生の顔
を見ると、先生は怒りで震えていた。
「何故だ??何故??国連の分子生物学者の娘なのに??
どうして数学で30点しか取れないんだ??国語や社会は10
0点なのに??理科も40点??どうしてだ!!」
山岸と友紀を初めクラスの生徒達は笑いをこらえるのに必死だった。
しかし山岸は空席になった凛の席を見て
「凛ちゃん……無事だといいけど……」
とつぶやいた。山岸の隣から友紀が心配そうに
「多分……何かの事件に巻き込まれたのかも……」
とヒソヒソ声で言った。
山岸は
「そう言えばさっき保健室で寝ていた時、凛ちゃんの夢を見た
んだ……目隠しをされた凛ちゃんが狭い部屋に閉じ込められて」
友紀は
「警察か地球防衛軍に知らせた方がいいと思うけど……知らせ
てもの信用してくれるかどうか分からないわ……」
と言った。
凛がバイトしているラーメン屋で1人の高校の教師がラーメンを食べながら考え事をしていた。
「何故だ??何故??暴力団繫がりの不良と国連の娘が
普通に仲良く付き合っているんだ!!分からない!!」
そこに山岸が通りかかった。
山岸は
「ヤバイぞ!!ウチの先生が……
凜ちゃんのバイト先でラーメンを食ってる。見つからない内に早くずらかろう!!」
と思ったとたん、
「おい!!山岸!ここで何している?」
と声をかけられた。山岸は
「先生こそそこで何してるんですか??」
と逆に質問した。担任の先生は
「いや……いろいろ悩みがあって……どうして凛さんは暴力団
の不良娘と友達なんだ??」
担任の先生の意外な質問に、隣に立っていた山岸は
「それは色々あって……」
と言葉に詰まった。
先生は酒の勢いで
「何故かうちのクラスにはグループが無い!!あんなクラスは
初めてだ!!」
と長々と語り始めたので、山岸は
「えーと今日は塾で忙しんで!!これで失礼します!!」
と言うとあわててその場を立ち去った。
その途中、ラーメン屋のすぐ傍の道に最近の新聞の切れ端を発見した。
山岸は
「ゴミを捨てちゃいけないな……」
とつぶやくとその新聞を拾った。
新聞の記事切れ端には大きな字で
「未来の長期の宇宙旅行に向けて、コールドスリープ実用化へ」
と書かれていた。丸めてゴミ箱に投げようと思った時、その新
聞記事切れ端の裏に見覚えのある字を見つけた。酒に酔った勢
いで書いたらしく、誤字が明らかに多かった。
山岸は大変な物を見つけた様な気がして、ゴミ箱に捨てようか迷った。
それは女優にあてたファンレターらしく、ただひたすらその女
優の長所を褒める内容が新聞紙の裏いっぱいに延々と書かれて
いた。さらに衝撃的な事が書かれていた。
「実は私は教師をしている!生徒を立派な大人にすることが私
の生きがいです!!あなたが主人公役で出演していた映画『イ
ンストール』の原作を読みましたが、とても面白かったです。
うちの生徒にはあなたに瓜二つの生徒がいます。
あまりにも良く似ているのからなのか、
もしかしたらその生徒に片思いをしているのかもしれない……その生徒の名前は……」
その名前を読んだ時、山岸は驚きのあまり、その場で棒立ちになった。
山岸は担任の先生の意外な素顔に驚きを隠せなかった。
「先生の仮面の下の顔って……ちょっと気持ち悪いな~」
とつぶやいて、公園の時計を見た。

(第18章に続く)